コラム

料理研究家・植松良枝さん~旅と手しごとが暮らしのスパイスに

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料理研究家・植松良枝さん~旅と手しごとが暮らしのスパイスに

今回は、料理研究家の植松良枝さんのご自宅を訪ねました。
自らの手で畑を耕し、収穫した野菜を使ってレシピを提案してきた植松さん。大地とひと続きとなった暮らしの裏側には、旅や手仕事への愛情など、自然から受けるエッセンスがたっぷりと潜んでいました。

世界を旅して見えてくる、今の暮らしの大切さ

広い専用庭に魅せられ選んだという植松さんの住まいは、白い壁面収納が印象的な明るい空間です。そこにあたたかみを添えているのが、あちらこちらに置かれたかごや器、オブジェなどの手仕事の品。その多くが、国内外を旅した先で求めたものです。

旅行好きでも知られる植松さん。きっかけは、学生時代のベトナム旅行でした。
「ベトナムには、もう十数回いきました。お米もあれば、麺やパンもあって、野菜もたっぷり採れる。食の好みが合ったんだと思います」

そこから、フィンランドやスウェーデン、フランス、スペイン、ギリシャ、トルコ、ポルトガル、モロッコなど、世界中を旅するようになりました。

「昨年、出産するまでは、年に6〜7回は海外へ行っていました。旅先を決めるのは、いつも直感がたより。食や建築などを調べているうちに、今なんだかこの国が無性に気になる……と、感じるときがあるんです」

たくさんの旅は、植松さんにとって料理やインテリア、そして生き方を深めてくれました。

「海外を旅して帰ってくると、長所、短所も含めて、いろいろな個性が見えてくる気がします。良くも悪くも、日本ってきれいすぎだなぁと思ったり。
改めて和食の大切さも感じますし、もっときちんと食事に向き合おうとも思えます。多様性を知ることで、日本の良さに気づくのかもしれません」

旅の余韻をインテリアのあちらこちらに

旅から帰ると、そこでのたくさんのインプットがインテリアにも現れるそう。

「旅に行き、その土地の食や文化を味わうことで愛着も増すんです。
持ち帰ったキッチン道具を実際に使ってみたり、インテリアに取り入れてみるのが大好き。だから、そのときどきで部屋の様子は少しずつ変化していますね。
ディスプレイを入れ替えたり、小さな模様替えをするのも楽しいんです」

旅を重ねるごとに、変化や融合を繰り返すインテリア。○○風、と一言で表せないテイストは、そんな理由から生まれているようです。
なかでも、植松さんが大好きだというかごや器は、生活の道具として暮らしに新鮮さをもたらします。

ダイニングの壁面収納上に並ぶのは、スペインのバスク地方でつくられる栗のかごのコレクション。

「バスク地方は、ここ10年くらい毎年夫婦で訪れています。バル文化があって、料理もお酒も最高なんですよ」

「バルでは、どこもこんなふうに、小ぶりのバスクかごにざっくりとカトラリーやナフキンを入れてテーブルに置いてあるんです。こういうのなら、日本の暮らしにも取り入れられますね」

キッチンへ続く壁に取りつけたワインオープナーも、バスクで出合ったものだそう。添え木代わりにカッティングボードを使っているのも、植松さんらしい素敵なアイディアです。
ベトナムの邸宅レストランで使われていたというフードカバーや、スペインで見つけたエスパルト水草のロバのオブジェなど、旅先の思い出がインテリアをそのつど新鮮に、深みのあるものにしていきます。
ちょっとエッジのきいたアイテムも、天然素材ならそれぞれが引き立てあってしっくり部屋になじむのもうれしいところです。

植松さんが、ここ最近訪ねた中で、特に印象に残っている場所のひとつがイタリア南部のプーリア地方。そこで出合ったアンティークの器に、植松さんは、すっかり魅了されました。


ぽってりとした釉薬の質感と、淡いアイボリーがおおらかな表情。時を重ねて生まれる貫入や欠けにも、一つ一つに込められた物語を感じます。

「イタリアらしいやわらかな土を使った器です。見た瞬間、これはなんでも受け止めてくれる器だ!って一目惚れでした。
ちょっとした煮物や蒸しただけの野菜、和洋中、どんな料理にも合います。土ものだから、日本の器と合わせるのも良さそうですよね。日本の黄瀬戸の器にも通じる良さがある気がします」


蓋物には塩を入れて使うなど、暮らしの中でも生かしています。

大皿は、教室や来客のときにはもちろん、インテリアのアクセントとしても活用しています。
フルーツを乗せた皿は、フランスのアンティーク。「これ、実は遠隔操作で買ったんですよ(笑)。友人が買いつけでマルシェにいる時に、写真を撮って送ってくれて、それを見て買ってきてーとお願いしました。

アンティークの器は、使うのが難しいと感じる人もいるかもしれませんが、現行品とミックスすると使いやすいですよ。
全部をアンティークで揃えるよりも、テーブルにメリハリが出ます。大皿をポイントにするのもいいですね」


自宅をリフォームする際に、アクセント的に取り入れたタイル壁は、タイル職人だった植松さんのお父さんによるものだそう。

旅が、新しいステージを連れてくる

旅からもらうインスピレーションは、植松さんの世界をぐんぐんと広げてくれました。

中でも、20年来通い続けるほどのベトナム好きが高じて形になったのが、東京・代々木上原のベトナム料理店「ヨヨナム」の仕事。植松さんがレシピ開発に携わったメニューは、味はもちろん彩りの美しさとともに、ベトナムのおいしさと楽しさを伝えてくれます。

旅先で買った器やキッチン道具も暮らしの一部に。植松さんが主催する料理教室やサロンでは、そんな現地の空気もまるごと楽しめるのも魅力です。

インドやスリランカを旅したことで、スパイスの料理イベントも行うようになりました。

「スパイスは奥が深くて楽しいんですよ。スリランカカレーは、辛さもほどよいし、意外と時間がかからずできるんです。日本人の舌にも合いやすいと思います」

料理というステージに旅のスパイスを盛り込み、植松さんはどんどん好奇心の引き出しを増やしてきました。

「旅を重ねるたびに、自分の中に発信したいことが蓄積されていくんです。料理教室やサロン、イベントなどのインスピレーションは、旅から得ている部分も多いのかもしれませんね」


「金縁の剥がれた感じも愛おしい」という古いアラビアのカップは、東京・表参道のセレクトショップ「QUICO(キコ)」で。旅情を感じるショップも大好きだそう。

これから行きたい国は、と尋ねると、「メキシコ、ラオス、ミャンマー、クロアチア……と、たくさんの国が返ってきました。
「ラオスくらいの距離なら、子どもと一緒に楽しめるかな、と想像しているところです」。
昨年3月に生まれたお子さんは、そろそろ10ヶ月。
「私の海外旅行デビューは学生時代だったのに、息子は早くなりそうですね(笑)」。
お子さんとの暮らしが、また旅に新しい風を吹き込んでくれる日も近そうです。

2話目では、植松さんが旅先から持ち帰る手仕事の品々について、さらに詳しく伺います。

【プロフィール】植松良枝さん
料理研究家。自身の菜園で野菜やハーブを育てながら、旬の食材のおいしさを伝えている。和食をベースに、国内外の旅から刺激を受けた自由で大らかな料理スタイルにも注目が集まり、雑誌や広告、イベントなど多くの場で活躍中。旅好き、バスク通としても知られ、著書にスペイン・バスク地方の美食スポットを紹介した『スペイン・バスク 美味しいバル案内 (私のとっておき)』(産業編集センター)がある。2017年には代々木にあるベトナム料理店ヨヨナムのプロデュースも手がけた。

撮影/松木潤(主婦の友社写真課) 取材・文/藤沢あかり

 

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