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コラム

見つめることや、知り合うことを|うさぎの耳〈第二話〉谷村志穂

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見つめることや、知り合うことを|うさぎの耳〈第二話〉谷村志穂

初めから読む 母子の部屋は、一階にあるその角部屋である|うさぎの耳〈第一話〉

「今日もご機嫌だね。確か、お名前はリクくん」

不意に長い影帽子が伸びてきて、かすれた声が響いた。

「ここ、座っていいかな?」

ベンチの隣を指さす。

「もちろん。名前を覚えてくれたんですね。理玖、この間いただいたパペットがお気に入りです」

ベビーカーのフレームに、音のなる人形やおしゃぶりなどをいつもぶら下げてある。パペットも、ジップの付いた袋に入れて、ぶら下げてきた。目玉がくるくる回転するからか、鼻がピンクで丸いからか、理玖はこれを見るといい顔をして、手を伸ばしてくる。

「えー、本気にしちゃっていいのかな」

想像していたより、もう少し年齢が上の人に見えた。目尻にゆるく皺が寄っている。

彼女の方から、

「今日は、ちょっと疲れちゃった」

と、言って、

「紅茶も忘れちゃった」

そう言うので、自分の保温ポットを持ち上げて見せる。持参した白の保温ポットから、カフェオレをカップに注いだ。コーヒーで香りが立つだけで、ベンチが自分の居場所になった気がするものだ。そんなことすら思いつかず毎日のようにここへ通っていたと、自分の中にあった石のような感覚を思う。

「それはコーヒーでしょう?しかも、ハワイなんかで売っている、ライオンの絵のじゃない?」

「すごい、よくわかりますね」

「鼻がいいの。でも、残念ながら私、コーヒーは飲めないの」

「紅茶にすればよかったですね」

「いいの。リクくんは、まだママのおっぱいだけなのかな?何ヶ月くらい?」

「この間、六ヶ月が経って、少しずつ、離乳食も始めたところで。でも、離乳食もおっぱいも、どっちも美味しそうじゃないけど」

「そんなことないよ。ママのおっぱいは、最強グルメでしょう?」

その口ぶりから、彼女にはお子さんはいないように感じた。それなのに、この公園に定期的にやってくるのは、理由があるのだろうか。

小説『うさぎの耳』|谷村志穂
子どもの障がい、夫の失踪、ギスギスした義母との暮らし。そんななかで、主人公の美夏は公園で出会った莉子と心を通わせていく。その莉子にも複雑な事情があり…。毛糸の指人形と子どもの果てしない生命力。喪失を抱えるすべての女...
小説『うさぎの耳』|谷村志穂
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