日本の食品ロスの推計は、年間522万トン(*1)。「日本人は毎日、1人あたりごはん茶碗1杯分(おにぎり1個分)の食べ物を捨てている」(*2)と言われていますが、皆さん思い当たることはありますか?
スーパーやコンビニで売れずに残った食品が廃棄されたり、「使い切れなかった」「食べ残してしまった」「賞味期限が切れてしまった」などの理由で、家庭で捨てられてしまう食品も多くありますが、実は意外なところでも、食品ロスは起きているのです。
今回はその「意外なところ」を、暮らしニスタ編集長が、料理研究家のほりえさわこさんと掘り下げていきます。
(*1)消費者庁「食品ロス量(令和2年度推計値)の公表」より
(*2)国民1人あたりの食品ロス量=1日約113g、年間約41kg。「総務省人口推計(2020年10月1日)令和元年食料需給表(確定値)」より
主婦のかたの90%以上がSDGsを知っていて、関心も高い
〈右〉暮らしニスタ編集長 石橋
〈左〉料理研究家 ほりえさわこさん。家庭料理の草分け的存在である堀江家の、料理研究家の祖母と母を持つ3代目。50年以上続く料理教室を引き継ぎ、テレビ「きょうの料理」や雑誌でも活躍している。
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石橋(以下 石):私ども〈暮らしニスタ〉が、主婦の皆さんに「SDGs(*3)」に関する意識調査を実施したところ、90%以上のかたが「SDGsを知っている」と回答されており、7割以上のかたが「関心を持っている」ということがわかりました。これは今年の2月のデータです(*4)。
Q1.SDGsという言葉を知っていますか?
▼「よく知っている」「聞いたことはある」と答えた方に質問です
Q2. SDGsに関心がありますか?
SDGsに関心のある理由としては
「地球環境や世界の人々が、より良く生きていける未来を作っていきたい」
「将来子どもたちが環境問題などで困らないように、実践できることはしたいと思う」
などで、環境問題への長期的な取り組みとして受け入れているようです。
「節電を心がける」「エコバッグを使う」など、家庭内でできることはすでに始めているという回答も多かったです。
SDGsを知っているかたが意外と多くて驚きました!
ほりえさわこ(以下さ):私は納得のデータですね。今は、子どもたちが学校の授業で習うぐらいですから。認知度も高いですよね。
石:そうか、学校で習うんですもんね。お子さんがご家庭に情報もって帰ってくる、ということもあるわけですね。そう考えると、昭和50年代生まれの私よりも、今の子どもたちのほうが詳しいかもしれません(笑)。
(*3)SDGsとは…Sustainable Development Goalsの略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。2015年の国連サミットで採択され、国連加盟193カ国が2030年までに達成を目指す17個の目標を指します。
(*4)出典…暮らしニスタ「約90%が意識している『SDGs』も、家族で実践しているのは、なんと4割弱!?」
実践していることの第1位は「食品ロス」対策!
石:SDGsですぐに実践できることとして、「食品ロス」の対策を心がけているという回答がとっても多かったです。リメイク料理を作るなど、主婦の皆さんならではのアイデアと経験を活かして、ご家庭内で取り組んでいらっしゃいます。
さわこ先生は料理研究家でいらっしゃいますが、なにか食品とか、身近な問題として気になることはありますか?
さ:とくに新型コロナの頃は、出荷できない野菜がたくさんあったんです。コロナでなくても、こだわって作ったけれどさばききれなかったりとか、虫食いがあったりなどで、出荷できない野菜があるのはもったいないですよね。
「加工したらまったく問題なく食べられるよね」というものが捨てられているのは悲しいと、常々感じています。
未利用魚に会いに宗像へ♡
石:私この4月に、「いろいろと、おさかな」のことを知る、釣り用品を製造販売されるダイワ(グローブライド)のかたに、「未利用魚っていうのがあるんだよ」って教えていただいたんですね。
それで、今回このステージのために、実際に「未利用魚」を見てきたんです。行ったのは福岡県の宗像という町にある「道の駅 むなかた」です。
さ:はじめて知りました!
石:宗像大社がある世界遺産のエリアで、玄界灘を望む海辺の街。県内屈指の漁獲高を誇る「鐘崎(かねざき)漁港」をはじめ、近くの「神湊(こうのみなと)」や沖合の島など漁港から新鮮な魚介類が入ってきて、それを直売しているんです。
この「道の駅 むなかた」、九州でトップクラスの売上と集客を誇るそうで、とんでもないにぎわいなんですよ!!
鮮魚コーナーが売り場の1/3ぐらいをしめていて、近くで水揚げされた新鮮な海産物が毎日届くんです。最も多くの点数が並ぶのは午前中なので、開店前からお客さんが並んでいました。
こちらが写真です。
さ:わー!いろんな子がいますね~。「神経抜き」って書いてあるのもある!神経抜きっていうのは鮮度を保つための締め方なんですよね~。
この白いトレーから頭や尾ビレがはみ出ているのが、スーパーの店頭では取り扱いできない「不適合サイズの魚」なんですよね?
石:そうです。スーパーではほぼ見ない「不揃いな魚」ですね。この道の駅では販売できるけれど、他の流通では売られることのない「未利用魚」です。
獲れても価値がなく、低い値しかつかない魚・・・というのも「未利用魚」に含まれるそうですよ。
宗像のかたがたが、少しでもムダを減らすように、そして新鮮なお魚を食卓に届けるよう工夫されて、道の駅で販売するようになったらしいのです。
でもここでは、大きかったり小さかったり、トレーに収まらない魚を、皆さんどんどん買っていかれるんです。本当にすごい熱気♪さわこ先生、「お魚、大好き」っておっしゃっていたので、次回は一緒に行きたいですね!
さ:ぜひ連れていってほしいです!私こう見えて、魚をさばくのはめちゃくちゃ得意なんですよ!
ほりえ家は「魚」と縁深い
さ:実は父が昔、大学で教えていて。教え子の皆さんを連れて、年に一度、釣り合宿に行っていたんです。父と学生さんたちが帰ってくるときに、釣った魚も持って帰ってくるの!その量がすごくて、500尾なんてこともある。それを母や教室の生徒さんたち、当時高校生だった私でどんどんさばいて、調理して、学生さんたちに食べてもらう。そんな時代があって。
上手にさばけたものはお刺身に、ちょっと失敗しちゃったら揚げものに、とかね(笑)。かなり研鑽を積んだので魚をさばくのは得意なんです!
あと私の祖母がぶりが大好きだったので、よく箱からしっぽが飛び出た巨大ぶりが家に届いていました。今でも近所の高校生が、釣った魚を我が家に持ち込んできたり。そう思うと、私はいわゆる規格外のお魚のほうが身近(笑)。
でも、そういう人のほうが珍しいですよね。
石:とても珍しいですね(笑)。私は今まで一度も、トレーからはみ出た魚を見たことなかったですから。
最初のアンケートであったように、主婦の皆さんが食品ロスに対していろいろと工夫をされていても、私たちが知ることのない流通段階で、意外と多くの「食品ロス」が起きているということですよね。
さ:新鮮な魚が、サイズがそろわないからという理由で販売されないのは、とっても残念。もったいないなぁ~と思いました。宗像みたいに売っていただければ、私は絶対買いますよ♪
魚と同じく、野菜にも「規格外」がある
石:さわこ先生は、この8月に、規格外のお野菜を加工して販売する「農家のだいどこ」を始められたんですよね。どういう経緯で始められたんですか?
さ:3~4年前に、埼玉県の小川町にある横田農場のかたにお会いしたのが始まりです。
横田農場は家族経営の農家さんなんですが、100年後も200年後も、日本で農業が続いていけるように。という思いで有機農業に取り組んでいらっしゃるんです。
身近にある自然や循環のなかで、いま何をするかを考えてらっしゃるんですね。ちなみにこの話をしているのが、30代の男の子(笑)。すごいよね!
石:「日本の農家が100年後、200年後も続いている」というのは、具体的にどういうことなんでしょう。
さ:日本の農業って、種や肥料など、外国からの輸入が大半なんです。だから新型コロナや戦争などで輸入がストップしてしまうと、日本では農業自体が成り立たなくなってしまうんですよ。
横田農場は100年先から俯瞰で見たとき、循環できるかどうかを考えて農業をされているんです。
石:すばらしいですね。
美味しい野菜を捨てるなんてもったいない!
さ:「農家のだいどこ」のメンバーは、私と、料理研究家のヤミーさん、中元千鶴さんの3人なんだけど、この農家さんに惚れ込んでしまって、よく遊びに行っていたんです。
そんな中で、出荷しないお野菜があることを知りました。
こんなに美味しいお野菜なのに、捨てるなんてもったいなさすぎ!虫食いがあっても加工したら食べられるよね!!ということで、これらのお野菜を買って、加工して販売するっていうのを始めたんです。
それが8月にスタートした「農家のだいどこ」です。
ヤマモモやきゅうりはジェラートにして売ったんですが、自画自賛なんだけど、すっごく美味しくて、好評でしたよ。楽しかったな~。
野菜の「規格外」はどんなもの?
石:野菜はどういうものがいわゆる「規格外」になるんですか?
さ:野菜も、きれいな形のものを選別して出荷しているんですよね。少し曲がったり、いびつになったり、大きすぎたり、小さすぎたりという理由で「規格外」となり、出荷できない野菜がたくさんあります。
先程の未利用魚と一緒で、これらのほとんどが廃棄されてしまいます。
あとは、豊作で市場価値が下がって出荷できない野菜、幼いうちに間引きした実や、熟し過ぎて日持ちしない果物など、十分においしく食べられるのに、店先に並ばない農作物もたくさんあります。
だけど、形が悪くても、おいしさや栄養は変わりません。
幼い野菜には成熟したものとは違う、生命力あふれる味わいがあり、畑で熟したものはそれこそ本当の食べ頃です。
だから
「規格外を廃棄するのではなく、個性ととらえて、その特徴を活かした料理を提案したい」
「せっかく手をかけて育ててくれた農作物をムダにしたくない」
そんな想いから、「農家のだいどこ」プロジェクトを立ち上げました。
ただ野菜がいつ、どれぐらい手に入るかがわからないから、毎回すごく大変(笑)。
時間と労力の問題もあるし、喜ばれはするけれど、現金化は難しかったり、単純に人手が足りなかったり。今後の課題になりそうです。
「食品廃棄」は私たち消費者の見えないところで約7割も起きている
石:魚も野菜も共通していますね。
日本で、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品、いわゆる私たち消費者に関わる「食品ロス」は、年間522万トンというデータが出ています(上記*1)。
ただし、栽培、製造、流通など、私たちの手に届くまでに廃棄される「食材事業の食品ロス」は、全体の食材廃棄量のうち約7割(*5)。
この中には、栽培段階で廃棄される規格外野菜、漁師さんが苦労されて獲ったのに棄てられてしまう未利用魚も含まれますが、私たちが知る機会はほとんどないのが現状です。
(*5)環境省「我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成30年度)」より
今、企業の取り組みがおもしろい!
石:ただ悪いことばかりではありません(笑)。
企業でも取り組みをしているところは意外とあって、6月にはOisixサステナブルマーケットとスープストックトーキョーがコラボした、未利用食材を使ったスープが発売になっています(写真上)。
くら寿司は、物価高の今、未利用魚を活用することでメニューの価格を据え置きにしたり、未利用魚=めずらしい魚もあるので、それを寿司ネタにして提供して好評だそうですよ。
企業もさまざまな取り組みを始めていますので、皆さんが関心をもっていただくと、さらにこういった企業が増えていくのかなと期待もできますね。
それから食料自給率が低いことが問題になってますが、漁業の漁獲量も減少しており、未利用魚はその中でも3~4割を占めるという推計もあるようです(*6)。
さ:3~4割!!ますます、未利用魚を活用しないのはもったいないですね…。
(*6)「未利用魚」について正確な統計はありませんが、FAO(国際連合食糧農業機関)が2020年に出した報告書で「世界の大半の地域では全漁獲量の約30~35%が廃棄されている」と報告。
物価上昇が続く今だからこそ「食べきる」ことが大切
石:さわこ先生的に、家庭内でできるおすすめの食品ロス対策ってなんでしょう。
さ:基本的なことですが、食べる分だけ買う。そして食べきることが一番だと思います。
消費期限や賞味期限(*7)が過ぎて、やむなく捨ててしまうこともあると思うんですが、ほりえ家では必ず、開けて、鼻と舌で確認して、食べられるものは食べます。自分で確認するっていうのは、子どもたちにも伝えたいことですね。
今、物価がすごく上がっていますが、今まで捨ててしまっていた分を食べきれば、カバーできるんじゃないかな。
石:「食べきる」。私もがんばります。
魚も野菜も形や大きさではなく鮮度。皆さんが興味を持てば、当たり前に買える仕組みができると思います。
小さい規模でも頑張っていらっしゃる生産者さんを、是非応援してあげてください。本日はありがとうございました!
(*7)消費期限=安全に食べられる期限。賞味期限=おいしさなどの品質が保たれる期限。
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*この記事は、2022年10月8日(土)・9日(日)に開催された「海のごちそうフェスティバル2022」のステージイベント【DAIWA presents 料理研究家ほりえさわこ×暮らしニスタ編集長石橋紘子のクロストーク】の内容を収録したものです。
協力/ダイワ(グローブライド)
撮影/中村彰男(イベント分) まとめ/石橋紘子
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