「頭金は2割が目安」という定説がある一方で、住宅の広告などでは「頭金なしでもOK!」という謳い文句もチラホラ。
当然ながら、頭金が多いほどローンの借入額は少なく済み、利息もその分少なくなります。
借入金はなるべく減らしたいけれど、手元のお金がゴッソリなくなってしまうのもイタい……。
さて、頭金と住宅ローンのベストバランスとは? 不動産コンサルタントでさくら事務所創業者会長の長嶋修さんに解説していただきます。
そもそも頭金ってなに?
「頭金が貯まるまではマイホームは買えない」というのは、住宅購入を夢見るときに浮かび上がるハードルのひとつ。「頭金はいくら必要なのか」、「頭金なしで住宅ローンを借りるのは危険なのか」、こうした疑問を解決するためにも、まずは「そもそも頭金とは何か」をもう一度おさらいしてみましょう。
頭金とは、購入価格からローンの借入額を差し引いた金額のこと。
たとえば、2,500万円の一戸建てを、2,000万円の住宅ローンを組んで購入する場合、頭金は500万円となります。
購入にあたって、ローン以外の方法で用意するお金が頭金、というわけです。
頭金が多いほど、住宅ローンの借入金は少なく済みます。当然、利息を含めた総支払額も少なくなります。
実際にどれほどの違いがあるのか、計算をしてみましょう。
たとえば物件価格が2000万円、返済期間が30年、金利は2.0%の固定金利型とします
(融資手数料、保証料などは除く)。
まず、物件価格の20%、400万円を頭金として用意した場合を考えてみましょう。
借入額は1,600万円、毎月の返済額は6万円、総返済額は2,129万円です。
続いて、頭金なしで、2000万円を全額ローンで借りた場合です。
借入額は2,000万円、毎月の返済額は7万円、総返済額は2,662万円です。
頭金があるかないかで、毎月の返済額も、総返済額も変わってくることがわかります。
また、頭金の支払いは、売買契約を結んでから引き渡しまでの間に行います。
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もはや「頭金は2割が目安」の根拠はないけれど……
住宅ローンのセオリーとして「頭金は2割くらい準備しておくと安心」というフレーズを耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
けれど実はこれ、さしたる根拠のない数字なのです。
かつては、住宅金融金庫などの金融機関において、物件価格の8割までなら比較的簡単にローンを組むことができました。
裏を返せば、頭金2割を用意できなければ、家を買うことが難しかったわけです。
「頭金2割用意すれば、マイホームが購入できる」と言われていたものが、いつのまにか頭金の目安額に転じたのでしょう。
住宅ローンをいくら借りられるかは、金融機関、また住宅ローンの種類によっても異なります。
現在では、頭金なしで物件価格の100%を融資してくれる商品もあるほか、登記費用などの諸費用分まで借りられるものも。
融資可能額によって、頭金がいくら必要なのかはケース・バイ・ケースということです。
ただ、根拠がなくなったとはいえ、「頭金2割」の目安は見当違いかといえばそんなこともありません。
新築の物件は、人が住んで中古になった瞬間から価値が下がり始めます。
10年で半値、25年が経つと建物の価値は限りなくゼロに近く、というのが一般的です。
たとえば2,000万円の土地を購入し、建物を2,000万円で建てた場合でシミュレーションしてみましょう。
仮に地価が変わらなかったとしても、10年後には資産価値は3,000万円くらいになっています。
もし、4,000万円を全額ローンで借りていたとしたら、10年後の残債は3,270万円(30年ローン、金利2.5%の場合)。
住宅の資産価値をローンの残債が上回ってしまう、担保割れの状態です。
もしなんらかの事情で売却しなければならなくなったとすると、差額の270万円に加え売却費用の約100万円を用意しなければ、売ることもできません。
担保割れこそ、頭金を用意しなかったときのリスク、といえるでしょう。
これが、購入時に4,000万円の2割にあたる400万円を頭金として入れたとすれば、担保割れすることはありません。
頭金2割は、担保割れを防ぐための目安になる割合と考えられます。転職やライフスタイルの変化などでマイホームの売却を考えたときにも、柔軟に対応しやすくなる、といえるでしょう。
もちろん価値が落ちづらい家を吟味し、きちんとメンテナンスをして資産価値を維持する努力をしていれば、この限りではありません。極端な話ですが、仮に住宅の資産価値がまったく落ちないとすれば、頭金ゼロでも担保割れのリスクはなし。手持ちの資金を減らさず、無理なく支払いが続けられることになります。
反対に、駅から遠い、間取りが特殊、省エネ性能が悪いなど、価値が落ちやすい家を建ててしまえば、頭金をより多く入れなければ不測の事態に対応できません。
結局のところ、頭金の適正額は、「購入する物件による」というのが正しいのです。
「頭金ゼロ円からOK」の落とし穴にご用心!
住宅のチラシを眺めていると、「頭金ゼロ円からOK」「家賃並みの支払いでマイホームが買える!」といったフレーズをよく見かけます。
頭金ゼロ円の物件なら、貯蓄がなくても買うことができる!と思う方もいるかもしれません。
でも、余裕のない状態で家を買うのは、大きなリスクを伴います。
まず、気をつけなければいけないのは、住宅取得時には頭金のほかにも、諸費用が必要となる、ということです。
住宅ローンを組むときに支払う保証料・生命保険料、売買契約や住宅ローンの契約を結ぶときの印紙税、購入した土地や建物の登記免許税、不動産を取得したときにかかる不動産取得税などなど、物件価格や借り入れ金額にもよりますがおよそ100〜200万円はかかります。
最近では、諸費用まで借りられるローンもありますが、基本的には現金で準備するのが一般的です。この点からみても、貯蓄ゼロで住宅購入に踏み切るのは危険、といえますね。
次に、ローン返済におけるリスクを考えなければなりません。
頭金をまったく払わなかった場合、それだけ毎月のローン返済額は高くなります。
チラシの謳い文句を見ていると「月給からローンを引いても生活費は十分に残る」と思いがちですが、それは数千万円もの買い物をするにはあまりにも楽観的な見通しではないでしょうか。
フラット35の住宅金融支援機構のデータよると、貸し出されているフラット35全体の2%強が、ローンの返済ができなくなって泣く泣く家を手放しています。
住宅ローンが破綻する原因はさまざまですが、大部分は当初の資金計画に問題がある場合だと思われます。
手元の資金を多く残し、ライフイベントに備える目的で頭金は少なくする、あるいはゼロにして全額をローンで借りるという選択肢もあるでしょう。
ただし、「頭金ゼロ円でも買えるから」と貯蓄がまったくないのに住宅を購入するのは危険です。余裕資金が貯まるまでは、購入は待つのが賢明です。
家計を洗い直して、無理のない頭金の額を逆算!
ローンの借入金が増えれば、それだけ利息が増え、総支払額も高くなる、というのも心配のタネですね。
ただ、今は空前の低金利です。200万円、300万円とローン金額が増えたとしても、その利息分はそれほど高額になるわけではありません。
むしろ、総支払額を抑えるために、手持ちの資金を頭金として入れてしまったがために、我慢ばかりの生活になるのも本末転倒な話です。
そこで、低金利の今だからこそできる戦略として、教育費や車の購入費用、旅行など、住宅のほかにもお金がかかるイベントに備え、手元に余剰資金を持っておく、という考え方もあります。
あえて多めに借りて、繰り上げ返済も頑張らず、無理のない金額で月々の返済を行っていくのです。
たとえば1,000万円の貯金があるファミリーが、3000万円の新築住宅を購入するとします。
ローンの総額を少なくしたいからといって、1,000万円をすべて頭金にしてしまえば、急にお金が必要になったときに対応できません。転職による年収減やリストラ、病気やケガによって働けない期間がでてくるなど、いつ不測の事態が訪れるとも限りません。
では、500万円を頭金にしたとしたらどうか、あるいは700万円を頭金に入れても日々の生活と返済は回っていくのか。「頭金は2割なければダメ」「たくさん用意できるほど安心」という思い込みにとらわれるのはかえって危険です。
毎月の家計から逆算し、無理のない金額を割り出しましょう。
返済比率も家庭ごとにオリジナルであるべき
頭金と同様に、返済比率についても定説にとらわれすぎないことを意識したいものです。
返済比率とは、税込年収に対する住宅ローン返済額の割合を指します。
たとえば、年収500万円の方が毎月10万円、年間120万円の住宅ローンの支払いをすると、年収に対する返済額の割合は24%となります。
よく通説として、「返済比率は25%が適正」と言われます。
ただ、金融機関によっては、35%とか、場合によってはそれ以上でも融資をしてくれるケースも。
注意しなければならないのは、「借りられる額」と実際に「返せる額」は、異なるということ。
無理のない返済比率に設定しないと、ローンの返済に追われるようななことにもなりかねません。
住宅金融支援機構の平均的な返済比率は22%です。
しかし、その内訳を見てみると、10%の人もいれば30%の人もいます。平均値にならうよりも、自分だけの額を算出すべきでしょう。
たとえ年収が同じでも、家族構成、生活費、趣味や娯楽、子どもの教育への考え方などは家庭ごとに異なるはずです。
一度、家計と資産の状況を棚卸ししてみましょう。税引後の手取り年収から、具体的に使っている額を差し引いていきます。
家計の棚卸しをしてみると、ほぼ100%の家庭で使途不明金が出てきます。
多くは飲み会、コンビニでのついで買いなど、小さなことの積み重ね。住宅を購入する前には、ぜひこうした家計の穴もクリアにし、きちんとふさいでおきたいものです。
また、加えて大切なのは将来の計画です。
子どもを私立の学校に通わせたいなら教育資金を厚めに準備しておく必要がありますし、家族での旅行を大切にしている家庭ならレジャー費の予算はけずりたくないでしょう。
現在の生活費をきちんとあぶりだすこと、それから将来の生活スタイルもシミュレーションして必要なお金を計算すること。
この2つの数字をきちんと見つめ直せば、おのずと無理なく返せる実質的な住宅ローンの返済比率が割り出せる、というわけです。
まとめ
不動産価格が上がり続けていた高度経済成長時代は、「頭金は2割、返済比率は25%」といったセオリーを守っていれば安心、どこでどんな物件を購入しても大きな損をすることはありませんでした。
しかし、当時とはあらゆる状況が変わっています。
私たちの働き方も、ライフスタイルも、多様化している時代です。それは不動産でも同じ。
一般論としての正解はくずれ去り、一人一人にあわせてカスタマイズしていくことが求められています。
資金計画を立てる際にも、年収、月々の返済額といった目先の数字だけでなく、どんな働き方をしていきたいか、どんな暮らし方をしていきたいかといったことも合わせて考えたいものです。
そして、甘い謳い文句に踊らされず、自分にあった物件を賢く選び、無理のない資金計画を立てること。住まいで人生を棒に振らないためにも、大切な視点です。
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記事監修者
さくら事務所創業者会長
長嶋 修さん
不動産コンサルタント。1999年に業界初の個人向けの不動産コンサルティング、ホームインスペクション(住宅診断)を行う株式会社さくら事務所を創業。業界の第一人者として、テレビ出演、セミナー、講演等で不動産購入のノウハウを発信するほか、政策提言なども精力的に行う。『5年後に笑う不動産』(ビジネス社)、『100年マンション』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
https://www.sakurajimusyo.com/
取材・文/浦上藍子
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