5歳を過ぎてもおねしょをしていたら「夜尿症」という病気の可能性があり、それが原因で子どもの自尊心が低下して自信を失ってしまうこともあります。そんな夜尿症治療の権威である順天堂大学医学部附属練馬病院の大友義之先生も、実は「小学校4年生までおねしょをしていた」とか…。
子どもの自尊心を下げる「夜尿症」。おねしょはいじめよりダメージが大きいって本当!?
朝起きてもれていたら「ああっ」って…
―大友先生もおねしょで苦労されていたとは驚きです!
私の場合、小学校3年生から4年生まで2週間に一回という感じで続いていました。大量にもれるのではなく、少量もれていました。朝には結果が出るので、もれていたら「ああっ」って感じで…。
今思うと、過活動膀胱が原因だったのではないかと思います。というのも、私の父親が典型的な過活動膀胱の持ち主で、出かけると外出先でしょっちゅうトイレに行っていましたから。よく一緒に山に登っていましたが、山でも「自然が呼んでいる」って言いながら姿を消していました(笑)。
一方、母親は父方の祖母から、「あんたの育て方が悪いからこの子はおねしょが治らないんだよ」とよく言われていて、それでまた母もキーッとなって、こちらに怒りの矛先が向く(笑)。
治療せずになんとか治りましたが、治ったことがうれしくて、それを作文に書いたんです。
「僕はおねしょが治らない。いろいろなことをやったけれどダメなんだ。夢の中で、公園で友だちと遊んでいて、トイレに行ってくると言って、トイレでおしっこすると、それがおねしょになってしまう。でも最近は夢でトイレのシーンが出てきたら、あわてて起きてトイレに行くと、うまくいくようになりました」
そんな内容で、先生から何重丸ももらった記憶があります。この作文が今の自分にとって一番の商売道具なのに、母に早々に捨てられてしまった。「そんなの(置いておくことが)恥ずかしいわよ」って(笑)。
ー今もその作文があれば大友先生が取り組んでいる夜尿症治療に役立ったかもしれませんね。
そうですね。
幸い私の息子はおねしょはしませんでしたが、私の親戚の子どもがおねしょが治らず相談を受けたことがあります。
その子が小学校5年生のときに一家でハワイに行き、帰りの飛行機のシートをズブズブに濡らすほどもらしたらしいんです。それで親類から「助けてくれ」と言われて、薬を使ったら1年ぐらいでスッとよくなりました。でも、もらしたときは本人も親もショックで、CAさんの困った顔がずっと忘れられないと言っていましたね。
同じように中学生の男の子で、夏休みにイギリスのサマースクールに行き、寄宿舎でもらしてマットレスを汚して帰ってきた子どもがいました。帰国してイギリスの学校から8万円の請求書がきたそうで、お母さんはがっくりしていましたね。やられましたよ…って。
うかつなアドバイスで大失敗…!夜尿症の治療で大事なことは?
―それでも先生が経験者なら、患者さんも心強いでしょうね。
それが大失敗したことがあるんです。
私自身、小学生の頃は宿泊行事などの重要なときは寝なかったんです。寝たら「(おねしょをして)終わるな」と思っていたので。そんな経験から、宿泊旅行があるという中学校一年生の男の子に「寝なきゃいいじゃん。ずっと起きていればもれないよ」なんていい加減なアドバイスをしたら、彼はそのアドバイスに忠実に夜な夜な起きていたんです。ところが帰りのバスでうたた寝してしまい、もらしてしまった。最悪の事案ですよね。
次に親子で診察にいらしたとき、ガラッと診察室に入るなりお母さんから「このヤブ医者!」って怒鳴られまして。もう平謝りでした。
そりゃ怒りますよね。医者としてのアドバイスでなく、そこらへんの親父の意見を言っただけで、そこには何の医学的な根拠もない。今思い出しても申し訳ない気持ちです。そういうことは絶対に言わないようにしようと深く反省しました。
―やはり親も子も思い悩んでしまいますよね。
そう。だから私は親御さんのこともお子さんのことも、すごく褒めるようにしています。
海外でもきれいなデータが出ていますが、夜尿症の治療で一番効果があるのは、薬よりも何よりも「ささやかなご褒美」です。とにかく褒めて伸ばす。
子どもがおねしょをした翌朝、「あんた、失敗したね」と親がダメ出ししても、誰も幸せになりません。子どもが薬を自発的に飲めた、アラームをちゃんとやってくれた、下着や寝具を汚してもそれをちゃんと洗濯機に持っていけた…。それを、すごくいいね、よくやっているね、ダメなときもこうすればうまくいったよね、と褒めることがいちばんの特効薬なんです。
5日連続でうまくいったら、成功のシールを貼るとか、お菓子のグレードをアップさせるとか、ささやかな楽しみを用意するのもよい方法です。
そのためには、日記など客観的に記録をつけることが大事です。外来には親御さんしかこないケースもありますが、そういうときは日記を見ながら、先月と今月とを比べたらこんなにいい日が増えてきましたね、頑張りましたねって。私はそうやって親御さんを褒めるようにしています。
おねしょは人類の進化の証!?
―最後に、夜尿症に悩む読者の方にメッセージをお願いします。
たとえば「うちの子は喘息で」というと、周りからは発作が大変だな、早くよくなったらいいね、となんとなく同情されますが、「うちの子はおねしょで」というと、もう周りはドン引きですよ。もれない人からしたら全く理解できない世界ですから。
ただ、原始人はおねしょをしなかったという説があります。原始時代に洞窟で寝ていて、そこでおねしょをしてもらしたらそのにおいで猛獣に襲われてしまうからです。だから逆に言うと、おねしょは進化の証。「優秀になったから、おねしょするんだよ」と患者さんには言っていますね。
しかしながら、夜尿症というのは命に関わる病気ではないけれど、治そうと思わなければ絶対によくなりません。親子どちらもモチベーションが大切になります。
そのためには客観的な評価が必要になりますので、悶々と悩むぐらいなら、気軽な気持ちでかかりつけ医に相談してくださいね。
大友義之(おおとも・よしゆき)●順天堂大学医学部附属練馬病院小児科教授。順天堂大学医学部大学院修了後、国際的な経験を経て、長年にわたり夜尿症の診療・研究に携わり、泌尿器科との連携のもとで生活指導から薬物療法まで行う。夜尿病に悩まされる方々の生活の質の向上のために尽力している。
撮影/目黒-meguro.8- 取材・文/池田純子
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