カリスマ家庭教師・辻義夫先生の授業は、夢中で遊び、楽しく学ぶうちに、知らないうちに理系科目が大好きになってしまうことから、「わくわく系中学受験」と評判です。できることなら、理系に強い子に育てたいと願う全親必読!家庭でできることはもちろん、ついやりがちな「あさって方向のNG努力」についても伺いました。
先取り学習のやりすぎに注意
中学受験をするかどうかはさておき、わが子に勉強に前向きに取り組み、学ぶことを楽しむ力を身につけてほしい、というのは、すべての親に共通する願いでしょう。
ただ、方向性を誤ると、勉強嫌いになったり、深い挫折感を植え付けてしまうこともあるので注意が必要です。
「低学年のうちからどんどん先取り学習を進めれば、受験でも有利ですよね?」
「1年生のうちから、難関志望校の対策をやりこんでおけば、確実に合格できるのでは?」
ときどき保護者の方からこんな相談を受けることがあります。これは典型的な「あさって方向」です。子どもの発達段階を無視した詰め込み学習や、幼いころから志望校の過去問を解かせまくるといった方法は、かえって逆効果。
「やらされている」という感覚が強くなってしまううえ、いい点数をとることばかりを目指すようになって、思考力を鍛えるような問題に苦手意識を持つ原因にもなりかねません。
また、わが子の可能性を伸ばしたいと、小さなころから英会話、水泳、お絵描き教室、習字にプログラミング…と、分刻みのスケジュールで習い事をさせている家庭もあります。しかし、実は難関校に合格する子にはこうした環境で育った子は少ないことも知っておいてほしいことです。
子どもの「好き」や興味を否定してはいけない
確かに中学受験の山場ともいえる小学校高学年では、多くの受験生は時間を惜しんで勉強に取り組みます。でも、実はそれができるのは、小さなころから好きなことに集中して遊んだり、工夫したり、考えたりして楽しんできた時間があるから。たっぷり遊んできたことがバックボーンとなって、机に向かうことが苦にならない「学ぶ力」を支えているのです。
そうした力を培うには、まず何をしたらいいかと気になりますね。
たとえば、2〜3歳のころの子どもは「これは何?」「なんで?なんで?」と親を質問責めにするようなことがよくありますね。面倒くさがらないでください(笑)。
それから、大人がギョッとするようなものに興味を示すこともあるでしょう。石ころばかり拾ってきたり、ナメクジを缶いっぱいに詰めて持って帰ってきたり、時計やおもちゃを分解しはじめたり…。
「そんなゴミみたいなもん、捨ててきなさい!」
「ぎゃー!何拾ってきてんの!」
「こらー、高かったのに何してるのーーー!」
反射的に怒りたくなることもあるでしょう。ですが、ここで子どもを否定しまうと、せっかくの好奇心の芽を摘んでしまうことにもなりかねません。
ちなみに「めっちゃかわいいの、集めてきたで」とナメクジを缶いっぱいに詰め込んで母に見せたのは、幼少期の私です。母は腰を抜かしていました(笑)。
日常のなかでできる「本物体験」をたっぷりと
私はよく、「子どもには、『本物体験』をたくさんさせてあげましょう」と話をします。
本物というと、有名な美術作品や音楽の生演奏、海や山の絶景などをイメージされる方も多いかもしれません。もちろん、そうした体験もすばらしいです。でも、実は「本物」は身近なところにもたくさんあります。
道端で蝶に出会ったり、近所の公園で木の実を拾ったり、石の下にいるダンゴムシを発見してつついたりすることだって、すべて「本物」に触れる経験です。
ふだんの食事だって、「本物体験」になります。
たとえば焼き魚を食べるとき、「これは、魚のどの部分だったんだろう?」と考えてみる。実際に、魚屋さんで1尾の魚を買って親子でさばいてみると、骨の位置や内臓の場所がわかり、生き物の体の構造にも興味が湧くかもしれません。
そこから、「白身の魚と赤身の魚があるのはなんでだろう?」と別の疑問に気が付く子もいるかもしれません。まぐろやかつおなどの回遊魚は、一生止まらずに泳ぎ続けている長距離ランナー。筋肉で大量の酸素を消費するため、血液中に酸素を運ぶためのミオグロビンという赤い物質をたくさん持っています。これが、身が赤い理由。一方、近海にいるヒラメやタイは、あまり動く必要がないので、ミオグロビン量が少なく、身も白いのです。
疑問が見つかったら、図鑑や本、インターネットで調べてみると、どんどん世界が広がります。
理系脳が育つと「生きていて楽しい!」
こんなことを考えていると、今度は、「鶏肉は薄いピンクだけど、鴨の肉は同じ鳥類なのに真っ赤だぞ。なんでだろう?」。さらに新たな疑問も浮かび上がりそうですね。
「そういえば、学校で鴨は渡り鳥って習ったな…。ということは、長い距離を飛ぶはずだから…」と、生活のなかでの発見が知識に結びついて、さらなる発見につながっていく。
私は、理系的な思考を身につける最大のメリットは、ここにあると思っています。
つまり、日常のなかにわくわくする発見がいくつもあるから、生きていて楽しくなる!
散歩でも、目標歩数をクリアするために歩くのか、散歩道のなかであれこれ発見しながら歩くのかでは、楽しさが違いますね。
私のおすすめは、定点観測。定点観測は、研究の基本的な手法のひとつでもあります。
道端のなんてことない雑草でも、「1週間でこんなに伸びた!」「花が咲いた!」など、いろいろな発見があるものです。たとえば毎日同じポイントで撮影して並べてみると、春には芽吹き、夏には茂って、秋には種ができて、冬には枯れてというサイクルがあることも実感できるでしょう。画像を編集して並べてみると、自然の営みに大人でも感動すること間違いありません。
理系的思考は、変化の激しい時代を生き抜くベースにもなる
昨今のテクノロジーのめざましい進化で、社会はダイナミックに変化しています。
便利な技術を利用するだけの人生では、いざ何かのサービスがストップしたときに何もできなくなってしまうかもしれません。こうした危機感は、多くの保護者に共通するものだと感じます。
理系と文系の垣根も低くなり、領域が重なりあう部分も増えてきています。
「文系に進ませたいから、理科や数学はできなくてもいい」「理系だから、国語はできなくても大丈夫」という時代ではありません。
どんな道に進むとしても、理系的思考力を培うことは、子どもたちが変化の大きい時代を生き抜く支えとなるもの。自分で疑問を見つけ、考え、答えを探し出していくプロセスを楽しめる子は、きっと人生をわくわく切り開いていくことができるはずです。
▶次の話 【後編】0歳~小学校中学年まで。年齢に合った学びのポイントとは
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辻 義夫(つじ・よしお)●理数教育課、中学受験専門のプロ家庭教師「名門指導会」副代表。「中学受験情報局かしこい塾の使い方」主任相談員。大手塾講師、個別指導教室運営を経て、楽しみながら理数系科目が好きになるノウハウを確立。勉強法や受験のお役立ち情報を発信している。
辻先生が監修!理系脳を
育てるレシピ本もチェック!
冷凍庫を使わずに作る本格ジェラートや色が変わるムースなど、理科への興味を広げる入り口にうってつけ。過去に中学受験で出題された入試問題も収録した、理系脳をはぐくむレシピ本!
『キッチンで頭がよくなる!理系脳が育つレシピ』中村陽子 著/辻義夫 監修
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