2011年3月の福島原発事故は、いろいろな価値観を変えてしまいました。扇風機もその一つ。エアコンをあまり使用できなくなった時、みんなが頼ったのは、扇風機でした。
扇風機は家電でもかなり早い時期に実用化されています。国産一号機は東芝だそうで、川崎の東芝科学未来館、ヒストリーコーナーに展示してあります。それだけ日本の夏は過ごしにくかったわけです。
ただ、時代とともに空調の主流はクーラー、エアコンへと変わってきます。快適性において、扇風機とエアコンでは勝負になりません。扇風機は、エアコンが肌に合わない(多くの場合は冷やし過ぎなのですが)人が使う家電となって行きました。
メーカーは気持ちのいい「自然の風」ということで「ゆらぎ機能」などを付けましたが、風の強弱をランダムに変えるだけのメーカーが多く、ユーザー全員から認められるレベルには至りませんでした。
ソフトタッチの「微風」で扇風機復活
大きく変わったのは、バルミューダが出した「The Green Fan」からです。ベンチャーながら、扇風機の本質「風」にがっぷり四つに組んだ作りでした。
一番大きいのは、今の主流である「微風」を作り出したことです。春、そよ風が吹くポカポカした陽だまりは、絶好のお昼寝スポットですが、この寝るのに気持ちがいい「微風」を作り出そうということです。
そよ風は、体全体に軽いタッチを繰り返す感じで吹きます。顔だけ、お腹だけとかではなく、体全体。それに触れるか、触れないかのゆるやかな風です。気持ちイイです。これが提案され、扇風機は、エアコンに勝るとも劣らない「快感」の要素を取り入れたわけです。
この“微風扇風機”、後押ししたのは、実は「エアコン」です。熱帯夜が慢性的に続く現代、窓を開けて寝る家は少数派。「寝る時はエアコンを切るので、涼しいうちに扇風機の「微風」で寝てしまおう」という生活習慣が扇風機を後押ししました。エアコンが普及した省エネ住宅だからこそ、室内に「風が要る」と言うことになったわけです。
扇風機を選ぶ時におさえておきたい5つのポイント
先に言っておきますが、誰もが満足のいくパーフェクトな製品はこの世に存在しません。それはある特長を強調すると、他の特長に影響が出るためです。このため、良いモノを買おうとする場合、自分はどんな扇風機が欲しいのかをイメージしなければなりません。その手助けとなるように、扇風機の見るべきポイントをあげたいと思います。
■ポイント1 風
扇風機だけに、どんな風が使えるのかは非常に重要。チェックすべきは、3つの風です。
1つめは、エアコンがあり、自分が起きている時に使う風です。今の主流である8段階だと、2〜3段階。ソヨソヨと感じられるレベルの風です。ポイントは、風質と動作音です。閉め切った室内ですので、動作音が大きいと気になります。2m離れて風に当たってチェックしてください。気にならず、椅子に腰掛けた時、体全体に当たるのが重要です。
2つめは、エアコンありで、そのまま寝る時に使う風です。1段階。微風中の微風です。肌にそんなに感じる強さではなく、ソヨ・・・ソヨ・・・と肌に軽く触れる感じ。寝る時ですので、無音に近いことが必要です。こちらの距離は1m程度で確認してください。
3つめは、窓を開けた状態で使う場合です。3〜4段階。当然、動作音もグンと上がります。しかし、一番長時間風に当たっている可能性が高い風でもあります。1と同様な形でチェックしてください。
お風呂上がりの強風は、音が大きいのは当たり前ですので、ノーチェックでも構いません。
■ポイント2 設置性
リビング用の台座は、大体直径:36cm程度のものが多いのですが、首も振るので、50cm四方は欲しいもの。またケーブル長は1.8m以上が普通ですが、AC変換器が付いているモノも多く、コンセントにつなぐ時に悩む場合も出てくる可能性があります。また操作はリモコンでする製品が多く、置き場所が必要です。
■ポイント3 使い勝手
ちょっと取り留めのないタイトルですが、大きく3つのことをチェックします。
1つめはヘッド(羽根部)の可動。左右への動き、角度は、どの機種もあるレベルに達しており、チェックすべきは、上下どの位ふれる設定ができるかです。これは扇風機をサーキュレーターとして使う時、重要です。
2つめはタイマー。これは各個人の寝かたなどにあっているかでチェックします。
3つめは、その他の空調家電との機能重複です。例えば、シャープにはプラズマクラスターイオン、パナソニックにはナノイーのイオン発生機が付いています。またダイソンには、なんと空気清浄機が搭載されています。サーキュレーターはかなりの機種が意識しています。機能はタダではありません。なくても良いなら、付いていないモデルを探し、安く上げるのも手です。
■ポイント4 デザイン
デザインの好みは、人により偏りがありますので、これが正解ということはありません。しかし、羽根という特異なパーツは、デザイナーとしては腕の見せ所であることは確かです。
工業デザイン的なポイントは、「リビング」という空間演出。演出というと「装飾」を思い浮かべる人もいるかも知れませんが、「削ぎ落とし」も重要。モダン=シンプルは、削ぎ落としの系図です。
■ポイント5 収納性
扇風機を365日出しておくのか、否かで見解が異なります。夏以外は使わないという人は、収納を考慮する必要があります。具体的には箱の大きさ。ただ、今の輸送箱の設計は強度ギリギリのため、予め、ガムテープなどで補強しておくとベターです。
これらはチェックすべき項目ですが、優先順位は、どんなモノが欲しいのかで変わってきます。どう使うのかを考えて、選んでください。
おすすめの扇風機は?使用実感レポート
さて、各社の扇風機を比較してみました。総評としては、どれもかなりイイ出来です。逆に言うとだからこそ、短所が際立つことになり、少々手厳しく感じられるかも知れません。
並び順は、現在の標準仕様を作ったバルミューダを皮切りに、後は五十音順に並べてあります。買い物時の参考になれば、幸いです。
バルミューダ The Green Fan EGF-1600シリーズ
■微風分野を開拓したモデル
微風ながら密度の高い風は、「さやさや」という感じで、確実に風を感じることができる。基本設計は少々時間が経ってはいるが、シンプルデザインの魅力は健在。トータルバランスに優れ、人気の高いモデル。とは言うものの、他社に追いつかれ、見直すべき部分があるも事実。
微風は、今回テストした羽根型の中では最も存在感があり、心地よいと言うより、気持ちよい風と言った感じ。単独ならともかく、エアコン併用で寝る時に使うには、もう少しやわらかさが欲しい。
また、羽根ネットがかなり力を入れなければ取れなかったり、高さを低くした時に非使用のパーツの置き場所を確保しなければならなかったり、細かな仕様のいくつか見直すべき。さらに言うと、樹脂が多用されており、価格に対する納得感は少ない。
バッテリーを追加で入れられるなど、考えられた設計、よく出来た製品だけに満足度はあるが、そろそろもうワンランク上の新製品を期待したい。
2017年発売。市場売価:39,000円前後(税込)。
シャープ プラズマクラスター扇風機 ハイポジション・リビングファン PJ-H3G
■同タイプの羽根より、風を作るネイチャーテクノロジー
ネイチャーテクノロジーを羽根形状に活かしたモデル。アサギマダラ蝶の羽根のうねりとくびれにアゲハ蝶の尾状突起で、通常モデルより滑らかで風量を高く出せる。微風時は「そよそよ」というより「すがすが」しい感じ。通常使用は、1、2の微風(エアコン使用、睡眠時時)、3、4の弱風(エアコン非使用)で十分足りる。音も十分制御されている。
シャープお得意のプラズマクラスターを搭載。「だるさ」と「室内のニオイ」に効果ありとしているが、こちらは実感に至らなかった。空調でセールストーク通りの効果を得るには、部屋条件などを整える必要があるので、もう少し機能を絞ってもいいのではと、思うのは私だけだろうか。
温湿度センサーを備えており、熱中症に対応するという。また上向きにしてサーキュレーションも可能だ。
個人的には、デザインが弱いように感じる。羽根の色が微風に対し「重い」。リビング家電は、オブジェとしてのインテリア性も求められるが、それに対しては足りていないと思う。
2018年4月12日発売、店頭実売価:約3万円(税込)前後
ツインバード工業 コアンダエア EF-E981
■気持ちイイより心地イイ。ほっそりデザインが特長のリビング扇風機
売りはデザインと微風。このデザインを実現するためか、高さ変更ができなかったり、移動させる時は支柱とモーターの部分をつかんで対応など、徹底的にスリム化した設計となっているが、このモデルはそれも魅力。
ペットネームの「コアンダエア」は、ルーマニアの著名な航空力学の大家、コアンダ氏が発見したコアンダ効果から取られているが、日本人には「なじみ」が少なく、記憶に残り難いのは残念。コアンダエアは羽根中央部が風の誘因経路になるため、風は均一には出てこないが、それが独特の良さを持つ。特に微風でその雰囲気は顕著で、気持ちがいいと言うより、心地がいい、「そよっと」した感じがする。ただ、中以上(4〜)では、羽根をぶん回している感じで、微風時とはかなり異なる。
取っ手すらないシンプル設計は、最低限の機能ながら、扇風機の本質は抑えてあり、すぐに慣れ、不自由を感じることは少ない。今回のテストでは、最安値ながらチープさを感じる部分が少なく。シンプル&ミニマムなモノを好む人におすすめ。また風が弱いので、エアコンとの併用を考えている人にもよい。
2017年4月下旬発売。市場売価:20,000円前後(税込)
パナソニック リビング扇風機 ハイグレードモデル F-CR339
■日本メーカーらしい全部入り。ゆらぐ風が気持ちいい
パナソニックは一つの課題に、いろいろなアプローチを掛ける上、新しい技術はそれが人口に膾炙されるまで続ける粘り強さももつ。自然風に似せるための1/fゆらぎも30年以上続けているはず。1/fゆらぎは完全には解明されていないが、人が心地よいとするものの多くは、1/f ゆらぎを持つ。微風自体はそれなりなのだが、このゆらぎを加えると実にイイ感じになる。「スースー」と涼風がほほをなでるような感じです。
また、新しいことにも挑戦ということで、立体首振りが導入されている。これを使うと、並行して部屋のサーキュレーションもしているのと同意で、意識しなくてもエアコンをサポートする。しかもナノイーも搭載。
さらに、今どんな状態であるのかは、支柱に表示され、遠くからでも認識しやすく、リモコン使用時に大いに助かる。また、支柱の一部に金属プレートを使って、リビングに相応しい雰囲気を出そうとしているのもパナソニックらしい。高価格だが、高品質なので割高感はない。
ただこだわっている割りに、AC変換器をそのまま使っていたりする。高価格モデルなので、細部までとことんこだわって欲しかった。
2018年4月20日発売。市場販価:36,000円前後(税込)
日立 ハイポジション扇 HEF-DC6000
■使い勝手の工夫いろいろ。機能の充実に対し、デザインが普通ずぎ!?
機能完成度は、パナソニック同様とても高い。が、デザインは極めて普通で、あまり高性能が感じられない。日立は大型家電、重厚さがあるデザインが上手いので、風のような軽いイメージは苦手なのかも知れない。
リビングの黒子的な存在を目指しているのかも知れないが、扇風機使用時はユーザーの数m以内、遮蔽物がないように設置するため、必ず眼に入る上、「羽根」という機能美を持っているので、ここはもう一工夫あると嬉しかった。
風は、かなり単調で「そよそよ」が無限に続く感じだが、静音性もよく、イイ感じ。一番近いのは、1/fゆらぎを使わない時のパナソニック。日立は、自然風の対応を強弱で行っており、パナソニックのゆらぎのように風の感触が変わらない。
デザインと逆に、使い勝手のこだわりは並ではない。例えば、普通ならユーザーに組み立てさせるのが、今の主流だが、HEF-DC6000は完成品のまま箱に入っていて、とても楽。またリモコンも本体にしまえるようになっている。よく考えられたモデルでもある。
2018年4月11日発売。市場売価:30,000円前後(税込)
ダイソン Dyson Pure Cool 空気清浄タワーファン TP04WS
■空気清浄機と扇風機の兼用モデル。空気清浄機としてのできはいいが、扇風機として使うには不便なところも
「羽根なし」ということで話題の扇風機。今年の一押しは、空気清浄機を内蔵したモデルということで、そのモデルをテストした。
風はジェット旅客機という感じで、羽根とは違い切れめなく出てくるが、それだけ単調とも言える。あと、風より気になったのは、動作音が大きめと言うことだ。微風の場合、同レベルの羽根を持つ扇風機より2割位大きく感じられた。強風の時は、2割よりも、もう少し差がありそうだ。首振りは、左右350°という驚異的ですが、構造上、上下に動かすことはできません。
羽根の扇風機との違いは、プラスなのは、設置面積の小ささとデザイン性。羽根がある種のノスタルジーを感じさせるなら、羽なしは近未来を感じさせる。
空気清浄機としての性能は素晴らしく、空気清浄機の中でもトップレベル。
また、今回、空気状態のデーター(温度、湿度、空気質、PM10、PM2.5、VOC、NO2など)を見ることができる様になった。応答性もよく、現在の空気状態が分かり大変便利。
ただ使っていて気になったこともある。それは空気清浄機を「オート」にしていると、そちらに風量があってしまうと言うことだ。通常は、そんなに空気は汚れていないので、2とか3の微風レベル。しかし料理で火を使い始めると、様子は一変。最大風量で、空気の汚れを吸い取ろうとする。
実は、火を使った料理は、換気扇をONしても空気が汚れる。(空気清浄的言い方をすると、浮遊微粒子、VOCが汚染大レベルまで上がる)。応答性のよいダイソンの空気清浄機は、フルパワーでモーターを回し始める。つまり、微風から、いきなり突風となるわけだ。音もうるさいし、机の上にプリントなどを置いていると、飛び散らかってしまう。
扇風機として使う場合は、この高性能の空気清浄機の機能をフルポテンシャルで働かせず、マニュアルで使うことが必要。また扇風機として使用する場合も、初夏、窓を開けての使用は、外気をせっせと浄化しているようなものですから、これも考え物だ。
これはリモコンの配列にも問題があると思っている。左右二列のボタンの内、左が扇風機、右が空気清浄機となっているのだが、「オート」「ナイトモード」など、扇風機でも馴染みのボタンが並んでいるからだ。ハイブリッド型ならではの問題といえる。
扇風機として見るか、空気清浄機として見るかで、評価が分かれるところだが、基本、空気清浄機として使い、空気が汚れていない時に、扇風機として使うことになるというのが私の考えだ。ダイソンの扇風機をメインに使う場合は、扇風機専用モデルをおすすめしたい。
2018年4月 発売。市場売価:72,000円前後(税込)
【筆者プロフィール】
多賀一晃 さん
1961年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学部卒。大手メーカーにて商品開発、企画を担当後独立。国内はもちろん、世界最大の家電見本市「IFA」等で世界中の家電を取材し、役立つ情報を「生活家電.com」から発信中。日本経済新聞夕刊の家電製品特集や土曜日別冊「日経プラス1」の「家電ランキング」選者、WEDGE Infinity「家電口論」主筆としても活躍。
生活家電.com
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