みなさんは、ご自宅でパンを作るとき、『ホームベーカリー(以下HB)』を使っていますか?「私は」と言うと、かなり使っています。というより、パンは必ずHBで作っています。理由は簡単。焼き上がりのパンがとても美味しいからです。そしてパンが焼ける香りが堪らなく好きだからです。あと安上がりでもあります。その上、膨張剤などの化学物質は入っていません。
今回、1)価格の違いは何によっているのか、2)出来上がったパンはどの位味が違うのか、3)味と価格以外に、チェックすべきポイントを中心に、現在販売されているHB 4機種を紐解いてみましょう。HBの購入、使い方のヒントになればと思います。
3つの基本機能
HBはパン作りに必要な3つの機能を備えています。「捏ねる」「発酵(保温)」「焼く」です。それぞれの機能が単独でも使えますので、HBはかなりの食品に応用が可能です。発酵だけさせて、納豆を作ることも可能です。ただ、パンに納豆の臭いがついてはたまりません。
それらを考えて、メーカーが決めているのが、メニューです。HBで一番大切な部分でもあります。
一番最初にすべきメニューチェック
HBを買う時は、とにかく「メニュー」を確認してください。「食パン」「ごはんパン」「フランスパン風」「熟成パン」「全粒粉パン」「天然酵母パン」「ピザ生地」「うどん」などいろいろなパンができます。
欧米のパンが全部出来るように一見見えますが、この「HBのメニュー」に用意されているパンは、全て日本人の口に合うようにアレンジされたものです。
まず基本中の基本である「食パン」。日本で独自進化を遂げたパンと言っても過言ではなく、テレビなどでよく使われる表現「外はパリっと中はふわっ」とが基本です。
「ごはんパン」は小麦の一部を、残りご飯で代用したパン。日本人の主食であるご飯、捨てることはできませんからね、もったいない精神でパンにしてしまいました。食感は米に似てモチモチしています。「フランスパン風」は、いわゆる「バゲット」に近いレシピ。外はパリパリ、中はもっちりとなります。噛み応えも強くなります。こちらは海外で通常食べているパンに近くなります。そして「熟成パン」と「パン・ド・ミ」。低温熟成させたパンとなります。熟成期間で味が深みを増す赤ワインのように、小麦の味が深く味わえます。
ここで重要なのは『自分がどの様なパンが好きなのか、食べたいのか』を確認することです。「食パン」系が好きなのか。「フランスパン」系が好きなのか?「熟成パン」系が好きなのか?それとも最近名を馳せてきている低糖質を追求した「ブランパン」なのか。
HBを買ったはイイが、自分の好きなパンがメニューに入っていなかったら何のために買ったか分からなくなります。
そしてサブメニューも重要です。パンのお供「ジャム」「フレッシュバター」。さらに「ピザ」「うどん」「お餅」。変わり種では「ヤキイモ」まで。各メーカー工夫を凝らしています。ちなみに多くの機種は、本体にメニューが書かれていますので、店頭でもチェック可能です。
とにかく「メニューを確認」する。HB選びはそこから始まります。
次に、このスペックをチェック!
次にチェックすべきは、「タイマー」「持ち手」「ケーブル収納」「ケーブル長」そして「レシピ本」の5つです。
日本の朝食はだんだんパン化されています。パン派は44%。ご飯派よりはるかに多いと言う調査データがあるくらいです。こうなると朝、焼きたてのパンを食べるのが一番。「タイマー」は必需品です。
キッチン道具は、使う時だけ出して使うのが基本です。「取っ手」と「ケーブル収納」。これらがあると、使わない時、楽に棚置きができます。
置き位置とコンセントまでの距離によっては「ケーブル長さ」が問題になる場合があります。
レシピ本は、マニュアルの一部だったり、独立していたりいろいろなパターンがありますが、個人的には、単独本で、できればカラー刷り、丈夫な紙であることが望ましいです。
HB4機種を比較&テスト!
HBの価格差が出やすいのは、1)温度制御&加熱システム、2)レシピの数です。
1)は、「ヒーター」と「IH」に二分されます。IHの方がより正確な発酵、焼きができるのですが、ちょっとお金がかかります。2)もそうですね。レシピが増えると、その分開発経費がかさみます。更に、そのためにアダプターを使うことになると、コストも少しずつ高くなります。
今回は、ベースモデルとして、『シロカ SHB-712/722』、同じくベースモデルながらブランパンという特殊レシピを持つ『ツインバード工業 PY-5634W』、ベースモデルに後投入するレーズン、ナッツ等も自動で投入できる全自動の『パナソニック SD-BMT1001』、そしてヒーターではなくIHを使用した『タイガー魔法瓶 KBX-A』の4機種をテストしました。
テストは、基本である「食パン」と、各機種1つ「これは特徴ある!」と言えるメニューを作り試食しました。「食パン」と言ってもレシピは各メーカー、異なります。今回は1つのレシピでの差ではなく、各メーカーの食パンレシピを使い、メーカーの味とさせていただきました。
シロカ「ホームベーカリー SHB-712/722」(希望小売価格:23,800円(税抜)、市場売価:11,000円〜)
【特徴】
シロカはHBを作るために創業したメーカーですが、『流行している家電が高くて買えないのは良くない』という想いがあったそうです。このため、ベーシック機ながら、機能は充実しており、お買い得モデルと言えます。
しかし、パンのレシピに「ごはんパン」「熟成パン」はありません。また「ケーブル収納」もありません。
サブメニューで特徴的なのは、「フレッシュ・バター」に「フレッシュチーズ」。食パンとバター、そしてチーズが美味いとなると、シンプルとは言え、かなり嬉しい朝食となります。
使ってみるとシンプルな作りですが、実によくできています。後入れの材料は、自動ではなく自分で蓋を開けていれることが必要でが、ブザーが鳴り、教えてくれます。
入門機と言える価格のモデルですが、満足度の非常に高いモデルです。
【食パンテスト&試食の結果報告】
操作感に特に特殊な所はありません。ただ動作音はやや大きめです。食パンの焼き上がりは4時間。皮に焼き色をしっかり付けるには、プラス数分掛かります。
今回、普通焼きでは食パンは天面が焦げるまでに至っていませんが、焦げがないからといって焼けてないわけではありません。
味は濃く、ふわふわ&もちもちに加え、さくさく感という歯ごたえがいい気分です。
【プラス1】フレッシュバター
生クリームを撹拌、固形化したバター。正直、笑ってしまう程、美味しい。バターも生鮮食料品ですからね。冷蔵庫に保存しておいても、風味は落ちます。難点は少々高く付くことです。しかしHBの美味しいパンと、このフレッシュバター、そして手作りジャム(これもHBで簡単にできます)。これだけで充実した朝ご飯となります。お金はないけど、朝食の質を上げたい人にお勧めです。
パナソニック「ホームベーカリー SD-BMT1001」(希望小売価格:オープン、市場売価:21,600円〜)
【特徴】
ちょっと前までは「ごはんパン」が売りであり「ごパン」の名前を覚えている人もまだ多いと思います。しかし多くのメーカーが「ごはんパン」ができるようになった今、パナソニックは「パン・ド・ミ」のメニューを前面に押し出しています。「パン・ド・ミ」のMieは「中身」のこと。フランスでは「中身を食べるパン」を意味します。HBの食パンは、日本人好みに外側パリパリの中身はふわふわ。それに対しはもっちり感が強く、小麦が強く感じられます。
タンパク質の多い国産小麦のためのアレンジレシピもありますが、マニュアルとも一緒であるため、レシピ本としては少々使い難いです。
また「もち」作りに対応しているところも、高ポイント。ごはんパンといい、国産小麦といい、餅といい、日本人の、日本人による、日本人のための標準HBと言っていい1台です。
【食パンテスト&試食の結果報告】
レシピ通り計量、材料を入れて、スイッチオンで出来ます。操作もしやすく、レシピさえあればマニュアルを見ないでも全く問題ありません。動作音は静かな部類。基本の食パンは、焼き上がりに4時間かかります。
食パンは、焼き色もこんがりですが「膨らみに膨らんだなぁ」という感じです。
食べて見ると、日本人が好きなもちもち感とふわふわ感がきちんと体現されています。ただし小麦の味はやや薄いようです。(「パン・ド・ミ」との区分けを狙ったのかも知れません。)焼いた直後の皮(パンの耳)はお米のお焦げと同じように非常に美味しいです。
【プラス1】パン・ド・ミ
作るのに、通常の食パンより1時間多く時間がかかります。それが「パン・ド・ミ」です。十分発酵させたパンは、ふわふわではなく、みっちり&モチモチです。パンの目も小さめ、均一であり、味もしっかり。軽い感じがほとんどなく、お腹溜まりもいい。食べているとお米で言うおにぎりを食べている感じです。食パンでは軽すぎる、腹持ちが悪いと感じている人にはお勧めのパンです。
タイガー魔法瓶「IHホームベーカリー<やきたて> KBX-A100」(希望小売価格:オープン、市場売価:28,600円~)
【特徴】
タイガーは、HBだけでなく炊飯器も含め、こだわりがあります。それは焼く時は「大熱量」で、ということです。電気は一般にガスより火力が弱いがコントロールしやすいと考えられがちです。しかし、その常識を覆したのが「IH」技術。コントロールもしやすく、火力も大火力。あまり認識されていませんが、炒飯、焼きそばなど、大火力が必要とされる中華料理も、簡単に、美味しく作れます。ちなみにエネルギー量も、都市ガスよりパワフルです。
タイガーは、そのIHを横面に搭載。しかもパンケースは遠赤土鍋コーティング。焼きでは他社の追従を許しません。また微妙な温度コントロールが必要な発酵。こちらでも有利です。
タイガーの最高ステータス「GRAND X」モデルだけのことはあり、ひと味違うHBです。
【食パンテスト&試食の結果報告】
HBが持つ、幾多のプログラムはNO.によって表示されます。このため対比表が必要となるのですが、その都度マニュアルを見るのは面倒臭い。そのため、本体ふたにプログラム一覧表が表示されていることが多いですが、当モデルはそれが本体向かって右側面にあります。設置の仕方によっては、隠れてしまい見えなくなることもあります。
動作音他は非常に良好です。またIHを活かし発酵をより正確にする、焼きを短くすることで、他のHBと異なり食パンを3時間30分で焼き上げます。まず切った時の面を見ると、目も細かく均一。試食すると、非常に丁寧に焼かれており、ふわふわ、さくさく、もちもち感のバランスが非常にいい。腕のいい職人さんが焼いたパンという表現が似合います。
焼きたてでも、他のHBより美味しいのが分かりますが、保存のため冷凍。解凍して食べ比較しますと、他より際立って美味しい。これはキメ細かく、均一なため、水分保持が上手くできているからだと考えられます。IHの採用は伊達ではありません。
【プラス1】熟成パン
こちらも通常食パンより1時間長く熟成させたパン。「パン・ド・ミ」と同じです。パナソニックとの違いですが、タイガーの方がより中身が均一な出来でした。このため、口当たりがいいです。冷凍保存後に食べると、より大きな差が出ました。
ツインバード工業「ブランパン対応ホームベーカリー PY-5634W」(希望小売価格:20,000円(税抜)、ネット通販価格:左同)
【特徴】
今、糖質制限ダイエットで人気の「ブランパン」を作れるモデル。小麦ブランとは小麦の外皮と胚芽のこと。一番近い感じのものは「米ぬか」でしょうかね。健康にイイ成分がタップリ。しかし粉の性質が全く違います。専用の発酵、焼きが必要で、そのモードがなくてはブランパンは作れないわけです。
メニューの種類は少なく18種類。また取っ手は付いていません。メーカーに聞いてみると、重さ5kgなので移動させないことを前提に作ってあるそうです。
現時点では店頭販売はしていず、オンラインでツインバード・ストアからの購入となります。
【食パンテスト&試食の結果報告】
移動させないこと前提なので取っ手がないつくりですが、設置したり、使わない時はしまったりすることもあるので、個人的には取っ手は欲しいところです。
動作音も大きめ。また、プログラムはブランパン(プログラム1、2)で独立したボタンでの操作となるため、プログラムを順送りするとプログラム18からプログラム3(食パン)に戻ることになり、慣れるまで慌てます
レシピは他社と比較すると若干水が多めになっており、ふっくらしたできあがりを狙っています。水分の多さ、ヒーターの電力消費が少ないため、4時間20分と「食パン」としてはやや時間がかかっています。
ただ、できあがりで、水を多めにした影響などはあまり感じられず、極々普通の食パンでした。
【プラス1】ブランパン
糖質制限ダイエットが盛んな今、非常に注目されているのがブランパンです。
このブランパン、外で買おうとしたら、ローソンを探すのがベター。2017年2月時点で、50%以上の確率で置いてある店舗に行き当たるそうです。このローソンが使っているのが鳥越製粉のブラン。その鳥越製粉のブランを前提にし、専用のプログラムを入れ込んだのが、このツインバードのHBです。元々HBですので、前段では食パンとしましたが、買うなら「ブランパンベーカリー」としてでしょうね。
このブランパン、レシピがかなり特殊なため、現時点は、他のメーカーというより、ツインバードのこのモデルでしか作れません。
食パン系のブランパンには、2つのレシピ提案があります。1つは鳥越製粉のブランミックだけを使ったもの。あと1つはブランミックスに、卵、砂糖、塩、スキンミルク等を入れたモノです。やはり美味しいのは後者ですね。
味、風味とも普通のパンとは大幅に違いますので、それに対しての評価をしようとは思いません。ただできあがったブランパンは、非常に食べやすく仕上がっていることは、付け加えておきます。
詳しくはこちら>>ツインバードオンラインストア
より美味しく焼くために
パンもお米と同じ生鮮食料品です。小麦粉も含め新しいモノがイイです。
写真は、左上から反時計回りに、パナソニック、タイガー、シロカ、ツインバードのHBで焼き上げた食パン。
また、焼いてすぐに食べられないのは、全部冷凍保存をおすすめします。そうでないと風味が飛びますし、防腐剤を添加していないので2〜3日でカビることもあります。オーブントースターは冷凍パンでもモノともしませんから、解凍などは全く必要ありません。ただ冷凍は1斤まるごとではなく、1枚1枚切って。焼きたての場合は、パンの中にある水分がある程度出た後で冷凍するのがコツです。
HBに付属していませんが、焼き上がりの予熱、余分な蒸気を取る脚付きの網があると便利です。
最後に夏は室温に気を付けてください。室温が25℃以上になると、過発酵になってしまう場合があります。このため夏は、冷水を使うのがコツ。必ずマニュアルにどう使えばイイかが書いてあるので、そこは面倒でもマニュアルに目を通してください。
自分に合ったHBの選び方
冒頭にも書きましたが、自分に2つのことを確認してください。1つめはどんなパンが食べたいのか、2つめはどこに置いて、どの様に使うのかです。
例えば、ブランパンを作りたいと言うと、ツインバードしか選択の余地はありません。が、先に書いたように、使うときだけ棚から出して使うという方法を想定する人には向いていません。ここは納得していただかないと厳しいですね。
シロカ、パナソニック、タイガーを比べると、シロカはベーシックHB、パナソニックはそれに投入自動機を付けたHB標準機、タイガーは温度を完全制御すべく、IH化した高性能機と考えていただければイイと思います。
確かにタイガーで作ったパンは美味しい。しかしシロカが不味いかと言うと、及ばないもののシロカも十分美味しい。特に焼きたてでは差が出にくいです。
この3点、(メニュー、使い勝手、そして味)に自分の予算を考慮して頂けると、自分に合ったHBがきっと見つかると思います。
【著者プロフィール】
多賀一晃 さん
1961年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学部卒。大手メーカーにて商品開発、企画を担当後独立。国内はもちろん、世界最大の家電見本市「IFA」等で世界中の家電を取材し、役立つ情報を「生活家電.com」から発信中。日本経済新聞夕刊の家電製品特集や土曜日別冊「日経プラス1」の「家電ランキング」選者、WEDGE Infinity「家電口論」主筆としても活躍。
生活家電.com http://www.seikatsukaden.com/
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