「モグラ戦争」って聞いたこと、ありますか?音も煙もないけれど、実はいまこの瞬間も、私たちの暮らす地面の下で、モグラたちの戦争が続いているんだそうです。シリーズ累計500万部突破『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)の監修でも知られる動物学者の今泉忠明先生に、モグラのふしぎでおもしろい暮らしぶりを聞いてきました!
日本に暮らすモグラは7種類。世界でも珍しいモグラ大国
日本には、大きくわけて7種類のモグラが生息しています。
いちばん原始的なのがヒメヒミズ。おそらく60万年以上前に大陸から日本にやってきたものらしい。
このヒメヒミズは、富士山の溶岩帯なんかに住んでいます。土のないところに暮らすモグラって、珍しいでしょう?ふつう、モグラは土がないと生きていけないのですが、原始的なモグラは岩の隙間にもぐって暮らしているんです。モグラだけど穴も掘らない。おもしろいね。
その10万年以上後にやってきたのが、ヒミズ。
ヒミズの由来は「日を見ず」。モグラは地中で暮らしているから、お日さまの光を見ないってことですね。
それから次に、もうちょっと進化したモグラがやってきますよ。ミズラモグラです。
昔の人の絵で、左右の髪の毛を結って耳のあたりでキュッと八の字に結んだ髪型を見たことがあるでしょう?聖徳太子がしているヘアスタイル。あれが角髪(ミズラ)で、ミズラモグラの名前の由来です。このミズラモグラは大珍品。出会えたら超ラッキーなモグラです。
モグラ戦争の主役たち登場。やってきたのは10〜12万年前
さあ、4番目に入ってきたのが、モグラ戦争の主役の片方であるアズマモグラ。やってきたのは、今から10〜12万年前くらい。
現在、主に関東以北に生息しています。アズマモグラは体長10cmくらい。モグラは日本に入ってきた順番に、少しずつ大きくなっています。
そして最後に日本に渡ってきたのが、関西中心になわばりを持つコウベモグラ。2万年くらい前にやってきました。
このモグラは、コッペパンサイズ。アズマモグラより一回り大きくて、やわらかな土を好みます。
このほかに、新潟平野だけに住むエチゴモグラ、佐渡島に暮らすサドモグラの2種を加えて、日本に生息するモグラは7種類。世界でもこれだけ多くのモグラが暮らす国って珍しいんです。体の形も違うし、住んでいる場所も違う。おもしろいでしょ。
モグラを調べると、日本の成り立ちがわかる
7種のモグラはそれぞれ大陸からやってきました。海があるのに、どうやって渡ってきたのか不思議に思うかもしれませんね。
モグラは実は泳ぎも得意なんだけど、泳いで渡ってきたわけではありません。モグラがやってくるのは、いつも日本列島と大陸が陸続きになるタイミングなんです。
たとえばコウベモグラがやってきた2万年前は、ウルム氷河期。氷河が発達すると海の水が減ります。ウルム氷河期には、海面が180mも下がったそう。それで北海道にはマンモスやヒグマ、オオカミが入ってきたし、南からは対馬列島を経由して、コウベモグラが入ってきたわけ。
縄文人も南から入って、日本列島に広まっていったと言われていますね。モグラも同じですよ。
モグラ1匹の縄張りはだいたい直径300mくらい。子どもが巣立つと、お母さんの縄張りから出て、自分の巣を作ります。
そうやって、少しずつモグラの縄張りは東へ東へと拡大していって、進化した大きなモグラが、それまで住んでいた小さなモグラを追いやってきたんです。
だから、実はモグラの研究は、日本列島の歴史を調べるのにも役立ちます。モグラは飛ばないし、ふつうは泳がないし、土がないと巣を掘れない。地質を調べると、どのもぐらがいつ頃日本に来たか、そのとき日本列島はどんな環境だったかが見えてくるわけです。
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