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コラム

親が思ってもいないのに「褒めて育てる」は絶対ダメ。簡単で最も効果のある声がけとは

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親が思ってもいないのに「褒めて育てる」は絶対ダメ。簡単で最も効果のある声がけとは

哲学者の小川仁志さん、自然体験の教育効果を研究する青木康太朗さんが、子どものすこやかな育ちをテーマに語る特別対談。2回目となる今回は、子どもの「自尊心」と「自己肯定感」について考えます。

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人間としての自尊心を育むために重要なのは

――子どもが自尊心を失わずに生きていくために、親ができることはありますか?

小川:自尊心とは、「自分はできる」と感じられる心。でも、今って「できた感」を味わう機会が減っていると思うんです。

だって、スマホやAIなどのテクノロジーは早くて正確。同じことをやろうとしても、勝てないですよね。「頑張っても意味がない」と感じてしまうのも当然かもしれません。

だからこそ、自然の中での成功体験というのが、人間としての自尊心を育むために重要だと思うんですね。

青木:自然体験をはじめ、何かを自分で体験する、ということですよね。

たとえば登山を例に考えてみましょう。登っている最中はしんどくても、仲間と励まし合って登頂する。「もう無理だと思ったけれど、できた!」という充実感、達成感が味わえると、あんなにしんどかったのに「またやってみたい、挑戦したい」と思える。

釣りなども同じで、なかなか釣れない時は、釣る場所を変えたり、仕掛けやエサを工夫したり、いろいろと試しながら魚がかかるのを辛抱強く待たなければなりません。でも、魚がかかり、竿から伝わるビビッとした感触を味わった瞬間、心の中で「よしっ!うまくいった!」と思える。

自分で考えた工夫がうまくいったという実感は成功体験となり、自己肯定感にもつながっていきます。

自分に率直に生きていい

青木:苦手なこと、できないこともあるけれど、そこも含めて今の自分でいいんだ、と思えるのが自己肯定感です。

そのためには、いろいろな経験をしながら自分のよさを見つけていくことが重要です。

小川:自己肯定感は、人間が生きる基礎となっている部分ですね。

私が敬愛する哲学者・ニーチェは、「自分の生に基づく率直さに従って生きればいい」と述べています。人との比較ではないんですね。

今まで生きてきた人生の中で、これがいい、これは嫌だ、というのは誰にでもある。でも、それを基準にしてはダメだと言われるからつらくなる。

自分に率直に生きていいんだ、と思えたらラクに生きられます。

大切なのは、はっきりとさせること

青木:大人もそうですが、子どもたちの間にも同調圧力が働いています。

みんなと同じにしなければならない、同じにできないと排除される。これは、子どもの自己肯定感にも影響を与えますね。

小川:哲学対話や自然体験って、「自分ができることとできないこと」「知っていることと知らないこと」「考えたことがあることとないこと」、こういうことにちゃんとラインを引いていく体験になると思うんですね。

そうすると、できることには自信が持てるし、できないことは目標になったりします。人間は完璧じゃない。全部できる必要なんてありません。

大切なのは、はっきりとさせること。漠然と「できない」「ダメだ」と思っている中にもできることはあるはずで、それを認識することが大事です。

子どもが好奇心を発動するのは

――自然体験に苦手意識のある親御さんは、何から始めればいいでしょう

青木:何も難しく考える必要はありません。遠くに出かけなくても、自然体験はできます。

近くの公園であっても、落ちている葉っぱや空に浮かぶ雲など、子どもはさまざまなことに目を留めるはず。「お母さん、これ何?」と聞かれることも多いでしょう。

「これ何?」は子どもの好奇心が発動している証拠です。

子どもに「これ何?」と聞かれたら

青木:子どもに「これ何?」と聞かれたら、親は「なんだろうね?」と一緒に考えてあげてください。

正しい答えを教えることは大事ではないし、ましてや子どもの質問に答えられないと恥じる必要もありません。

小川:「なんだろうね?」は、哲学の始まりでもあります。哲学というのは、驚きから始まるんです。だから親も一緒に驚けばいい。

「うわっ、すっごーーい!何これー!」と大げさに驚くともっといいかも(笑)。ちょっと演技をするくらいを意識してみてほしいですね。

驚きこそが思考の入り口。驚きがなく「そんなの当たり前だ」と思ったら、思考はそこでストップしてしまいますから。

青木:大人が「おもしろい」「すごい」と言ってくれれば、子どもはどんどん、不思議なモノ・コトを見つけていきますよね。

一緒に初めての体験を

小川:よく「子どもは褒めて育てよう」と言いますけれど、褒めるって案外難しい。ともすると嘘っぽくなってしまうこともあるし、言葉によっては子どもにプレッシャーを与えてしまうこともあります。

青木:心から思ってもいないのに、上辺だけで褒めるのはよくないですよね。子どもは見透かします。

また、「よくできているね」「上手だね」といった褒め言葉は、いわゆる評価なんです。こういった褒め言葉が多すぎると、子どもは他人からいい評価を得ることに意識が向いてしまうことも。

小川:その点、驚くことには技術はいらない。とくに、親子で一緒に初めての体験をするのは、すごくいいと思いますね。大人も驚けることがたくさんありますから。

青木:自然体験も、ぜひ親子でやってもらいたいです。とくに小学校低学年くらいまでは、親子一緒に。成長するに従って、親の元を離れ、子どもたちだけでの体験も増やしていく。子どもの成長に合わせた関わり方も大事ですね。

 

小川仁志(おがわ・ひとし)哲学者。山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部卒業後、社会人生活中に名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員を経て現職。『子どもテツガク』など著書多数。

青木康太朗(あおき・こうたろう)國學院大学人間開発学部子ども支援学科准教授。大阪体育大学大学院修士課程修了後、北翔大学生涯スポーツ学部准教授、国立青少年教育振興機 青少年教育研究センター研究員等を経て現職。子どもの成長のための理論と実践を研究する。

取材・文/浦上藍子 撮影/瀬津貴裕(biswa.) ヘア&メイク/山下光理

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