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コラム

昆虫のおもしろさって何だろう?「僕がマニアックなムシの世界に引き込まれた理由」|昆虫学者・井手竜也さん①

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昆虫のおもしろさって何だろう?「僕がマニアックなムシの世界に引き込まれた理由」|昆虫学者・井手竜也さん①

名前がついている昆虫は約100万種。まだ名前のない、知られていない昆虫を含めると、この地球上にはなんと約500万種もの昆虫が生息していると言われます。「その1つ1つの種に、それぞれに違う形や大きさ、色、そして生き様がある」と話すのは、昆虫学者の井手竜也先生。現在、東京・上野の国立科学博物館で開催中の特別展「昆虫 MANIAC」で総合監修も務める井手先生に、昆虫のマニアックなお話しを聞いてきました。

昆虫はなぜおもしろい?名前を知り、世界の見え方がガラリと変わった

僕が昆虫のおもしろさに目覚めたのは、高校生のとき。生物部への入部がきっかけでした。

生物部の研究活動は、植物や昆虫などを採集して、名前を調べるところから始まります。入部当初の採集で強く印象に残った昆虫が、オジロアシナガゾウムシです。

オジロアシナガゾウムシ。Ⓒ国立科学博物館

口が象の鼻みたいに長く伸びていて、足も太くてゴツゴツしていて、初めて見たときは「こんなムシがいたんだ!」とびっくりしました。

でも、オジロアシナガゾウムシって決して珍しいムシではなくて、実は町なかでもふつうに暮らしているんです。オジロアシナガゾウムシのすみかは、道ばたなどによく生えているクズという植物。

その後、近所を歩いているときにオジロアシナガゾウムシを見つけて、今度は「こんな身近なところにいたんだ!」とびっくりしました。

それまでは目にはしていても、「ムシ」としか捉えていなかったものが、名前を知ることで生き生きと目に飛び込んでくるようになった。

知ることで、世界の見え方がこんなにも変わるんだ、ということを感じられた経験です。

身近にいるのに、ぜ~んぜん知られていない昆虫って、けっこういます(笑)

僕が研究をしているタマバチも、私たちの身近なところに生息している昆虫です。

ハチというと、よく知られているのはミツバチやスズメバチ、アシナガバチなどでしょうか。でも、たとえばミツバチだったら、日本で見られるのはニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種類だけ。

それに対して、タマバチは日本だけでも約80種!世界に目を広げれば約1400種ものタマバチがいることがわかっています。

どちらが珍しいかといえば、ミツバチのほうが圧倒的に珍しいのに、一般にはあまり知られていないのがタマバチなんです。

昆虫には実に多様な種類がいて、図鑑に載っているのはそのごくごく一部。身近に見られる昆虫でも、知られていないものがたくさんあります。

私たちのすぐそばに、マニアックなムシの世界がある。小さなムシに意識を向けてみると、見慣れた風景が違って見えるかもしれません。

植物を操って幼虫を安全に育てる!?「虫こぶ」って知ってますか?

さて、タマバチはハチといっても刺さないし、黄色と黒のしましま模様でもありません。体長は1mmくらい。木の葉に「虫こぶ」を作って生活しています。

虫こぶとは、昆虫が植物をコントロールして作るもの。噛んだり、刺したりする刺激と、ムシが出す成分によって植物の成長を操って、自分に都合のいい形に変化させてしまうんです。すごい戦略……!

幼虫は、こぶのなかで守られながら成長し、成虫になるとこぶを食い破って出てきます。

タマバチの多くはどんぐりがなる木に虫こぶを作るので、どんぐり拾いをしたことがある子ならきっと虫こぶも目にしているかもしれませんね。

タマバチの虫こぶは鈴のような形です

タマバチの種類によって、虫こぶの形もそれぞれに違います。

僕が新種発見をしたカシワハスズタマバチは、かしわの葉に鈴のような形をした虫こぶを作ります。

虫こぶは二重構造になっていて、外側のかたいこぶのなかに、幼虫室と言われる小さな小部屋があり、これが中でコロコロと転がるつくりになっているんです。

この構造は、中の幼虫を狙う外敵の攻撃を受けにくくするためだと考えられます。虫こぶを振ると、カラカラと鈴のような音がするんですよ。

右下の黄色と白の台紙についているのがタマバチ(成虫)。左の白い紙についているのは虫こぶの断面図で、中にコロコロ転がる幼児室が見える。青の器械は、虫こぶ内部が転がる様子を再現するために作ったもの。

個性豊かな昆虫が作る、個性豊かな「虫こぶ」を求めて

虫こぶを作る昆虫はタマバチのほかにも。僕が最初に好きになったオジロアシナガゾウムシは、クズ科の植物に虫こぶを作ります。

虫こぶの大きさも種によってさまざまで、けし粒くらいの小さなものからじゃがいもサイズまで!葉、枝、花、根っこなど、虫こぶが作られる場所もそれぞれに違うし、ふさふさと毛が生えているような形のものや、甘い汁を出すものなど、本当に個性豊かです。

フサッとした虫こぶ。

しずく形の虫こぶ。

僕は全国あちこち、さまざまな場所で虫こぶを採取し、研究室に保管。日々、気長に虫こぶから成虫が出てくるのを待っています(笑)。

次の話 羽のある・ナシではありません→【アリとハチの違い】正しく言えたらスゴイ!|昆虫学者・井手竜也先生②

井手竜也(いで・たつや)ハチ研究者。国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ所属。植物に「こぶ」をつくる小さなハチ「タマバチ」を研究するほか、DNAバーコーディングを使った生物同定にも携わる。著書に『昆虫学者の目のツケドコロ』『ハチのおしごと』など。

\大人もこどもも楽しめる!/
井手先生が総合監修を務める
特別展「昆虫 MANIAC」開催中!

国立科学博物館の研究者がマニアックな視点と最新研究を交え、ムシの多様性を紹介!10月14日(月・祝)まで、国立科学博物館(東京・上野公園)にて開催。

*特別展「昆虫 MANIAC」は昆虫及びその他の陸生の節足動物を総称して「ムシ」としています。

取材・文/浦上藍子 撮影/榊 水麗

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