鉄板焼き。関東にもありますが、関西圏では「超」メジャーな食べ方です。特に粉モノと呼ばれる「お好み焼き」「たこ焼き」は、鉄板がないと始まりません。これに対抗するように関東には「もんじゃ焼き」があったのですが、今は発祥の地と言われる月島に集まってしまい、関東でも「お好み焼き」の方が馴染みになってきました。
それはさておき、今回は、鉄板焼きの家電版「ホットプレート」のお話です。
鉄板焼きはなぜ美味く焼けるのか?
鉄板焼きのポイントは、長時間、一定の温度での焼きが可能なことです。肉にせよ、野菜にせよ、食材によって異なりますが、調理には最適な温度があります。鉄板焼きがいいのは、厚い鉄板が温度をキープするので、キレイに焼けることです。ホットプレートは、コントロールしやすい電気で温度キープします。
その上、料理は熱いと美味いと言われるように、作りたてが一番。焼けたところから食べていく鉄板焼きは、ある意味「焼きの王様」と言える食べ方です。
この鉄板焼きが一気に普及したのは、戦後と言われています。敗戦、戦災で東京、大阪は焼け野原。広島、長崎は原爆で壊滅的な被害に見舞われます。その中で皆が始めたのが鉄板焼きです。要するに戦時中物資がない時代でも、鉄板は重要な場所に使われてきました。それが焼け野原で使い道がなくなった時の、再利用と言うわけです。
似た話は「すき焼き」にもあります。すき焼きの「すき」は農具の「鋤」です。この刃の部分。この鉄の部分を外して、その上で肉を焼いたのが「すき焼き」の始まりだとか。もちろん翌日は柄にはめ込んで農作業に使います。こちらは戦国時代などに出て来る話です。
いずれにせよ、鉄はある種のパワーを授けているように思えます。
ホットプレートの煙を出さない仕組み
鉄板焼きに付きものの「焼肉」。バブル時代を「寿司と焼肉の日々」と称した人がいましたが、言い得て妙、ご馳走です。
しかし、困ることもあります。「煙」と「臭い」です。このため、炭火の上に大きなフードを持つ換気扇をシンボル的に付けるお店もあるほどです。
家庭でもそうです。フライパンで肉を焼くと、部屋の空気は一気に変わります。焼き始めて5分くらいすると、我が家のダイニングに置いてある空気清浄機は「強」に切り替わります。
換気扇を付けてもそうですから、余程いろいろな空気浮遊物が出るわけです。
しかし、これを防ぐ手があります。実は「煙」と「臭い」、特に「臭い」ですが、これは油が焼ける時に出てきます。焼肉屋の煙は、肉からしたたり落ちた脂分、肉汁が、炭火で焼ける時に出ます。フライパンの煙は、肉から出た脂分、肉汁が焦げる時に出ます。ポイントは滲み出た脂分、肉汁を焦がさないことです。
このため、ホットプレートの焼肉用のプレートは網状になっており、脂分、肉汁を下に落とします。焼肉屋だとそこに待つのは炭火ですが、ホットプレートは細身のシーズヒーター。そしてその下に、水受け。油を冷やしてしまい、「煙」「臭い」を沈黙させようというわけです。
今回試した中で、この仕組みを取っているモデルは、焼肉をしても、空気清浄機は「弱」のままでした。
プレートは何種類あればいいのか?
今のホットプレートは、2枚プレートが基本です。「平面プレート」と網状の「焼肉プレート」です。焼くのは1枚でも可能です。しかし、煙のことを考えると、2枚は必要でしょう。関西ならあと1枚。「たこ焼きプレート」ですね。
作るとわかりますが、自宅たこ焼きのハードルは、高くないです。しかもかなり美味しく出来ます。その上、ワンプレート1回分、30個作っても、タコをケチらずに入れても、500円以下で済みます。と言うことで、たこ焼きも好きな私は、勝手ながら3枚をベストとさせてもらいます。
保温、150℃近辺、200℃、250℃の温度表示が目立っている理由は?
簡単に言うと、この4つの温度のプレートがあれば何でも焼けるからです。
250℃は、フライパンの強火と思ってください。主に肉を焼く時使います。
200℃は、中火。お好み焼き、焼きそば、バター焼き、いろいろと使えます。
150℃は、弱火。目玉焼き、フレンチトースト、クレープ。ゆっくりじっくり焼くものです。
保温は、70〜90℃前後です。焦げない程度に、しかし熱いままキープです。お好み焼きを食べる時にも使えます。
ホットプレートは、アナログの調理家電。なんたって、熱源はシーズヒーター1つで、調理しなければならないからです。このため温度が安定するにも時間がかかりますし、±10℃は誤差の内。食材と会話しながら、ゆっくり調理することをおすすめします。
おすすめのお値打ちホットプレート3機種とは?
さて、今回のご紹介するホットプレートは、3つです。象印マホービン、タイガー魔法瓶、そしてパナソニックです。私は、それぞれの使った印象で、「キング」「クイーン」「プリンス」と名付けました。単純に機能による格付けではありません。あくまでも印象の問題です。では、それぞれをご紹介しましょう。
■老舗鉄板焼き店の雰囲気が漂う質実剛健、「漢」が香る『キング』モデル
象印マホービン やきやき EA-GV35
フタを取ると印象的な「黒一色」。焼肉、鉄板焼きで真っ先に想像する色です。仕様もそれを裏切っていません。実際は、本体側面は金属面なのですが、ほぼ記憶に残りません。
プレートは、「遠赤平面プレート」、「遠赤穴あき焼肉プレート」、「大たこ焼きプレート」の3枚に、「遠赤平面ハーフプレート」、「遠赤穴あき焼肉ハーフプレート」の2枚という贅沢な構成。「遠赤穴あき焼肉プレート」は実質半分穴が空いており、そこに「ハーフプレート」をはめて使うことにより、「全面焼肉プレート」、「半分焼肉、半分平面プレート」として使うことも可能です。
大きさもお好み焼き2つ分が十分焼けるので、広島のお好み焼きも難なく作れるスペースがあります。プレートはトリプルチタンセラミックコーティングで、よほど尖った硬いヘラでない限り大丈夫とのこと。ヘラを選ばないためでしょうか、ヘラの附属品はありません。ただたこ焼きは「竹串」推奨でした。
焼肉プレートは穴から油が落ちるので、煙も少ないのが特徴。とにかく、調理時に問題は出てきませんでした。
問題は準備、片付けです。
プレートが多いということは、使わないプレートをよけておく必要があります。これ、意外と面倒です。しかもハーフプレートは、サイズが合わないので、別に対応する必要があります。象印は梱包仕様のままに、発泡スチロールとプチプチを使うように指示しています。しかし梱包材はあくまでも、輸送時のためであり、家庭に持ち込むにはちょっと相応しくないと思います。また、全部をまとめる収納ホルダーですが、こちらもちょっと使い勝手が悪いです。
“雰囲気が良く、豪快。ただし片付けに弱い”、この「やきやき EA-GV35」を「ホットプレートのキング」と呼びたいです。
●市場売価:15,000円前後 ●外寸:54(W)x37.5(D)x12(H)cm、内寸:〇平面プレート:43.1×31×2.1cm、〇たこ焼きプレート:43.1×30.9×1.1cm、〇平面ハーフプレート:20.5×29.6×1.2cm、〇穴あき焼肉ハーフプレート:20.5×29.6×1.2cm、〇穴あき焼肉プレート:43.1×30.9×1.9cm、●本体重量:約9kg、●消費電力:1300W、●ケーブル長:2.5m
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■抜けのない仕様、「良妻賢母」の『クイーン』モデル
タイガー魔法瓶 これ一台 CRV-G300
タイガーの「これ一台」は、「平面プレート」「全面穴あきプレート」の2つ。「全面穴あきプレート」に「焼肉プレート」「たこ焼きプレート」をはめて、使うタイプです。素直に3枚だと、重くなりますので、ちょっと軽くなるよう工夫がされているわけです。
まず、目立つのは、銀縁です。本体枠が「銀」というだけの話なのですが、黒一色の象印と、これでもかという位の差があります。象印が店の本格派、漢臭い雰囲気なら、こちらはモダンで家庭的。「食卓」のイメージがすっと出てきます。正直、この差はかなり大きい。黒縁、銀縁の眼鏡ほど印象が変わります。
しかも、よくよく見極められた仕様でホトホト感心します。それは調理ではなく、片付け時に効いてきます。
プレートは象印より、縦横1cmずつ狭いのですが、特に問題なく、今回の規定料理、焼肉、広島のお好み焼き、たこ焼きは、ラクラク作れました。煙も少なく、味も美味しくいただけました。
さて収納ですが、それは「これ一台」が圧倒的に楽です。まず、はめこみプレートの2種類には、専用ホルダーが付いています。しかも、このホルダーには専用のヘラまで付いています。この心遣いはちょっと嬉しいです。
そして、全部を入れてロックすると、本体の横が変形、足になり立たせることができます。これはお見事。狭いところでも使い勝手のよい本格ホットプレートです。
私は、この抜けのない「これ一台 CRV-G300」を「ホットプレートのクイーン」と呼びたいです。
●市場売価:16,000円前後 ●外寸:56.9(W)x38.5(D)x12.7(H)cm、内寸:〇穴あき波形プレート:42.1×30.9×2.2cm、〇平面プレート:42.1×30.9×2.4cm、〇たこ焼きプレート:42.1×30.9×1.3cm、、●本体重量:約8.6kg、●消費電力:1300W、●ケーブル長:3.0m
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■次世代ホットプレートの意欲作。『プリンス』の登場!
パナソニック IHデイリーホットプレート KZ-CX1
広島にはお好み焼き屋がすごく多いです。皆、マイ・お好み焼き屋と言える店を持っています。このためでしょうか。毎日のように鉄板を見ていると、家のテーブルが鉄板だったら楽なのにと思ってしまいます。
それを実現しようとしているのが、パナソニックのKZ-CX1です。
こちらは鉄板焼きと言うより、ホテルのバイキング時に多く並べられている、冷めないように工夫されたフードトレイを思わせます。いわゆる日本の家庭を思わせない、ちょっとぶっ飛んだデザインです。質感もそうですが、テーブル中央に置くと、とても雰囲気のいい横長なデザインは、今までのホットプレートの概念を軽く打ち破ります。それはKZ-CX1が、片付けないことを前提に作られているからです。
熱源はIHです。このため、今までのホットプレートと違い、温度コントロールが極めて速く、的確にできます。温度制御は、10℃きざみで140〜250℃、それに保温(90℃)の13段階。揚げ物の場合、140〜200℃の7段階です。
当然、専用プレートの代わりに、IH用のフライパン、鍋を置くと、IHクッキングヒーターとしても使えます。アイデアさえあれば自由自在と言うわけです。これ一台あればガス台不要と言えます。
しかしホットプレートの得意な料理が実は苦手だったりします。一番は焼肉でしょう。焼けないということではありません。最も焼けます。が、脂分の処理ができない。プレートに溜まります。テーブルの上に油が跳ねます。当然、空気中の浮遊物も増え、空気清浄機は「強」運転に。油を下に落として、煙、浮遊物を封じることができません。
また、たこ焼きプレートも付いていません(別売りです)。が、金属ヘラ×2本、ひっくり返し用の樹脂ヘラ×2本をきちんと付けています。ホットプレートを熟知しているのだけど、まだ商品として熟成度が足りていないのが伝わってきます。
焼肉はちょっと残念ですが、それ以外にフライパン(柄が取れるタイプが使いやすい)で調理すれば、できることが格段に増えます。IH対応なら鍋も使えます。
しかも出しっぱなしても違和感のない洗練デザイン。本当に片づけなくても大丈夫です。
象印、タイガーのホットプレートが、今までのホットプレートの集大成とするなら、こちらは次世代。このことから、私は「ホットプレートのプリンス」と呼びたいですね。IHだけにお値段に少々お高いですが、新しい魅力を十分に持ったホットプレートと言えます。
●市場売価:47,000円前後 ●外寸:59.3(W)x32.3(D)x4.6(H)cm、内寸:〇専用プレート:57.6×29.6×2.5cm、●重さ:約7.7kg、●消費電力:1400W、●ケーブル長:1.9m
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文/多賀一晃
1961年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学部卒。大手メーカーにて商品開発、企画を担当後独立。国内はもちろん、世界最大の家電見本市「IFA」等で世界中の家電を取材し、役立つ情報を「生活家電.com」から発信中。日本経済新聞夕刊の家電製品特集や土曜日別冊「日経プラス1」の「家電ランキング」選者、WEDGE Infinity「家電口論」主筆としても活躍。
生活家電.com
2018.06.07ホームパーティから毎日の調理まで、ホットプレートが1台あると何かと便利ですよね。地方自治体への寄付金制度「ふるさと納税」でも、2つの自治体の返礼品としてホットプレートが登場しました。まだ持っていない人やもう1台ほしい人には...続きを見る
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