疲れやすい、手指がこわばる、汗をかきやすい…。閉経の前後5年間を「更年期」と呼びます。これまで経験したことのない体調不良に戸惑う時期ですが、この時期の不調は「これって更年期?それとも単なる老化?」と判断がつきにくいものも多く、どう対処すればいいのか不安を抱える人も多数。
今回は、女性医学の第一人者である東京科学大学の寺内公一先生と、体のゆらぎ対策として注目のゆらぎ年代健康成分「ゲニステイン」研究のパイオニア、キッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)の和泉 亨さんに、更年期との付き合い方や乗り越え方などについて教えていただきました。
【教えてくださるのは】
〈左〉寺内公一先生/東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授 医学博士
〈右〉和泉 亨さん/キッコーマンニュートリケア・ジャパン 開発部長 博士(農学) 薬剤師
太りやすい、手指がこわばる、だるい…。さまざまな不調はどうして起きるのでしょう?
編集部 本日は、更年期に感じるさまざまな体調不良の原因や乗り越え方などについて、詳しくお聞きしたいと思います。
最初に、なぜ更年期になるとさまざまな体調の変化が起きるのでしょう?
寺内先生 閉経の前後5年間、更年期の時期は女性ホルモンの分泌量が不安定になるため、さまざまな不調に見舞われやすくなります。
卵巣機能の低下に伴い、脳下垂体からは「もっと働け」という信号が出ますが、卵巣は働けないため、この信号が大量に出てしまい、自律神経系が混乱して不調を引き起こすと考えられています。
例えば、代表的な更年期症状であるホットフラッシュは、血管の拡張や収縮のコントロールがうまくいかなくなって起きます。
編集部 「更年期に入って太りやすくなった」という読者の声をよく聞きます。これも更年期の影響ですか?
寺内先生 女性ホルモン量が減少すると、内臓に脂肪がつきやすくなります。
年齢とともに筋肉量や基礎代謝が落ちて、脂肪が蓄積しやすくなることも重なるので、太りやすくなると言っていいでしょう。
編集部 もうひとつ、読者の多くが「『手指のこわばり』や『疲労感』は、更年期の影響か老化なのか分からない」という悩みを抱えます。見分け方はありますか?
寺内先生 更年期と加齢の症状は重なって現れることが多いので、厳密な線引きは難しいのが正直なところです。
更年期症状は女性ホルモンの揺らぎに関連するかどうかが判断基準の一つですから、月経周期が順調な20代女性の手指のこわばり、80歳女性の腰痛などは「更年期症状ではない」と区別しやすい。
しかし、更年期世代の場合は、加齢と明確な区別ができないケースが多いのです。
この不調は「更年期」、それとも「単なる老化」?簡単な目安を挙げると
編集部 たとえば、この疲れやすさが単なる老化なのか、治療すべき更年期症状なのかは、どうすればセルフチェックできますか?
寺内先生 更年期による不調は、何か一つではなく、複数ある人がほとんどです。めまいだけ、手指の痛みだけ、ということはあまりありません。
編集部 なるほど…。確かに、同時に出るか時間差かは人それぞれですが、症状は更年期を通じて複数挙がりますね。
では、どの程度の症状が出たら病院へ行けばいいのでしょうか。
寺内先生 生活に支障をきたすと感じたときが、病院を受診するタイミングです。症状の頻度や重症度ではなく、困っているかどうかが判断基準になります。
編集部 先生が診察した患者様の中で「もっと早く相談してほしかった」と思ったケースはありますか?
寺内先生 生活に支障が出やすい症状で考えると、「抑うつ」は早めに相談してほしいといつも思います。
女性ホルモン分泌量のゆらぎで、気分の落ち込みや無気力を感じる人はいます。
心の不調は病気と認識しづらいですが、ひどくなると仕事に行けなくなったり、家事ができなくなったりしますので、違和感を覚えたら、ためらわずに病院へ来てください。
「私もそろそろ更年期にさしかかったな」と感じ始めたら、何から対策すればいい?
和泉さん 私からも質問です。更年期かも?と思ったら、どんな対策から始めればいいですか?
寺内先生 まずは、正しい情報を集めることから始めましょう。
ネット上にあふれる情報は玉石混交です。誰が発信しているのかわからない情報ではなく、専門家が関与している、信頼できる情報源を参考にしてください。
自分の症状に合う情報にたどり着いたら、それを参考にした生活習慣の改善、運動、食事、サプリメント摂取などのセルフケアを始めてください。
それでも生活に支障がでる場合は、医療機関を受診しましょう。
編集部 サプリメントも更年期のセルフケアに役立つのですね。
寺内先生 普段の食事で摂りにくい栄養を補うために、サプリメントは便利な食品だと思います。
例えば、更年期のセルフケアを助ける成分として大豆イソフラボンがよく挙げられますが、このひとつである「ゲニステイン」は大豆製品、中でも味噌に多く含まれます。
また、抗酸化力が高い成分、「プロアントシアニジン」はブルーベリーやクランベリー、カカオなど皮の色の濃い食品から補えます。
しかし、これらの食品を毎日一定量食べ続けるのはなかなか難しいと思います。サプリメントであれば、足りない量だけを効率的に補うことができます。
「ゲニステイン」「プロアントシアニジン」には、どのような働きがありますか?
編集部 いまお話に挙がった成分、「ゲニステイン」「プロアントシアニジン」は更年期のゆらぎをどのように助けてくれるのですか?
寺内先生 まず、「ゲニステイン」は更年期の「抑うつ」「不眠」「ホットフラッシュ」などに効果が実証されています。
大豆イソフラボンから糖を切り離した「アグリコン型イソフラボン」は体内に吸収されやすくなることが知られます。
アグリコン型イソフラボンには「ダイゼイン」「ゲニステイン」「グリシテイン」の3種類があるのですが、この中でもっとも身体の生理活動を調整する「生理活性」が高いのが「ゲニステイン」。
その活性の高さからHRT(ホルモン補充療法)の代替手段として期待されます。
編集部 よく大豆イソフラボン成分は上限があると聞きますが、どのくらいまで摂取してよいのですか?
寺内先生 大豆イソフラボンを特定保健用食品やサプリメントから摂取する場合の上限量は1日あたり30mg、料理で例えれば味噌汁2杯分程度です。
「ゲニステイン」は活性が高いため、この上限量内でも効果が期待できます。
編集部 もうひとつの「プロアントシアニジン」はまだそれほど聞き慣れない成分です。
寺内先生 「プロアントシアニジン」はブドウの種から採れるポリフェノールの一種で、強い抗酸化力があります。
私たちが実施した、ブドウ種子由来のポリフェノールとプラセボを比較した臨床試験では、特に更年期世代の不安症状を軽減するという結果が出ました。
酸化によるストレスと精神状態は関連することが分かっているので、抗酸化作用による変化と捉えていいと考えています。
編集部 なるほど、更年期世代は「抗酸化力」も意識したほうがいいということですね。
寺内先生 抗酸化力は血管機能の低下を防ぐので、むくみ改善にもつながります。さらに、シミの改善効果も期待できます。
プロアントシアニジンの推奨される摂取量は決まっていませんが、食品で1日に必要な量は、だいたい赤ワイン4~6杯分です。
編集部 それは…毎日飲むにはちょっと勇気のいる量ですね(笑)。
寺内先生 そうなんです。その意味では、サプリメントで摂取するほうが現実的かもしれません。
「ゲニステイン」はしょうゆ、「プロアントシアニジン」はワインの研究から生まれた
寺内先生 これら2つの成分に関しては、和泉さんが多くの論文や書籍を出していますよね。
和泉さん ご紹介ありがとうございます。キッコーマンは大豆を材料にした製品を多く取り扱っていまして、しょうゆにおいては100年以上にわたる研究の歴史があります。
「ゲニステイン」はしょうゆの主要原料である大豆を研究する中で、更年期障害の軽減、骨粗しょう症予防など20年以上前から着目し、研究を続けてきました。
編集部 なるほど、2000年代に入るころからの研究なのですね。
和泉さん はい。ゲニステインなどのアグリコン型イソフラボンは体内への吸収性が非常に高いことを世界に先駆けて証明したのもキッコーマンです。
また、乳がん・前立腺がんのリスク軽減などへの効果が期待されるとして、国内外でも注目を集めています。
編集部 更年期の女性だけに限らず、更年期以降の、そして前立腺がんということは男性の健康維持にも、非常に期待できる成分ということですね。
和泉さん もうひとつの成分、「プロアントシアニジン」は、グループ会社であるマンズワインのワイン製造時に、廃棄してしまうブドウ種子を再利用する方法を考えたことがきっかけです。
強力な抗酸化作用を持つことに着目し、プロアントシアニジンを効果的に抽出する技術をキッコーマンが開発しました。
編集部 キッコーマンといえば戦中戦後の食糧難の時期、新しいしょうゆの醸造技術を特許ごと業界に無償公開した経緯もあります。
あまり知られていないかもしれませんが、じつは発酵だけでなく醸造技術もエキスパート。その技術あってのプロアントシアニジンの研究ですね。
和泉さん 従来は、プロアントシアニジンは抗酸化作用を有する成分としてその有効性をキッコーマンでも検証してきたのですが、寺内先生のおかげで更年期症状の緩和効果があることも立証されました。
今後のプロアントシアニジンのさらなる有効利用を後押しするものだと感じます。
キッコーマン・ゲニステイン研究の第一人者に聞いた「よりよいサプリメントの選び方」
編集部 和泉さんにお伺いです。よりよいサプリメント選びのコツはありますか?
和泉さん 成分の研究開発をしている企業が作った商品や、エビデンスがある成分を配合した商品を選ぶことをおすすめします。
また、成分量の記載方法が計算上の測定値(推定値)ではなく、実際の製造過程で計測した実測値になっている商品のほうが、より正確な成分量を摂取できます。
これらの情報は、多くは商品のホームページに記載されています。加えて、摂取しやすい大きさや量の商品のほうが、毎日続けやすいと思います。
編集部 ありがとうございます。最後に寺内先生から、更年期を乗り越えるための心の持ち方を教えてください。
寺内先生 更年期は体と心が揺らぐ時期ですが、永遠には続きません。正しい知識と適切なサポートを得て、更年期が終わる日へ向かって、少しずつ乗り越えていくことが大切です。
自分だけで悩まず、人に話すことでも、心のケアになります。「症状をゼロにする」ことを目指すのではなく、「生活に支障がないレベル」を目標にしていきましょう。
「更年期のよりよい過ごし方」
\詳しい情報はこちらにも!/
【お話】
寺内公一先生●東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗鬆症の診療に従事し、中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応についての研究や、閉経後骨粗鬆症の病態生理に関する研究、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化と、食品・薬品およびそれらに含まれる生理活性物質がこれに対して与える影響についての研究を行う。
和泉 亨さん●キッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)開発部長。農学博士、薬剤師。キッコーマン入社以来、研究開発本部、商品開発本部、プロダクトマネジャー室を経て現在に至る。1996年~2007年まで研究開発本部にて、大豆イソフラボンの研究に従事。
Soy isoflavone aglycones are absorbed faster and in higher amounts than their glucosides in humans. Izumi Toru, Osawa Sachiko, Obata Akio, Tobe Koichiro, Saito Makoto, Kataoka Shigehiro,Kikuchi Mamoru, Piskula Mariusz K., Kubota Yoshiro The Journal of Nutrition 130(7), 1695-1699, 2000
大豆イソフラボンアグリコンの更年期障害に対する効果について 久保田 芳郎, 三上 繁, 和泉 亨, 小幡 明雄, 斉藤 實, 戸辺 光一朗, 菊地 護 Official Journal of the Japanese Society of Human Dry Dock 17 (2), 172-177, 2002
低カルシウム食で飼育した卵巣摘出ラットの骨密度低下に対するイソフラボンアグリコンを含有する大豆発酵抽出物の予防効果 斉藤 實, 小幡 明雄, 片岡 茂博, 和泉 亨, 戸辺 浩一郎, 菊地 護, 江澤 郁子 日本家政学会誌 54 (8), 613-621, 2003
大豆イソフラボン含有食品素材の開発及びその有効性に関する研究 和泉, 亨 東京大学 博士 (農学) 乙第16372号 2005-11-14
Oral intake of soy isoflavone aglycone improves the aged skin of adult women Toru IZUMI, Makoto SAITO, Akio OBATA, Masayuki ARII, Hideyo YAMAGUCHI, Asahi MATSUYAMA Journal of Nutritional Science and Vitaminology 2007 年 53 巻 1 号 p. 57-62
The diverse efficacy of food-derived proanthocyanidins for middle-aged and elderly women Toru Izumi, Masakazu Terauchi Nutrients 2020, 12(12), 3833
プロアントシアニジン 和泉 亨 産科と婦人科 / 診断と治療社 [編] 90 (9), 1011-1014, 2023
更年期女性をサポートする植物性素材の併用 和泉 亨 Food style 21 : 食品の機能と健康を考える科学情報誌 28 (7), 43-46, 2024
他多数。
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