近頃、子世帯から親世帯に積極的に同居を提案するなど、実家ありきで家づくりが進むケースがふえています。お互いのメリットは? プランで気をつけることは? 専門家のアドバイスをご紹介します。
Advice してくださったのは
プランボックス
一級建築士事務所
小山和子さん
土地や建物と一緒に〝親の愛情〟も受け取るスタンスを忘れないこと
実家の土地や建物をゆずり受けて建てかえやリノベーションをするケースは年々ふえています。建物が老朽化してきた、親世帯が一戸建てを管理しきれなくなってきた、子世帯はマンションより一戸建てで子育てをしたい……こうした事情がからみ合って、親世帯はコンパクトなマンションに移り、子世帯が実家を住み継ぐ、という選択をする人がふえてきたのでしょう。
もちろん子世帯にとっては、新たに土地を購入して家づくりをするより経済的なメリットは大。ただし実家の引き継ぎには、自分たちで手に入れた土地に新築したり、中古住宅をリノベする場合とは違った難しさもあります。ひとつは精神的な問題。親や親戚、ご近所さんなど、考慮しなくてはならない人間関係が複雑なため、想像以上の〝気苦労〟がつきものです。もうひとつは、土地の所有権など法律上の問題が浮上しがちなこと。なかなか「工事費だけですんでラッキー!」とはならないのが現実です。
こうした障壁に突き当たったときは、原点に帰ってみる——つまり、「土地や建物を使わせてもらえるのは、親の愛情あってのこと」と、あらためて気づくことが大切。その愛情にこたえて、新居で自分たちが生き生きと暮らすことが親への恩返しになると考えて、家づくりに臨んでみてください。
実家を建てかえる、リノベする メリットとデメリットは?
実家を建て替えたりリノベする最大のメリットは何と言っても経済面。土地の購入費を建築費に回し、ワンランク上の住まいをめざすこともできるでしょう。
さらに注目してほしいのが、家を建てる前から地域とのつながりができ上がっていること。夫か妻どちらかが生まれ育った家ならなおさら、ご近所に昔からの顔なじみがいるはずです。そうしたコミュニティに自然に参加できることは、特に子育ての環境としては理想的。さまざまな年代や価値観の人たちに囲まれて育つことは、子どもにとっては〝人生のトレーニング〟になるからです。
そこで、実家の建てかえやリノベの際は、ぜひ地域に向かって開かれたプランを検討してみてください。玄関を広めの土間にしたり、縁側風のデッキをつくったりと、ご近所さんが気軽に訪ねられる空間を用意しておけば、このメリットをもっと生かせるはずです。
一方のデメリットは、じつはこのメリットの裏返し。代々続いてきたご近所さんとのしがらみやもめごとまで引き継ぐ可能性があるのです。対策としては、まず親からしっかりと事情を聞き、ご近所さんの傾向をリサーチしておくこと。さらに、万が一、トラブルがあったときの処し方を決めておくことも大切です。特に在宅時間の長い奥さまのほうが、このデメリットを受けやすいもの。安心して入居できるように、事前の備えは万全にしておきましょう。
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親の意見はどこまでとり入れるべき?
「土地や建物を使わせてもらう以上は、親の意見もそれなりにとり入れなければ……」そう考えるのは、子どもとしては自然なこと。親も〝人生
の先輩〟としてアドバイスしたいことが多々あるでしょう。
ところが、親世代とは生活スタイルにもセンスにもギャップがあり、その板ばさみで悩んでしまう人も。結局、バッサリと「何も聞かない!」とシャットアウトすることになりかねません。これでは入居後の親子関係が心配。どうバランスをとるのがベストなのでしょうか。
おすすめなのは、まず親の意見にきちんと耳を傾けること。親もよかれと思ってアドバイスしているのですから、いい家をつくるための〝ご意見番〟 として、立場を尊重してあげてください。ただし、それをすべて受け入れなければならないわけではありません。その家に住むのは、あくまで自分たち。「家族でよく考えて、結局こうしたけれど、もらった意見はすごく参考になったよ」と言える間柄が理想ではないでしょうか。
実家の建てかえで注意すべきことは?
親から土地を引き継ぐ場合、最も気をつけなければならないのは、敷地境界線や土地の所有権にかかわる問題です。新たに土地を購入して家を建てる場合、こうした問題は不動産業者が必ずクリアにしますが、代々受け継がれてきたような古い土地では、けっこうあいまいなケースが多いのです。
敷地境界線は、お隣との間でことを荒立てないように、暗黙の了解でなんとなく決まっていることも。役所に登記されている土地の面積や境界線も、実測によるもので正確ではないことがあります。子世帯の代で新築するなら、これを機に確定測量を行い、正確な敷地境界線を把握しておくとよいでしょう。
土地の所有権をどうするかについても、子世帯とそれぞれの親で話し合いをもち、あいまいなままにしないのが正解。気の重い話ではありますが、将来への影響が大きい問題だからです。たとえば、妻の実家の土地に夫の名義で住宅ローンを組んで家を建てた場合、もし離婚や死別をしてしまったら、夫の手元には土地がなく、ローンだけが残った、などということに。どんな事態が起こり得るのか、家族だけでなくファイナンシャルプランナーなどに相談するのもひとつの手です。
将来の同居の可能性を考えておいたほうがいい?
子世帯:「親から直接話は出ないけれど、同居のことは考えておいたほうがいいのかな」
親世帯:「言わなくてもきっとわかっているわよね」
——こうした気の回し合い、本心の探り合いが、実家の建てかえやリノベの大変なところ。お互いの利害関係が生まれ、親子関係の最も繊細な部分に踏み込むことになるからです。
もちろん、親子で話し合ってすべてをクリアにできるのが理想的ですが、そうするのが難しいのなら、多目的に使えるスペースをひとつ用意してみては。最初から「ここは将来の親の部屋」としてあけておくのではなく、子どものプレイスペース、地元の人とのコミュニケーションスペース、夫婦の趣味室などに活用しながら、万が一のときには使いみちを変えられるようにしておくのです。
いわば、土地や建物を提供してもらった親へのプレゼント。義務感ではなく、心遣いのあらわれとしてこうした空間を用意できれば、親も快く見守ってくれるのではないでしょうか。
実家の立地条件があまりよくないのでここに住めるのか不安です…
実家の建てかえやリノベでは、自分自身が暮らした経験があるだけに、昔からのイメージに引きずられがち。日が当たらなくて昼間でも暗い、風通しが悪くて湿気が多いなど、子ども時代にもった感覚にとらわれて、「建てかえてもそんな家になってしまうのでは?」と不安に思う人も多いようです。
でも実際には、こうしたデメリットは建てかえやリノベで必ず改善できます。それどころか、実際に暮らした経験があるからこそ、どこを改善すれば快適になるか、暮らしやすくなるかは身をもってわかるはず。プランニングするうえで有利な面も多いのです。
建てかえかリノベかの選択は、予算や既存建物の築年数などによるところが大きいと思いますが、地盤の状態や耐震性などの安全面については、必ず専門家のチェックを受けて。そのうえで、建てかえとリノベのどちらで希望の暮らしを実現できるか、設計士と話し合いながらプランするのがおすすめです。
イラスト:石山稜子
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