我が子には幸せで満ち足りた人生を歩んで欲しいもの。でも、具体的に何をすれば?脳の発達を研究する瀧靖之先生の答えは、ずばり「知的好奇心を高めること」。知的好奇心と幸せの関係とは?子どもの幸せのために親ができることとは? たっぷり伺いました。
知的好奇心を羽ばたかせると幸せになる
――脳科学の観点から考えると、子どもがすこやかに育つために必要なことってなんですか?
僕は、すべての子どもたちに3つのものを持ってほしいと思っています。それは、「知的好奇心」と「自己肯定感」、そして「主観的幸福感」です。この3つがあれば、子どもは自分の夢を叶え、幸せに生きていけると思うからです。
なかでも、まず周囲の大人が意識したいのが、子どもの知的好奇心を存分に伸ばしてあげることです。
好奇心を発動すると、その対象をもっと深く知るための努力が苦にならなくなります。苦労してでも知りたい、分かりたいと思う。それが知的好奇心です。
だから、知的好奇心が高まると、興味をもった分野について自ら進んで調べたり、実験したり、練習したりしたくなるわけです。当然、知識や技術が向上しますから、自信がつきます。
「虫のことなら、僕のほうがお母さんよりくわしくて、教えてあげられる!」「友だちに難しい漢字も読めてすごいって驚かれた!」「先生にドリブルがうまいって褒められた!」といった具合です。
周囲から認められる経験は、子どもに「自分は価値がある存在だ」ということを確認させてくれます。知的好奇心は、自尊心を育む土台にもなるのです。
さらに、最初は、褒められたり、周囲から一目おかれたりすることがうれしくて頑張っていた子も、徐々にわかること、できるようになること自体に喜びを見出すようになります。
「努力すると、必ずできるようになる」
「頑張れば、自分で何かを変えられる」
この気持ちは、自己効力感と言われます。
自尊心と自己効力感こそ、今、盛んに耳にする「自己肯定感」の正体です。
知的好奇心が高まれば、「知ることが楽しい」→「周囲から認められる」→「自己肯定感が高まる」→「さらに知的好奇心が発動し、毎日にワクワクが増える」といった具合に、正のスパイラルが回りだします。
こうした毎日が過ごせれば、他人との比較ではなく、自分のものさしで毎日に幸せを感じられるようになるでしょう。
親ができることは興味の種まき
――好奇心が湧くものを見つけられない子は、どうしたらいいですか?
知的好奇心は、誰もが本来持っているもの。太古から、人間は身の回りの情報をたくさん入手することで、食料を確保し、身の安全を守ってきました。「報酬探索行動」とも言われ、「知りたい」と思う気持ちは、すべての人間に本能的にプログラミングされているものです。
どんな子どもも(もちろん大人だって!)、知的好奇心を持っています。知的好奇心がないように見える子は、まだ琴線に触れるものに出会えていないのかもしれません。
知的好奇心を引き出すのは、決して難しいことではありません。心理学では「単純接触効果」と言いますが、私たちは何度も見聞きしたものほど、興味を持ち、好きになりやすいと言われています。
さらに、よく目にするものは、脳がパッと情報処理ができるようになります。これを「流暢性効果」と言います。
たとえば電車の図鑑をよく見ている子は、実際に走る電車を見ても「これはE127系」「あっちはE233系!」などと、瞬時に車両の種類を言い当てることができたりしますね。こうなると、電車の知識についてささやかな自信がついてきます。もっと詳しくなりたい、もっと知りたいという欲求が自然と湧き上がってくるものです。
子どもの目に触れやすいところに、図鑑や絵本を置いておくだけでも、単純接触効果が期待できます。親が好きなことを一緒に見たり、聞いたり、体験したりするのでもいいでしょう。
野球が好きなら、バッティングセンターや野球観戦に一緒に行くのもいいし、音楽が好きならリビングにお気に入りの音楽を流したり、一緒にコンサートに行ったりするのもいいですね。
我が家では、息子が小さいころは毎週のように本屋さんにいって、好きな本を選ばせていました。そのおかげか、息子は本を読むことが大好き。いまでも、寝る前には親子3人で本を読む時間を持つのが、我が家の習慣です。
見て、聞いて、読んで、触れて、いろいろな体験のなかに、きっと子どもの琴線に触れるものがあるはずです。親ができることは、興味の種まきをすること。大人が楽しんで、知的好奇心を自由に発動させている姿を見せることも、子どもにとってはいい刺激です。
知ることが、子どものための大事な一歩
――子どもが何かに夢中になっていても、生活リズムや次の予定を考えて、途中で中断させてしまうことも…。それって知的好奇心や自己肯定感に影響しますか?
仕事に家事にと忙しい大人にとって、子どもの知的好奇心に真正面から向き合い続けるのは骨が折れることでもありますね。
たとえば、子どもが料理に興味を持っていても、いつも一緒にキッチンに立つのは大変です。大人が準備したほうが断然早いと思うと、「僕がやりたい」というリクエストに毎回応えることはできないかもしれません。
「ごはんの時間だよ、もうおしまいにして!」「いつまでやってるの、はやく寝なさい!」なんて叱りたくなるのも、日常茶飯事ですよね(笑)。これはきっとどこの家庭でも同じ、普通のことだと思います。
僕は、大人が「子どもにいいことを知っている」ということが大事だと思っています。毎日の生活のなかで、子どもにいいことを完璧にやってあげるなんて、到底無理です。でも、知っていれば、ふとしたときに「そうだった…!」と思い出せる。それで十分じゃないかと思うのです。
それに、「子どもにいい」とされていることはたくさんありますが、そのすべてをやる必要なんてありません。1個でも2個でも、無理なく取り入れられそうなものを試し、我が子に合うものを見つけていけばいいのです。
ちなみに、主観的幸福感を高めるためには、叱るべきところはきちんと叱る、ということも大事。いくら知的好奇心が羽ばたいているからといって、睡眠や食事、学校の勉強などをおろそかにしてはいけませんね。「いけないことをしたら、叱られる」という経験は、親は自分のことを見てくれているという安心感にもつながります。
共通の話題を作ろう
――親の自己肯定感が低いと、子どもも自己肯定感が低くならないかと心配です。子どもの自己肯定感を高めるコツはありますか?
自己肯定感を育むには、知的好奇心を高めることともうひとつ、愛着形成が重要です。他者から愛され、認められる経験があるから、自分自身を大切に思えるわけです。人が幸せになるには、人と人とのあたたかいつながりが欠かせません。
愛着形成に必要なのは、何をおいてもコミュニケーションです。何気ない日々の会話が、子どもの自尊心を育んでくれます。ただ、いくら親子とはいえ、共通の話題がなくては会話も盛り上がりませんね。
「今日、学校どうだった?」
「別に普通」
我が子のそっけない返答に、がっくり来ている親御さんも多いかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、親子で一緒にする何か、を見つけること。勉強でもスポーツでも、昆虫採集や釣り、楽器演奏、読書、料理、手芸、その対象はなんでもかまいません。
たとえば、子どもが計算ドリルをするときには、一緒に親もドリルに挑戦してみる。どっちが速く解けるか競争してみると、意外と子どもに負けてしまうかもしれません。こんな難しいことをやっているのかと体験すると、子どもの気持ちもよりわかりますね。
わからない問題があったら一緒に調べたり、本屋さんに参考書を探しにいったりと、親子できることはどんどん広がり、会話のネタも増えていきます。
毎日は難しくても、気づいたときに、時間があるときに、一緒にできることがある。その時間は、子どもにとってはもちろん、親である私たちにとっても豊かな時間になるはずです。
私の息子は今、小学6年生。あと数年もすれば親離れしていくと思うと、子育ての黄金期間はなんと短いことかとしんみりしてしまいます。大変なことは山ほどあるけれど、それでもこんなに濃密に子どもと関われるのは今だけ。期間限定の貴重な時間を、親子でたっぷり楽しんでいきましょう。
瀧 靖之(たき・やすゆき)●医師・脳科学者。東北大学加齢医学研究所教授。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成。これまで16万人以上の脳画像を読影、分析。脳の発達や加齢のメカニズムの研究を行っている。
取材・文/浦上藍子
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