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コラム

「虫離れ」は中学生頃にやってくる。大人の虫嫌いに関するおもしろい研究報告|昆虫学者・井手竜也先生③

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「虫離れ」は中学生頃にやってくる。大人の虫嫌いに関するおもしろい研究報告|昆虫学者・井手竜也先生③

羽のある・ナシではありません→【アリとハチの違い】正しく言えたらスゴイ!|昆虫学者・井手竜也先生②から続く

昆虫学者・井手竜也先生のお話もいよいよ最終回。最後に「昆虫を研究すると何かイイことあるの?」について聞きました。

「昆虫を研究すると何かいいことあるのかい?」に答えるとしたら

ひとくちに「昆虫の研究」といっても、いろいろなジャンルがあります。

僕が行なっているのは、「分類学」と言われる分野。新種のムシを発見して名前をつけたり、別のものだと思われていた同種の昆虫をまとめて整理し直したりするのが、主な研究内容です。

分類学は、すべての研究の基礎である、と言われます。

なぜなら、私たち人間は、名前がついてはじめてその対象を認識できるようになるから。まず名前がつき、そこから研究のさらなる発展がスタートします。

僕自身も、高校生のときに採集したムシが「オジロアシナガゾウムシ」という名前であると知ったときから、ぐんと昆虫の世界への興味が広がりました。名前がつくこと、名前を知ることは、学びの第一歩、とも言えますね。

現在、名前がついている昆虫は約100万種いますが、まだ人によって発見されていない昆虫は500万種とも言われます。

昆虫の研究者のなかでは、新種発見は、実はそれほど珍しいことではなく、100種を超える新種を発見している人も!新発見が多い分野、という意味でも、昆虫の研究はおもしろい学問です。

人の暮らしに密接に関わる昆虫たち

さて、昆虫の研究をすると、どんないいことがあるのでしょう?

答えは、衣食住のすべてに役立つ!です。

たとえば、受粉を媒介する昆虫の研究は、農業に直結します。

最近では昆虫の体の形を模倣して、人の暮らしに役立つものを開発しようという「バイオミメティクス」も盛んに研究されていますし、昆虫食の研究も近年話題になっています。

環境変化の研究には、どんな昆虫が生息しているかも、大きな指標となるものです。また、集団で暮らすアリやハチは、社会学の研究材料としても取り上げられます。

昆虫の研究が、さまざまな分野に応用されていくのは、それだけ昆虫が私たちにとって身近な生き物であることの証し。

「害虫」=「悪いムシ」ではありません

昆虫のなかには、絹糸を生み出す蚕(かいこ)のように人にとって役立つ「益虫」と言われるものもいれば、衣類を食べるカツオブシムシのように「害虫」と言われるものもあります。これらのムシを研究することも、私たちの暮らしにつながっていきます。

ただ、「益虫」や「害虫」というのは、あくまでも人の視点で昆虫を捉えたくくりでしかありません。ある場面では、人にとって害を及ぼす昆虫も、別の場面では人に恩恵を与えることもあります。

生き物の世界は、害虫はどんどん駆除すればよい、益虫は役立つから保護して増やせばよい、という単純なものではありません。

昆虫に限らず、すべての生物は、自然のなかでそれぞれの特定の生態を持って暮らしています。「このムシはよい」「このムシはいなくてもいい」といった偏見は持ってほしくないな、と思います。

それにしても…。どうして大人になると、ムシ嫌いになっちゃうのか

子どものころはトンボでもバッタでも、躊躇せずにつまかえていたという人でも、大人になったら「とてもじゃないけれど、触れません」と震える人も少なくないですね。

ある研究では、中学生くらいの時期に「虫離れ」が起こる傾向がある、と推定されています。

小さなころは視線が地面に近く、ムシたちの暮らしが目に入りやすい、と言えます。成長するにつれ、視線が高くなることに加え、勉強や部活など、ムシに親しむ時間は減っていく。触れ合う機会が少なくなることで、だんだんと苦手意識が育まれてしまうのかもしれません。

また、同じムシの写真でも、背景が野外のときと、家のなかのときとでは、嫌悪感が違うという研究もあります。背景が家の中の写真のほうが、嫌悪感が高い。それは、ムシが嫌なのではなく、安心できる家のなかに見知らぬものが入ってくる恐怖感、とも言えるでしょう。

もし、そのムシのことを知っていれば、家のなかに入ってきたときの恐怖感も、少しやわらぐかもしれませんね。

井手竜也(いで・たつや)ハチ研究者。国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ所属。植物に「こぶ」をつくる小さなハチ「タマバチ」を研究するほか、DNAバーコーディングを使った生物同定にも携わる。著書に『昆虫学者の目のツケドコロ』『ハチのおしごと』など。

\大人もこどもも楽しめる!/
井手先生が総合監修を務める
特別展「昆虫 MANIAC」開催中!

国立科学博物館の研究者がマニアックな視点と最新研究を交え、「トンボの扉」「ハチの扉」「チョウの扉」「クモの扉」「カブトムシの扉」のカテゴリーに分けて、世界中のさまざまな昆虫を紹介!10月14日(月・祝)まで、国立科学博物館(東京・上野公園)にて開催。

*特別展「昆虫 MANIAC」は昆虫及びその他の陸生の節足動物を総称して「ムシ」としています。

取材・文/浦上藍子 撮影/榊 水麗

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