北海道の小さな町工場から、宇宙へ。日本で唯一の無重力実験装置や真空実験装置などを備え、ロケットや人工衛星の開発・打ち上げを進める植松電機。
植松電機を率いる植松努さんは、「『どうせ無理』をなくしたい」を信条に、全国の子どもや大人に夢をあきらめない姿勢を伝え続けています。
「大人も子どもも“ちゃんと”しなくていい」。植松さんが語る、人の可能性を育てるためのポイントとは?
指導され、教えられ、正されてきたら、子どもにも同じことをしてしまう
子どもには夢中になって夢を追ってほしい。そう願う一方で、子どもが夢中になっている姿は危なっかしく見えて、つい口出ししてしまうという親も多いでしょう。
学校の成績につながらないことや、親自身が知らないことは、「いくら頑張っても意味がない」「ひと握りの人しか成功できない」と釘を刺したくなってしまう。
それは親自身が、これまで大人たちに指導され、教えられ、正されて生きてきたからだろうと思います。けれど、僕たちを指導してきた先生や大人たちは、絶対的に正しかったのでしょうか?
僕は、「教える」ことでは、自分を超えるような子は育てられないと思っています。そのうえ、大人が学んできた情報や技術は、もうすでに古くなっている可能性だってあります。
たとえば20年前の情報を、10年後の未来を生きる子どもたちに教えたとしたら、そこには30年ものギャップがあるわけです。
情報や技術が1年で古くなる時代。だからこそ「学ぶ」が大事に
僕は専門学校でも授業を受け持っていますが、最初の授業では必ずこう伝えます。
「いま習ったことは、来年には無駄になるかもしれません」
そのくらい技術の進歩は早いんです。
でも、だからといって学ぶことは無駄ではありません。むしろだからこそ、「知りたい!」「やってみたい!」という欲求を持つことが大切なんです。
親も、自分の知識を常にアップデートする意識を持ちましょう。そして、自分の知っていることが本当に正しいのか、疑ってみることです。大人が学び続ける姿勢こそが、子どもにとっての最高の道しるべになります。
夢中を見つけるには「出合う」を奪わないこと
では、どうやったら「どうせできない」「意味がない」なんて諦めずに、時間を忘れて夢中になれるものを見つけられるのでしょうか。
僕は、小さいころからいろいろなものに出合うことが必要だと考えています。
子どもが「やりたい!」と言ったことは、ぜひやらせてあげるのがよいと思います。よいトレーナーのもとで一緒にできれば最高だし、本を見て調べながら、独学をするのもよいでしょう。
インターネットをうまく使えば、小学生のころから大学の知識が身につけられる時代です。「学校で習ってないからやめなさい」なんて言葉はナンセンス。大いに活用して、どんどんフライングすればいいと思います。
やってみて「思ったのと違ったな」と思えば、軌道修正すればいいだけのこと。大人は間違っても「自分で始めたんだから、最後までやり抜きなさい」なんて怒らないでください。
「やり遂げること」にこだわるあまり、本当に夢中になれるものと出合うチャンスをつぶしてしまうとしたら、こんなもったいないことはありません。
人は言葉で考える生き物。すべてを「やばい!」と表現していたら心も育ちません
もうひとつ、僕がとても重要だと考えているのが「言語力」です。なぜなら、僕たち人間は、言葉で考える生き物だからです。
言語力がある人は、自問自答のレベルが深い。自分といっぱい会話ができるんです。
「なぜ自分はこれをやりたいのか」
「なぜこれはやりたくないのか」
「なぜ楽しいのか」
「なぜつらいのか」
こうして言葉にして考えることで、気持ちを整理し、自分のことも周囲のことも理解できるようになります。
今の時代、うれしいこともつらいことも「やばい!」の一言で済ませてしまうことが多いようです。でも、それってとてもこわいことだと思います。
感情の奥にある本当の理由に目を向けなければ、自分のこともわからなくなってしまいます。言葉をたくさん持っていれば、自分の気持ちを丁寧に扱える。同時に、人の気持ちを想像する力、ヒューマニティも育ちます。
だからこそ、言葉を学ぶこと、本を読むこと、感じたことを言葉にして話すことがとても大事なんです。
「ちゃんとする」努力を続けたら、誰にも頼れない人になっていた
子どもに「ちゃんとしなさい」って言うのは、もうやめたほうがいいと僕は思います。
僕は「ちゃんとしなさい」と言われまくって育ち、ちゃんとする努力もしました。その結果、人に迷惑をかけてはいけないと、誰にも頼れない人間になりました。困ったことがあっても誰にも相談できないし、すべてを一人で背負い込むようになりました。だからとてもつらかった。
大人も子どもも親も先生も、自分だけで生きられる「ちゃんとした人」なんて誰一人としていません。ヒトはそもそも、助け合って生きていく生き物です。
私たちは誰もちゃんとしていないから、お互いに頼り合い、任せ合い、してもらったことに感謝し合う関係になればいいんです。
まずは大人が「頼って、任せて、感謝する」を実践してほしい
だから、大人も「ちゃんとしているフリ」をするのはやめましょう。「お母さんだからちゃんとしなきゃ」なんて思わず、子どもにどんどん頼りましょう。
頼られて、任されて、自分で「できた!」という経験をするほど、子どものやる気はどんどん増していきます。そして感謝をされるほど、他人の評価ではなく、喜ばれる幸せを軸に行動できる子になっていきます。
まずは大人から、我が子に「頼って、任せて、感謝する」訓練を始めましょう。
植松 努(うえまつ・つとむ)●植松電機代表取締役社長、カムイスペースワーク代表取締役社長。ロケット開発や宇宙教育を通じて「どうせ無理をなくしたい」を伝え続ける。全国の学校や企業で講演多数。『NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』『「どうせ無理」と思っている君へ 本当の自信の増やしかた』など著書多数。
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