大豆イソフラボンアグリコン成分「ゲニステイン」をご存じでしょうか。ゲニステインのパワーをより多くの人に知ってもらい、女性の健康課題の解決を促進していくことを目的として、キッコーマンニュートリケア・ジャパンの「からだ想い 基本のサプリ」の発売日にちなんで今年から認定されたのが10月21日「ゲニステインパワーの日」です。
さて、閉経の前後5年間を指す「更年期」時期の不調のひとつとして、最近では手指の痛みがよく知られるようになりました。
今回は「ゲニステインパワーの日」にちなみ、手の外科専門医である柏Handクリニックの田中利和先生と、ゆらぎ年代の対策として注目の健康成分「ゲニステイン」研究のパイオニア、キッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)の和泉亨さんに、トラブルとの付き合い方や乗り越え方などについて教えていただきます。
■教えてくださるのは■
左・柏Handクリニック 理事長 田中利和先生
右・キッコーマンニュートリケア・ジャパン 和泉亨さん
女性ホルモン「エストロゲン」の減少とともに手指が痛くなる、その理由って?
編集部 本日はよろしくお願いいたします。更年期のお悩みの中で、手指のこわばりや痛みなど、指の不調がよく挙げられます。どのような原因があるのでしょうか?
田中先生 まず、手指の痛みは大きく分けて、「関節リウマチ」など自己免疫のトラブルで起きるものと、女性ホルモンの減少に起因するものがあります。前者は免疫疾患ですので内科の範疇で、後者が私、整形外科の守備範囲です。どちらなのかは検査してみないとわからないことなので、私は近所の内科の先生と連携して、お互いの患者さんをよりよい治療に繋げ合っています。
編集部 お話を伺うのは女性ホルモンのひとつ、エストロゲンの減少に起因する痛みのほうですね?
田中先生 はい。更年期時期に増える手指の痛みには、「ヘバーデン結節」「ブシャール結節」「母指CM関節症」「ばね指」「手根管症候群」などがあります。いずれも「滑膜(かつまく)」がカギです。
手指の関節や腱のまわりには、骨と筋肉をつないでこれらの動きを円滑にするための滑膜という組織があります。この滑膜の潤いを保ち、関節や腱とこすれて炎症を起こさないよう働くのがエストロゲンですが、更年期ごろからエストロゲン分泌量が減少していくに従って滑膜は炎症を生じ、肥厚します。その結果こわばりや痛み、しびれなどを引き起こすのです。
編集部 そのエストロゲンも補充するホルモン補充療法(HRT)は手指の悩みにも有効なのでしょうか?
田中先生 たしかに有効ですが、たとえば血栓のリスクが上がったり、乳がんの既往がある方は使えなかったりと、決して取り扱いが簡単な薬ではありません。まずは自分の自然治癒力でがんばってみて、どうしても医学的なサポートが必要なときにHRTを検討するほうがよいと思います。
「最初はどれか1本の指が痛み始めるけれど、我慢するうちに全部の指へと広がっていくのです」
和泉さん 先生のクリニックでは、どのような手指の症状を訴える患者さまが多いですか?
田中先生 もっとも多い症状は、手を使ったときの痛みです。たとえば、ペットボトルのキャップを回そうとしたら痛くて力が入らない、といった症状です。他に、手を使っていないのに手先がずきずきしたり、とつぜん電気が走るような痛みを感じたり、指先が曲がってきたり、などのご相談が多いです。
和泉さん どの指のトラブルが多いのでしょうか?
田中先生 全部です。正確に言うと、最初はどれか1本の指が痛くなるのですが、指1本の痛みぐらい我慢しようと思っているうちに他の指も痛くなり、クリニックへ来られる患者さまが多いです。
傾向として、普段から物を握る動作が多い人は小指と薬指、物をつまむ動作が多い人は人差し指と中指の痛みが多いです。
物を掴む動作が多い場合は親指の付け根、この部分が痛む方が多いです。親指は可動範囲が大きい分だけ負荷も高いんですね。
編集部 先生のクリニックでは、どのような治療をしていらっしゃいますか?
田中先生 私は「選択肢は2つ」とご説明しています。1つは患部を固定すること。もう1つは大豆イソフラボンサプリメントです。まず1つめの固定から説明しましょう。
指の痛みやしびれは関節の炎症で引き起こされます。ですから、炎症が起きないように、患部がある指をプラスチック製の装具で動かないように固定します。手指を使わなければ、炎症は自然に治まります。人間の体には、治す能力が備わっています。その能力をうまく引き出すと、治ってくれるんです。
編集部 なるほど、しかし指を動かせなくなってしまうと仕事や家事に支障が出ないのでしょうか?みなさんどうなさっていますか?
田中先生 その場合は、指腹のキーに当たる部分を除去すると打てるようになります。装具は、使う人の生活習慣に合わせて工夫しています。患者さまの中には、装具にネイルで色をつけたり装飾したりして、ファッションとして楽しむ人もいますよ。
マッサージも立派な治療のひとつ。指のむくみを感じるならケアを始めて
和泉さん 固定は、1日中ですか?
田中先生 いえいえ。手指を使わないときだけでかまいません。パソコンを使うときは固定装具を外して、寝るときやスマホを見るときに装着する方法でもいいんです。装着できるときに付けておくだけで、かなり炎症は抑えられますし、実践している患者さまほど治りが早いです。
編集部 装着するほど早く治ると言われると、がんばろうと思えますね。
田中先生 そう思って、治った人の体験談を、これから治療を始める患者さまに話すようにしています。治療にいちばん有効なのは、治したいという気持ちですから。
編集部 固定装具は、市販のテーピングでもかまいませんか?どのくらい経てば痛みや変形が治まるのでしょうか。
田中先生 テーピングでも大丈夫です。固定して指を動かさないようにすれば、炎症は治まっていきます。中には、1カ月もしないうちに患部の腫れが治まる患者さんもいます。いちど対策方法を覚えたら、今後はクリニックに来られなくても、自分でケアできるようになります。
編集部 手指の痛みや変形が気になり出したら、とにかく固定して動かさないようにして、炎症を抑えることが必須なんですね。
田中先生 その通りです。指先にむくみがあるようならマッサージも試してみてください。
まず、指の腹側に逆の手の薬指を添えます。指の左右を親指と中指で、上を人差し指で軽く押さえて、指の四方を逆の手の指で包みます。
そのまま指先から根元にむけてすべらせてみてください。和泉さんの手でも試してみましょう。
和泉さん 先生、なんだか私の指が細くなっていませんか……?
田中先生 たった3回ほどマッサージしただけですが、指先と根元の太さが変わりましたね。和泉さんは指がむくんでいたようです。ただ、むくんでいるだけならば心配は不要です。
和泉さん 驚きました。このくらい手指というのはデリケートなんですね。
手指の不調を感じたら、まずは整形外科?それとも婦人科?
編集部 そもそも、どうして炎症が起きるのでしょうか。
田中先生 加齢とともに軟骨細胞が小さくなり、関節軟骨が菲薄化してくることも原因です。関節と関節の間に隙間ができてしまうと、関節の周りを包んでいる靭帯が緩み、本来は前と後ろにしか動かない関節が横や斜めにずれてこすれ、炎症が起きてしまいます。
編集部 手指の痛みを感じると、多くの人は最初に整形外科へ行きます。その選択は合っていますか?更年期によるものなら、婦人科へ行ったほうがいいですか?
田中先生 まずは整形外科、で合っていますよ。整形外科でリウマチなど免疫の病気ではないか、原因を調べてもらうことは正解です。ヘバーデン結節は指の第一関節、ブシャール結節は第二関節が炎症を起こし、それを抑えるための水が溜まってしまう病気です。リウマチは、指の第二関節から手足にかけて、全身に発症する可能性がある自己免疫疾患なので、異なる病気です。
編集部 仮に女性ホルモン由来の痛みだったとして、閉経後に更年期症状が落ち着く日がくるように、手指の痛みも落ち着くのでしょうか?
田中先生 はい、必ずきます。くるのですが、手指の変形を起こさないことが重要です。炎症が起きて赤く腫れているうちは、固定して動かさないようにすれば、治まります。ただ、赤く腫れて変形した状態を通り過ぎて白くなってしまった場合は、もし変形していたら残念ですがそれ以上よくなることはない可能性が高いです。ですから炎症があるうちに治す必要があるのです。
更年期の不調を予防するには大豆イソフラボンの摂取がお勧め
編集部 周囲にも意外に痛みを我慢している人は多いのですが、忙しくて手指の痛みごときと放置する人も多い傾向です。病院へ行かずに自分でケアできるのでしょうか。
田中先生 関節リウマチでないかどうかは一度病院で確認してもらいたいのですが、それ以外の手指の痛みやこわばり、しびれなどは、患部を固定して動かさないようにすることで緩和します。1日中手指を動かせないわけではなく、使わないときだけ固定装具やテープを付けておくだけでじゅうぶんです。
患部ケアと合わせて、健康な体の基盤を作ることも大切です。私は2つ目の選択肢として、女性ホルモンの一種であるエストロゲンに似た構造を持つ、大豆イソフラボンの摂取を勧めています。
編集部 大豆イソフラボンは、どのような摂取方法がいいでしょうか。
田中先生 豆乳や納豆や味噌などの大豆食品から摂ってもいいですし、食品だけでは量が摂れないという場合はサプリメントの活用をお勧めしています。大豆イソフラボンの一種でエストロゲンと似たはたらきをする、ゲニステインのサプリメントもいいでしょう。
ゲニステインは、ホルモンレセプター(ホルモンと結合するタンパク質)を刺激してくれる成分なので、手指ケアのサプリメントとして親和性が高いと思います。合わせて、酸化を防ぐ「プロアントシアニジン」を摂ると、指回りの筋肉が落ちにくくなるので、手指の健康維持になります。抗酸化力は血管機能の低下を防ぐので、むくみケアとしてもいいですね。この成分に関しては、長年研究を続けられ、論文を出された和泉さんのほうが詳しいと思います。
和泉さん ありがとうございます。私がキッコーマンでしょうゆの主要原料である大豆を研究する中で、ゲニステインが更年期障害や骨粗しょう症、不安の緩和に対する効果が期待できると分かりました。プロアントシアニジンは、抗酸化作用を有する成分としてキッコーマンで検証してきまして、更年期症状の緩和効果が立証されました。*1
編集部 サプリメントの選び方、飲み方にはどのようなコツがあるのでしょうか。
田中先生 サプリメントは食品ですので、他の食品と同じく、バランスよく適量がいちばんだと思います。大豆イソフラボンは国が決めた摂取量の上限がありますので、その範囲で利用してください。よく「サプリメントを適正量の2倍摂ったら効果も2倍」と思っている人がいますが、体が一度に受け入れる量は決まっているので、効果は増えません。
和泉さん 田中先生がおっしゃるようにお好みでいいと思いますが、ゆらぎ年代ケアにサプリメント選びとしてあえて言うなら、成分の研究データを確認したり、日本産科婦人科学会が出している婦人科ガイドラインに掲載された成分を選んだりするのも一つの方法です。
編集部 たくさん飲めばいいというわけではないのですね。ちなみに、選んだサプリメントが本当に自分に合っているかどうかを確認する方法はありますか?
田中先生 私がお勧めしているのは、3カ月から6カ月続けた後、いったん中止して判断することです。もし中止したあとに何か落ちこみや不調のぶり返しを感じたら、そのサプリメントは自分に何かしらのよい影響を与えていたということですから、急いでまた続けてください。もうひとつ、一度にあれもこれも飲まないで、1種類ずつ試していくのも大事ですね。
編集部 なるほど、同じ成分でも信頼できる企業のサプリメントを選ぶことも大事ですね。今日はお話をありがとうございました!
「更年期のよりよい過ごし方」詳しい情報はこちらにも!「輝きプロジェクト」
*1 更年期、どうやって乗り越える?運動、食事、サプリ、そして注目成分「ゲニステイン」まで、更年期の専門医が教えます
■お話■
田中利和先生
医療法人社団 よりそう手 柏Handクリニック 理事長
医学博士。日本整形外科学会 専門医、日本手外科学会 指導医、専門医。2022年・2023年 Best Doctor選出。1985年旭川医科大学医学部卒業、2007年筑波大学医学博士。2004年から2006年までメイヨー・クリニック リサーチフェロー。亀田総合病院、いちはら病院、那珂中央病院、筑波記念病院、キッコーマン総合病院など多数の大規模病院での治療を経て2020年から現職。国内でも類例のない「ひじから先の痛み」の専門医として、患者の心の痛みにも寄り添う丁寧なカウンセリングと正確な診断、患者と共に歩む前向きな治療実践に全国から高い評価が集まる。現在、キッコーマンのゲニステインサプリメントにおいて共同研究中。
https://www.kashiwa-hand.com/
和泉亨さん
キッコーマンニュートリケア・ジャパン(株)開発部長
農学博士、薬剤師。キッコーマン入社以来、研究開発本部、商品開発本部、プロダクトマネジャー室を経て現在に至る。1996年~2007年まで研究開発本部にて、大豆イソフラボンの研究に従事。
Soy isoflavone aglycones are absorbed faster and in higher amounts than their glucosides in humans. Izumi Toru, Osawa Sachiko, Obata Akio, Tobe Koichiro, Saito Makoto, Kataoka Shigehiro,Kikuchi Mamoru, Piskula Mariusz K., Kubota Yoshiro The Journal of Nutrition 130(7), 1695-1699, 2000
大豆イソフラボンアグリコンの更年期障害に対する効果について 久保田 芳郎, 三上 繁, 和泉 亨, 小幡 明雄, 斉藤 實, 戸辺 光一朗, 菊地 護 Official Journal of the Japanese Society of Human Dry Dock 17 (2), 172-177, 2002
低カルシウム食で飼育した卵巣摘出ラットの骨密度低下に対するイソフラボンアグリコンを含有する大豆発酵抽出物の予防効果 斉藤 實, 小幡 明雄, 片岡 茂博, 和泉 亨, 戸辺 浩一郎, 菊地 護, 江澤 郁子 日本家政学会誌 54 (8), 613-621, 2003
大豆イソフラボン含有食品素材の開発及びその有効性に関する研究 和泉, 亨 東京大学 博士 (農学) 乙第16372号 2005-11-14
Oral intake of soy isoflavone aglycone improves the aged skin of adult women Toru IZUMI, Makoto SAITO, Akio OBATA, Masayuki ARII, Hideyo YAMAGUCHI, Asahi MATSUYAMA Journal of Nutritional Science and Vitaminology 2007 年 53 巻 1 号 p. 57-62
The diverse efficacy of food-derived proanthocyanidins for middle-aged and elderly women Toru Izumi, Masakazu Terauchi Nutrients 2020, 12(12), 3833
プロアントシアニジン 和泉 亨 産科と婦人科 / 診断と治療社 [編] 90 (9), 1011-1014, 2023
更年期女性をサポートする植物性素材の併用 和泉 亨 Food style 21 : 食品の機能と健康を考える科学情報誌 28 (7), 43-46, 2024
他多数
撮影/土屋哲朗 取材・文/力武亜矢
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