前回は、地中で静かに進行中の「モグラ戦争」について教えてくれた、動物学者の今泉忠明先生。今回のテーマは、森の歩き方です。今泉先生は、子どもたちの生き抜く力を育てるために、野外観察や自然体験が大きな役割を果たす、と語ります。楽しくて、実は役にたつ森の歩き方。今泉先生のナビゲートで予習をしたら、今度の週末は親子で森へと出かけてみませんか?
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自然のなかで感性と感覚と体力を鍛える
「子ども時代は勉強だけでなく、自然体験も大事」というのは、たくさんの人が言っていますね。なぜいいのか。それはやっぱり、感性と知識が豊かになるからだろうな、と思います。ビルしか知らなかったから、もやしっ子になっちゃうよね。
野外に出ると、ふだんの暮らしでは見られないものがたくさんあります。そこで養われるのが、観察眼です。
周囲をよく見て、おもしろいものに気づく力。おかしなものを見つける力。それに、自然のなかで遊ぶと、体も鍛えられますね。
危険な時、瞬時に判断して体を動かすためには「経験」が重要
僕は動物の研究でずっとフィールドワークを続けてきたから、生き抜く力には自信がありますよ。異常な音、匂い、気配がしたら瞬時に逃げる、隠れる、場合によっては立ち向かう!
安全な日本では、そんな力は必要ないと笑いますか?でも、案外そうとも言えません。だって、事故や事件のニュースは、毎日のように目にするでしょう?
たとえば異臭がしてきたときに「なんの匂い?」なんていって、のんびりくんくん嗅いでいたら命に関わるかもしれない。「おかしい!」と思ったらすぐに息をとめて、匂いのしない場所へ走らなきゃ。
瞬時に判断して体を動かすためには、やっぱり経験が重要です。だから、感性と感覚と体を鍛えておくことって、現代人にとってもすごく大事なこと。都会で暮らすにも、森のことが役に立つんです。
下を向いて歩こう!
では、森に行ったら何を見ればいいのか?僕は、森のなかでは下を向いて「落とし物」を探しています。木の葉っぱや地面の穴、動物の足跡やうんち、そういうものをチェックしながら歩くんです。
たとえば、左右対称に穴の空いた葉っぱを拾ったら、それはムササビがいる証拠。ムササビは葉っぱを半分に折ってかじるから、左右対称の食い跡になる。かわいいでしょ。
リスの食い跡もおもしろいですよ。日本のリスは松の実が大好き。松の実は、松ぼっくりの鱗片の付け根についているんだけど、リスは実だけを器用にかじって残りをポイッと捨てるんです。その捨てられた芯が、なんとエビフライにそっくり!
森のなかにえびフライみたいな形のものが落ちていたら、楽しいよね。思わず集めたくなるでしょう?
ほかにも、虫が卵を産みつけた葉っぱとか、クマが木の皮をはいで樹液をなめた跡とか、森のなかにはおもしろい痕跡があちこちに残っています。
落とし物をチェックしながら歩くと、森の景色が変わって見えるはずです。姿は見えなくても、ここそこに動物が暮らしていることがわかる。彼らの暮らしが想像できるようになります。
▲ムササビの食い跡いろいろ。撮影は小川ましろ氏
▲リスの食い跡。松ぼっくりのエビフライができるまで。
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