▶昆虫のおもしろさって何だろう?「僕がマニアックなムシの世界に引き込まれた理由」|昆虫学者・井手竜也さん①から続く
東京・上野の国立科学博物館で開催中の特別展「昆虫 MANIAC」で総合監修を務める井手先生。前回は「昆虫って何がおもしろいの?何がすごいの?」についてお話を聞きましたが、今回は「そもそも昆虫とは?」についてお勉強。知っているようで知らない昆虫の世界をのぞいてみましょう♪
そもそも「昆虫」とはどんなものか
昆虫の定義は、頭と胸、腹の3つのパーツで構成され、頭には2本の触角、胸から6本の足が出ていること。これが昆虫の基本形です。
でも、基本の形は同じであっても、昆虫の姿って本当に多様。僕が研究しているタマバチは2~3mmくらいの小さなハチですが、顕微鏡で観察すると種類ごとに特徴がしっかりあります。
また、一見似たように見える昆虫でも、よく調べると、それぞれに生き方や戦略があることにも驚かされます。
自分は毒を持たないのに、毒を持つ生き物にそっくりの色や形をして擬態しているもの。
ほかの昆虫の体に卵を産みつけ、寄生するもの。
社会性を持ち、役割分担をして集団で暮らすもの。
知るほどに、昆虫の多様性がより一層感じ取れるはずです。
でも、開催中の特別展『昆虫 MANIAC』しかり、博物館で展示できるのは、多様な昆虫の世界のほんの入り口。
身近なところで、「アリとハチの違いは?」の答えを考えてみる
例えば、「アリとハチの違いは?」なんて聞かれたら、みなさん、戸惑うかもしれませんね。おそらく、アリは地中に巣を作って暮らす昆虫で、ハチは羽が生えていて飛び回る昆虫、というのが一般的なイメージでしょう。
でも、女王アリのように羽を持つアリもいれば、羽を持たないハチもいます。羽の有無では、アリとハチの違いは説明できません。
実はアリは、ハチのグループに属する昆虫。ハチ目アリ科に分類されます。大きくくくれば、アリもハチの仲間、ということですね。
アリとハチを見分けるポイントは、胸と腹の間にあります。胸と腹の間に、腹柄節(ふくへいせつ)というこぶのようなパーツがあれば、アリ。なければ、ハチです。
「飛ばないハチなんて!」と驚かれるかもしれませんが、羽のないハチ・アリバチは、日本の森や林にも普通に生息しています。
ハチといえば、「羽があって、人や動物を刺す」と思われがちですが、そうした固定観念に当てはまらない「例外」がたくさんいるのも、昆虫のおもしろいところです。
昆虫の繁栄は「多様性」のたまもの。そして昆虫の生態はわからないことだらけ(笑)
現生している昆虫のグループはすべて、恐竜が生きていた中世代にはすべてそろっていた、と考えられています。
恐竜は絶滅しましたが、昆虫はその多くが環境に適応し、生き残ってきました。それを可能にしたのも、昆虫の多様性です。
暮らす場所、食べるもの、産卵の仕方、成虫になるまでの過ごし方、それぞれに個性豊かな特徴を持つことが、生き残りに役立ってきたことは間違いないと考えられます。
生物の進化には、自然淘汰という仕組みがあり、環境に適応していないものは削ぎ落とされ、生き残るのに適した形に進化する、と言われます。
しかし、昆虫のユニークな特徴を見ると、「どうやったらそんなに都合よく進化できるんだ!」と、研究者の僕でも頭を抱えたくなるようなことがたくさんあります。
昆虫の生態は、わからないことだらけ。
こんなに身近にいる生き物でありながら、何を食べ、どんな暮らしをしているのか、不思議で精巧な戦略をどのようにして身につけ、進化させてきたのか、解明されていないことのほうが多いのです。
▶次の話 「虫離れ」は中学生頃にやってくる。大人の虫嫌いに関するおもしろい研究報告|昆虫学者・井手竜也先生③
井手竜也(いで・たつや)●ハチ研究者。国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ所属。植物に「こぶ」をつくる小さなハチ「タマバチ」を研究するほか、DNAバーコーディングを使った生物同定にも携わる。著書に『昆虫学者の目のツケドコロ』『ハチのおしごと』など。
\大人もこどもも楽しめる!/
井手先生が総合監修を務める
特別展「昆虫 MANIAC」開催中!
国立科学博物館の研究者がマニアックな視点と最新研究を交え、「トンボの扉」「ハチの扉」「チョウの扉」「クモの扉」「カブトムシの扉」のカテゴリーに分けて、世界中のさまざまな昆虫を紹介!10月14日(月・祝)まで、国立科学博物館(東京・上野公園)にて開催。
「〈トンボの扉〉〈ハチの扉〉〈チョウの扉〉〈クモの扉〉〈カブトムシの扉〉。それぞれの扉を開けて探検してみると、もっともっと奥深くて、おもしろくて、不思議な昆虫ワールドが待っています。この特別展が、扉の先へと進むきっかけとなったら、うれしいです」(井手先生)
*特別展「昆虫 MANIAC」は昆虫及びその他の陸生の節足動物を総称して「ムシ」としています。
取材・文/浦上藍子 撮影/榊 水麗
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