コラム

その起業、その転職、大丈夫ですか？家族を不幸にしないために考えたいこと

更新日：2017.10.28

「子どもの教育資金、足りるかしら？」「老後はどうしよう？」…など、お金の不安は尽きないもの。ファイナンシャルプランナーとして数多くの相談に答えてきた畠中雅子先生が、そんな不安とサヨナラするための心得をアドバイスします！

趣味が高じて蕎麦屋を回転！ところが…

「これは相談者の中で何例も見たことがあるのですが、だいたいダンナさんが40才を超えたあたりで、転職や起業をしたがるというケース。

Ａさん（39才女性・夫44才・娘５才）のご主人も脱サラして、そば屋を始めた人。もともとそばを打つのが趣味だったというご主人。しかし当然ながら、手打ちがじょうずにできるぐらいでは商売になりません。おそばがおいしいのは当たり前。そばつゆとか天プラとか、人気店になるための重要な要素はたくさんあります。

最初は店内のことは奥さんが手伝っていましたが、だんだんと客足が落ちてきて、開業から１年過ぎたあたりから赤字が累積してきました。最近は奥さんが外にパートに出て、赤字を埋めるようになったと聞きます。
こうなると一度リセットしないとダメですね。

たまたま、そば屋という例を多く見てきましたが、焼き鳥やカフェ、美容院などそれ以外にも失敗例はたくさんありますよね。

夫と妻では、起業するときの意気込みが全く違います。夫の場合、家族の人生をかけてやるわけですから、お金の使い方が大きいし、それによって妻の人生も変えていきます。男の人って、夢があるときは猪突猛進というか、すごく突っ走って、やり始めたらもう誰にも止められない。
でも、そんなふうに客足が下がってきたら、盛り上がることはないと考えて会社員に戻ってもらわないと傷は深くなる一方ですよね。

一度、客足が落ちたお店が、また盛り上がるケースは非常にまれです。
昔、倒れかけたお店を立て直すというテレビ番組があり、うちの近所のパン屋さんが出たことがあります。番組の企画で商品をクリームパン1本にしてからは、一時期お客さんがどっと詰めかけましたが、またしばらくすると閑散としてきて、結局つぶれてしまった。
1つの商品だけのパン屋さんなんて、無理があったと思います。テレビに出なければもう少しもったように思えますが、いずれもジリ貧になってから盛り返すのは、ほんとうに難しいということですね」

開業するときは同業者から話をよく聞きましょう

「もしお店を始めるなら、最初から規模を大きくしない、形から入らないということですね。同じ業種の人のところに足を運び、経営の話を聞くべきでしょう。実際にこの業界はどういう状況になっているのか、どれだけのお店がつぶれているのか、まずは現実を知ってから始めるということです。

それから運転資金を忘れている人もけっこういます。開いて半年ぐらいは収入がなくても成り立つ余裕がないとダメですが、開業資金で頭がいっぱいで、なかなかそこまで考えが及ばない。

会社員なら立てかえといっても、それほどの額にはなりませんが、事業主の立てかえは、まとまった金額になるので、それで耐え切れず倒産してしまう会社もあります。また、その立てかえ金のために消費者金融からお金を借りる人もいるんです。とにかく自分で経営するとなると回るお金も大きいので、ちょこっと歯車がずれただけでも、倒産の芽は出てしまうのです。

長年サラリーマンをしていると、一国一城の主という夢があるのかもしれません。でも、脱サラした人の本音としてよく聞くのが『気の合わない上司にいじめられていたほうがよかったかも』って。それぐらい転職や起業は厳しい世界なのです。

転職というと夢を抱きがちですが、ご主人が店を開きたいと思ったら『何年もちこたえるか』というのを奥さんに伝え、奥さんは、その何年がきてうまくいかなかったら、会社員に戻る約束をさせることです。
自営で失敗してしまうと、ほんとうに老後の成り立たない家になってしまいますからね」

うまくいく転職のほうが難しいと心得て

「会社員から会社員へと転職する場合も注意が必要ですよ。
知り合いのＵさん（女性38才・夫41才・娘12才・息子９才）は、ご主人がいまの会社を辞めて転職したいと言い出したときに『収入が上がるから』といわれて同意しました。外資系の会社に転職したＵさんのご主人は、実際に給料はすごく上がりましたが、仕事がハードで土日も出勤。
久しぶりにお会いしたご主人は、どこか悪いんじゃないかなと思うぐらい激ヤセしている。でも病院に行く暇もないほど激務だそうです。

転職の場合、実際に働いてみると条件が違うというのはよくあること。転職して年収が上がるというのは、めちゃくちゃこき使われているということですよ。
何かその人に特別な才能があって、それで請われて転職する分にはいいと思うのですが、いまの何かがいやだといって転職したら、おそらくまた次も同じ悩みを抱えるでしょう。
条件はたいてい悪くなるし、よくなればこき使われて寿命が短くなる。寿命というのは、仕事人としての寿命。50才ぐらいでリタイヤできるぐらい年収が高くなればいいでしょうが……。
また転職すると退職金が少なくなるので、やはり家計的にもリスクです。

さらに転職を繰り返していると、転職グセのつくダンナさんもいるので要注意。ちょっといやな思いをしたらやめちゃう、という感じで、それで失業給付金をもらっている間に、ほんとうに働かなくなったというダンナさんも実際にいます。
そう考えると、夫の人生というのは家族の人生に影響を及ぼすのだということを、今一度自覚していただきたいですね」

※畠中雅子著『サヨナラ、お金の不安』（主婦の友社刊　1200円＋税）より

畠中雅子／ファイナンシャルプランナー
社会人の娘、大学生、高校生の息子の母。実体験に基づく的確なアドバイスに定評があり、多数のメディアで幅広く活躍している。『Como特別編集　子育て中でも貯金ゼロでも1000万円貯める10のルール』（主婦の友社）、『どっちがお得？定年後のお金』（高橋書店）など著書多数。

取材・文／池田純子

Profile畠中雅子

ファイナンシャルプランナー
社会人の娘、大学生、高校生の息子の母。実体験に基づく的確なアドバイスに定評があり、多数のメディアで幅広く活躍している。『Como特別編集　子育て中でも貯金ゼロでも1000万円貯める10のルール』（主婦の友社）、コミックエッセイ『結婚したらすぐ考えるお金のこと』（KADOKAWA）など著書多数。

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