北海道赤平市の電機工場 植松電機は、リサイクルに使われるマグネットという機械でシェアナンバーワンを誇る会社です。しかし、植松電機がユニークなのは、マグネットのシェア率だけではありません。
植松電機のもうひとつの顔は、宇宙開発企業。敷地内には日本で唯一の無重力実験装置や真空実験装置などを備え、ロケットや人工衛星の開発・打ち上げが進められているのです。
そんな植松電機を率いるのが、代表取締役の植松 努さん。「どうせ無理」をなくしたい――。植松さんが語る、夢をあきらめない力とは?
学校では否定された夢。でも説得力、ないよな~
僕は、飛行機やロケットが大好きな子どもでした。
大好きなじいちゃんと一緒にテレビで見た、アポロの月面着陸。じいちゃんは「お前もいつか月に行ける」と言ってくれました。
僕は、じいちゃんの喜んでくれる顔が見たくて、きっと宇宙が大好きになっちゃったんだろうと思います。
でも、学校の先生は違いました。
僕が一生懸命、宇宙やロケットの勉強をしていると、「そんな夢みたいなことを考えていないで、勉強しなさい」「宇宙なんて東大に行くような頭のいい人じゃないと無理。お前には無理だ」と言うのです。
僕は納得しませんでした。
だって、先生は宇宙開発をしたことがない。やったこともない人に「できない」と言われても、説得力がないと思ったのです。
救ってくれたのは、ファーブルやライト兄弟やエジソン
僕が信じたのは、伝記に登場する偉人たちでした。
『ファーブル昆虫記』のアンリ・ファーブルや、人類初の動力飛行機を作ったライト兄弟、それから発明王・エジソン。
ライト兄弟は、ふたりとも大学に進学していません。彼らの時代には、まだ飛行機というものが存在していませんでした。だから読むべき文献もないし、教えてくれる先生もいない。それでも、誰もやったことのないことに挑んで、世界を変えたんです。
こうした偉人の存在に、僕は救われました。
誰もやったことがないことをやろう、というのは、今に至るまで変わらない僕の信念です。
「危ないからやめなさい」は本当に守る言葉?
子どもに「夢を持ちなさい」という大人はたくさんいます。でも、その一方で、無意識のうちに子どもの夢を奪い去ってしまう大人も多いんです。
たとえば、「危ないからやめなさい!」という言葉。
赤ちゃんが何かを口に入れそうになったとき、はいはいをして進んでいくとき、高いところに登ろうとしたときーー。思わず「危ない!」と止めてしまった経験はありませんか?
これって、一見子どもの安全を守っているように見えて、実は子どもを支配するやり方でもあります。
口に入れてはいけないものは手の届かない場所にしまい、コンセントにはカバーをして、扉は開かないようにする。そして目を離さない。
そうして環境を整えれば、「やめなさい」という言葉を使う必要はなくなるはずです。でも、大人はその準備を怠って、命令だけで止めようとする。
「危ないからやめなさい」と言われるたび、子どものなかでは「知りたい!」「やってみたい!」という火が少しずつ消えていきます。
知りたい、やってみたい。それが夢の種になる
「知りたい」「やってみたい!」は、夢の土台となるものです。
夢中になるとは、時間を忘れて集中している状態。夢中になれるものがある子は、自分だけの夢を見つけて、道をひらいていけるのです。
子どもの「知りたい」「やりたい」は、大人からすると「くだらない」「意味がない」と思われるかもしれません。でも、それは大人の常識であり、思い込みです。
赤ちゃんは誰にもやり方を教わらなくても、つかまり立ちをはじめ、はいはいをして、そして歩き出します。「知りたい!」「やってみたい!」という思いが、立ってみよう、動いてみよう、歩いてみようという挑戦につながっているんです。
そして、言葉を覚えると、「知りたい!」という気持ちから、どんどん質問するようになります。覚えたことは、得意になって説明したり、発表したりします。
けれど、「なんで?」「どうして?」という子どもからの質問攻めや、「聞いて聞いて!」という声を、“面倒”と感じてしまう大人も多いのではないでしょうか。
「くだらないことを聞かないで」「うるさい!」と突っぱねてしまったり、「そんなこと覚えてどうするの?」「そんなことより宿題やりなさい」と言ってしまったり。
子どもが夢中になって何かを作ったり、描いたりしているのを「もう片づけなさい!」と中断させてしまうこともあります。
支配はとても危険。命令ばかりの環境では、〈夢中の芽〉はしぼんでしまう
赤ちゃんのころから、禁止されたり、受け流されたり、大人の常識で止められ続けていたら、子どもが本来持っていた夢中になる力はだんだん影をひそめてしまいます。
やがて、「やってもいいよ」と許可されたことだけをする子になります。
片づけなくてもいい遊びしかしなくなります。
それが、ゲームや動画視聴です。
夢中になる経験を奪われ、受動的な刺激に慣れてしまえば、主体的に学ぶことはどんどん難しくなります。
命令に従うのは上手でも、自分で考えることは苦手になる。大人の言う通りに勉強して学校の成績はよかったとしても、そういう人はロボットやAIに簡単に負けてしまいます。
大人こそ「やってみたい」を取り戻そう
子どもが夢中になっていたら、存分にやらせてあげられる環境をつくること。
「危ない!」と禁止するのではなく、なぜ危ないのか、どんなことが起きるのか、そのときどう対応すればいいのかを教えたり、一緒に考えたりすることが大切です。
「なんで?どうして?」と聞かれたとき、親がすべてを教える必要はありません。一緒に調べたらいいのです。図鑑や本を見たり、詳しい人に聞いたりして、親も一緒に学んでいくのです。
知らないこと、わからないことを恥ずかしく思う必要なんてありません。
「大人はいつでも正しい」「いいから大人の言うことを黙って聞け」
こうしたメッセージで、子どもの思考力を奪わないように、大人こそ「知りたい」「やってみたい」という気持ちを取り戻しましょう。
「知りたい」「やってみたい」と自然体験は好相性
自然体験の最大の価値は「イレギュラー」です。思うようにならないし、未知にあふれています。だからこそおもしろいし、「知りたい!」「やってみたい!」を発揮する最高の遊び場になります。
まずは大人が「何これ?」「こうやってみようかな?」と、思いっきり自然を楽しむ姿を見せましょう。子どもはすぐに真似をして、どんどん探求を始めます。
親子で真剣に遊ぶ時間を重ねること。それこそが、子どもの“夢中の芽”を育てるいちばんの近道です。
植松 努(うえまつ・つとむ)●植松電機代表取締役社長、カムイスペースワーク代表取締役社長。ロケット開発や宇宙教育を通じて「どうせ無理をなくしたい」を伝え続ける。全国の学校や企業で講演多数。『NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』『「どうせ無理」と思っている君へ 本当の自信の増やしかた』など著書多数。
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