無類の昆虫好きで、休日にはお子さんと一緒に昆虫採集に出かけることも多いという、脳科学者の瀧 靖之先生。自然に触れる体験、美しいものに触れる文化的体験のふたつは、脳の発達の観点からも子どもにとって「最高!」と断言します。
【この記事から続く】脳科学者が教える「子どもが幸せに生きられる3つのタネ」とは|東北大学加齢医学研究所 瀧 靖之先生
自然の奥深さが子どもの好奇心を刺激する
――自然体験が子どもの脳にいい、と言われるのはなぜですか?
ひとことでいえば、自然には子どもの知的好奇心を刺激するものがあふれているからですね。
自然体験とは、自然のなかで行われる体験活動のこと。登山、釣り、キャンプ、川遊び、海水浴などのほか、近所の公園で見られる植物や昆虫を観察するのも自然体験のひとつです。
自然は、場所はもちろん、天気、季節、時間帯などの条件によってもさまざまな表情を見せます。自然条件による組み合わせは無限に広がるので、1日として同じことの繰り返しはありません。
自然と「どうしてこうなっているんだろう?」「前来たときと違うのはなんでだろう?」と、子どもの脳はフル回転!たくさんの刺激を受け取って、知的好奇心がぐんぐん伸びていきます。
知的好奇心が高まると、「図鑑で調べてみよう」「ほかの季節の写真を検索してみよう」といった具合に、体験と地続きになった自発的な学習にもつながります。
自然から受け取るものは、理科や社会、算数など、学校の勉強につながるものもたくさん。勉強のおもしろさに気づくきっかけにもなりえます。
美しいものを美しいと感じる心を育てて
――身近に自然を感じにくい都会の子ほど、親は意識して自然体験をさせてあげたいですね。
普段の生活のなかでも、公園の木々、昆虫、家の窓から見上げる空など、自然を感じることはできます。ただ、山や川、海などの雄大な自然と対したときの、圧倒体験もかけがえのないものですね。
人は、美しいものを見たときに無条件に感動しますね。自然には美しい造形があふれています。蝶の羽の模様、動物のしなやかな動き、新緑や紅葉の美しさ、真っ白な雪の清らかさ。私が昆虫好きなのも、昆虫の美しさに魅了されているからです。
美しいものを追求したいという気持ちは、人にとって大きなエネルギーになるものです。
――自然体験のほかに、子どもの脳を育てる「いい体験」はありますか?
音楽や美術、舞踊、文学などの芸術に触れる機会を増やすのもおすすめです。美術館や博物館に出かけたり、文学作品を親子でじっくり読むのもいいですね。最近は、親子で楽しめる気軽な音楽コンサートやダンス公演なども増えていますし、街を散策していると無料で見られるパブリックアートに出合うことも。
芸術というと敷居が高く感じるかもしれませんが、まずは触れることがとても大事。興味を持つと、作家のこと、作られた時代背景のこと、親交のあったほかの作家のことなど、また芋づる式に知りたいことが出てくるはずです。
まずは、親が「行ってみたい」「見てみたい」と思うものを選んで、一緒に楽しんでみる。それが、美しいものに触れるエントリーになれば十分だと思います。
自然や芸術に触れて審美眼を磨いた子どもたちは、大人になっても美しいものに感動する心、美しいものを探求しようという意欲を持ち続けるでしょう。審美眼は、主観的幸福感を高めることにも有用ではないか、と思います。
思い出を写真に残して
――自然体験、文化体験をするときに、意識すること、やったほうがいいことはありますか?
自然体験や文化的体験に出かけたら、ぜひ思い出を写真に残しましょう。
ノスタルジー・回想は、脳の報酬にかかわる部分を活性化させ、やる気を引き出すホルモン・ドーパミンを分泌させる効果があります。また、写真を見返すと、そこに写っている風景はもちろん、そのときの会話や感動なども蘇ってきますね。
自然のなかで感じた驚き、楽しさとともに、親や友だち、先生との温かな会話を思い出すことで、子どもは「自分は大切にされている」ということを再確認することができます。これは、主観的幸福感を高めるのにも有効。
アルバムを開くと、「あのとき、こんなことがあったよね」と、親子でたくさん会話をするきっかけにもなりますね。たとえ「道に迷って大げんかした」「一匹も釣れなくて悔しかった」など、そのときは楽しいと思えなかった出来事でも、あとから振り返ると懐かしく、笑い話になることも多いもの。ささやかな幸せを実感する機会となるでしょう。
ノスタルジーは大人の脳を若々しく保つためにも有効ですから、思い出の写真を見る時間は親子それぞれにとっていいことづくめ、ともいえますね。
大人も全力で遊び、楽しんで
――インドア派で、自然体験のノウハウがない親はどうしたら?
子どもに充実した人生を歩んでほしいと願うなら、まず大人が人生を楽しんでいる姿を見せることが大事! 自然体験も文化体験も、「子どものために」と考えすぎると、しんどくなってしまうかもしれません。
自然や芸術のフィールドは雄大です。まずは、自分が興味を持てるものを探してみるのがよいと思います。ハイキング、登山、ダイビング、釣り、スキー、天体観測…。子どものころに興味があったこと、あこがれていたことに、ぜひチャレンジしてみてください。
大人が真剣に遊び、全力で楽しんでいる姿は、子どもたちに「大人になるって楽しい」「人生っておもしろい」というメッセージを伝えてくれるはずです。
瀧 靖之(たき・やすゆき)●医師・脳科学者。東北大学加齢医学研究所教授。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成。これまで16万人以上の脳画像を読影、分析。脳の発達や加齢のメカニズムの研究を行っている。
取材・文/浦上藍子
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