国土の約7割が森で、フィンランドに次ぐ世界第2位の森林大国である日本。「森が多い」と聞くと自然が豊かでよいイメージがありますが、実はすべての森が健全性や豊かさを維持できているわけではなく、課題も多いのだそう。長野県須坂市で山の維持管理を行っている若林武雄さんに話を聞きました。
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人間の暮らしと深く関わっている森は、維持管理が必要
ーなるべく人の手をかけず、森を自然のままにしておくのはダメなのでしょうか?
「森」には、「天然林(原生林も含む)」と「人工林」の2つがあるのをご存じでしょうか。
「天然林」は自然の力により生長していく森林のことで、木の種類や年齢もさまざま。その土地に合った木や生き物が、長い年月のなかでバランスを作り上げた森です。自然のままにしておいてもいいのは、この「天然林」のほう。
対して「人工林」は、主に木材の生産のため、人の手で植えられた木で成り立っている森です。植林して木を育て、成長した木を伐って木材として使い、また植林する。このようなサイクルを30年周期で行うので、永続的に手入れをし続ける必要があります。
*「天然林」でも健康状態をよくするためのケア(新芽が出やすいように草を刈ったり、病気の木を伐るなど)を行うことがあります。
ー人工林の手入れをやめてしまうと、どんなことが起きるのでしょう。
たとえば「間伐(かんばつ・植えた木を定期的に間引く作業)」が行われずに放置されると、木が密集し、1本1本の成長が悪くなります。成長の悪い細い木は強い風や雪で倒れやすいのでとても危険です。
木が密集することで日光が地面に届かなくなることも問題です。表土が雨水によって流れてしまうのを防いだり、樹木の生長を助けてくる下草(森や木の下に生える草や低木)が生えなくなってしまうからです。これは土壌の劣化にもつながります。
山が丸裸になれば、土が流れて山のふもとで被害が起きます。人間が使う水や畑がダメになってしまったら、私たちは暮らせなくなってしまいますよね。「山を守る」ということは、「森と水を守る」ということでもあるんです。
「人工林」はすでに人間の暮らしと深く関わっている森なので、継続して維持管理をして健康状態をよくしておかないと、その影響はすべて、私たち人間にかえってきてしまうのです。
森を元気にするために、私たちができること
ー森の維持管理のために、森でどんなことをしているのですか?
植林や、除伐・間伐といった木の成長の手助けの他、一般道や、森の整備のために使う林道・作業道の維持管理などを行っています。
とくに林道・作業道は森の整備のためにとても重要な役割を果たしているで、定期的に草刈りや、林道から雨水を排出するための「水切り」の設置、軟弱になった道路には砕石などを敷いて保全するなどしています。
森ではしょっちゅう、風雨によって木が倒れたり、土砂が崩れたりしますし、それから獣害もあります。これらの対策や補修、整備のためにも、林道・作業道の維持管理は大切な仕事です。作業が尽きることはありません。
ー動物が人里に下りてきて畑を荒らすイメージはありますが、森の中での「獣害」もあるのですね。
野生の鳥獣による森林被害は意外と深刻です。日本全国で見ると、最も多いのはシカによる食害で、森林における獣害の約7割を占めます。植林した木を食べてしまうんですね。あとはクマが歯や爪で木の樹皮を剥いでしまう「クマ剥ぎ」も起こります。
私たちが管理している長野県須坂市仁礼地区ではシカの被害が多いですのですが、いずれにせよ獣害があると木がダメになってしまいますし、維持管理のコストの増えてしまうんです。
ー森を元気にするために、私たちができることはありますか?
今は価格の安い輸入木材や、プラスチックなど木材以外の代替材料が増えたことで、国産の木があまり使われなくなってしまい、森の維持や管理も難しくなっています。
まずは森の価値を知り、森や山林の現状を知っていただきたい。そして、森を健全に保つには「木を伐って、使うこと」も重要なので、ぜひ日本の森林資源を活かした商品を選んでほしいですね!
私たち仁礼会が管理する仁礼の山では、社会貢献活動の一環として、企業に森の里親になってもらう事業(「里親促進事業」)も行っています。こういった企業に注目することも、個人として森を守ることにつながるかなと思います。
グローブライドの『水と緑と太陽の森林(もり)』。仁礼会が保有する山の約10%(177ヘクタール)の里親として、植栽や除伐・間伐などの作業費用の一部を負担するとともに、間伐、草刈り体験などのボランティア活動も行っている。里親歴18年。
若林武雄(わかばやしたけお)●一般財団法人仁礼会理事長。長野県生まれ。日々山に向き合い、仁礼の山の維持管理を担う。東日本台風によって道が崩壊してしまった「古道」復活にも尽力している。
写真提供/藤巻 翔 文/石橋紘子(暮らしニスタ編集部)
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