「山を守る」とは、一体どういうこと?森林保護?生態系の維持?資源の管理?今まで耳にしたことはあるし、なんとなくの意味は知っている。でも、果たして本来の意味を理解できているのでしょうか?
長野県須坂市で山の維持管理に邁進する、一般社団法人仁礼会理事長・若林武雄さんにお話を伺いました。
「山を守らない」と何が起こる?
――「山を守る」という言葉はよく聞きますが、「山を守らない」と、一体どのような状態になるのでしょう?
シダなどが生い茂って太陽光が差し込まない鬱そうとした森林となり、樹々もやせ細って人が立ち入ることが困難な無法地帯のような山林となるでしょう。
具体的にお話しすると、間伐(植えた木などを定期的に間引く)などの手入れが行われず、放置された森林は木が密集し、日光が地面に届かなくなってしまいます。
それにより下草が生えなくなってしまい、大雨が降ったときに表土が流出し、山腹崩壊などの土砂災害の原因にもなります。下草は"ストッパー"のような役割をしているというわけですね。
また、山、森林、林道、作業道などを維持管理しないと、林道、作業道はけもの道になってしまいます。森林は風雨や獣害によって倒木が発生し、災害につながります。
もしも、私たち仁礼会そのものが山に関心をなくしてしまったら、月日が経つにつれ、山は荒れます。持山の境界も誰の山なのかもわからなくなります。
山を「お手入れ」するには想像以上の工程が必要
――では、「山を守る」ために、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
山を守るためには、主に下記の5つの工程があります。
▶【植林】植える土地にあった種類の木を植えます。
▶【下刈・つる切】苗木の生長を邪魔する雑草を刈り、木に絡みついたつるを切ります。この作業を毎年1回~2回、苗木が雑草に負けないくらいに育つまで5~8年間続けます。
▶【除伐(じょばつ)】植えた木のまわりに自然に生えてきた木や、育つ見込みのない木を切ります。
▶【間伐(かんばつ)】植えてから約15~20年で、木と木の間が混みあって太陽の光が届かなくなり、 そのままにしておくと十分な成長ができなくなりますので、木の生長を良くするために木を間引いて本数を減らします。怠ると木の生長が悪く幹のひょろ長い木ばかりになり、強い風や大雪で木が倒れてしまいます。
▶【林道・作業道の手入れ】林道・作業道は定期的に草刈り、水切りを施業します。作業道の軟弱になった道路は砕石などを敷き保全しています。また、伐採施業時は作業道を作ってから伐採、搬出作業をしますが、この作業道は山林の未舗装路を活かした様々なアクティビティに使えるようにしています。
――取材に伺った際に、傘伐(さんばつ)※した山の様子を見学させていただきましたが、山頂までの林道も維持管理されているのですよね。※親木(母樹)を残して周辺を全部一様に伐採すること。
そうですね。普段私たちが山に入って作業するためだけでなく、以前はマウンテンバイク(自転車)やトレイルランニングのコースとして利用していただいていました。
昨今ではオフロードバイクで未舗装路を疾走するエンデューロというモータースポーツのコースとしても使えるようにしているので、維持管理が必要な支援もいただけるようになってきますね。
雨が降ったときに林道・作業道に水が溜まらないよう、道を横断するように溝を作って水はけをよくする作業(水切り)なども行っています。
「山を守る」ために、私たちは何ができる?
――長野県では平成15年度から「森林(もり)の里親促進事業」を実施されているとお聞きしました。
森林の整備・企業のPR・地域住民との交流といったところが主な内容ですね。
持続可能な社会共有の財産として、森林の保全活動に関心がある企業に、社会貢献活動の一環として、長野県の森林づくりや森林を活用しての社員研修・福利厚生の場として利用いただくことが森林の里親促進事業の目的です。
また、林業の低迷により維持管理ができなくなった山林が増え続ける中で、企業の支援を受けて山林整備を継続できる治山(山腹崩壊等の災害がないこと)に寄与しています。
『水と緑と太陽の森林(もり)』:グローブライド株式会社は「森林(もり)の里親促進事業」に賛同。仁礼会の保有する山の約10%(177ヘクタール)を契約。植栽や除伐、間伐などの作業費用の一部を負担するとともに、間伐、草刈り体験などのボランティア活動も行っています。
――ちなみに「里親促進事業」は個人でも参加できるのでしょうか?
企業の皆様に向けた制度なので、現状では個人の参加はできません。ただ、個人の方には、山林の現状とその価値を知って欲しいと思っています。
仁礼の森の澄んだ空気には、訪れた人誰もが癒やされるはず。いろんな生き物の声も聞こえてきて…。都会ではなかなか経験できないことですよね。
ただ、「自然は自然のままがいい」と言う人もいますが、私はそうは思いません。人の手が入ってこそ、山は維持できると考えます。
森林は30年周期で樹木を入れ替えることで、健全な森として維持することができるんです。
――そんなに長いとは驚きです。
それに、山の土壌と川の水は、切っても切れない関係。雨水や雪解け水が、山の土や岩肌の溝に染み込み、それが湧き水となって山のあちこちから流れ出てくる。それが集まって川になっているわけですよね。
「山を守る」ということは、「森と水を守る」ということでもあるんです。
森と水は、たとえ自分がいなくなっても、次の世代、また次の世代がずっと守り続けていかなければいけないもの。そしてその土地に住む人間が、守っていくべきものだと思います。
若林武雄(わかばやしたけお)●一般財団法人仁礼会理事長。長野県生まれ。日々山に向き合い、仁礼の山の維持管理を担う。東日本台風によって道が崩壊してしまった「古道」復活にも尽力している。
協力/グローブライド
取材協力/中村賢一さん(仁礼会)
写真提供/藤巻 翔
取材・文/山川麻衣子
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