Hさん、Mさん宅(愛知県)
二世帯住宅のよさが見直されている昨今。親世帯と子世帯の同居が主流ですが、高齢化や子育ての問題を分かち合い、ほどよい距離感で暮らせる「祖母と孫世帯」の同居という選択も。新しい住まいの形をご紹介します。
中と外がひとつながりで光と風をとり込む家
塀がなく、道路とつながるようにある芝生の庭。外に向かって開かれた、リビングの大きな窓。デッキで遊ぶ子どもたちに、通りがかった近所の人が気軽に声をかけていきます。そんな、地域に対して開放的な家は、Hさん夫妻のいちばんの希望でした。
お二人が、奥さまのおばあさまと同居を始めたのは、上のお子さんが生まれる頃。ご主人を亡くされ、ひとり暮らしのおばあさまが「余っている部屋があるから」と誘ってくれたといいます。「私たちも、縁のない土地に住むより不安がなく、子育てを助けてもらえる安心感があるのと同時に、高齢の祖母の手伝いもできると思って、同居を始めました」
ですが、その家も築40年以上が経過し、耐震性に不安がありました。ほかにも、すきま風で冬の寒さが厳しかったり、急勾配の階段が危険だったり。上のお子さんが生まれると、いよいよ家事動線の悪さも気になり始め、Hさん夫妻は建てかえを決意。最初は「もったいない」と言っていたおばあさまも、地震の不安や寒さが解消されることから賛成してくれました。
「ネットで検索していて気になったので、実際にオープンハウスに見学に出かけたのですが、家の質感がすごくよくて。それに、ご本人の人柄もよかった」という「梶浦博昭環境建築設計事務所」の梶浦さんに、二世帯住宅を依頼することに。こうして、孫世帯と祖母の家づくりが始まりました。
家や家族が地域とつながる「お互いさま」の暮らしを
Hさんの希望は「地域とつながりながら暮らせる家」。もともと自宅に人を招くのが大好きで、人との交流を大切にしているお二人だけに、その点が重要な設計ポイントでした。「そもそも、つながっていることが自然だと思っていて、子どもたちにも地域とのつながりの中で社会性や“お互いさま”の気持ちを育みながら成長してほしいと、考えています。このあたりではお互いの顔がわかっているので、子どもたちを周囲が見守ってくれているし、雨が降りそうな日にはご近所さんが傘の心配までしてくれる(笑)。そんな関係を大切にしたいです」
そのため梶浦さんが考えたのは、リビング&ダイニングを「広場のような空間」と位置づけること。道路のある南側に大きな窓を設け、庭には塀や柵をつくらず、中と外がつながっているようなオープンな家にしました。「通りがかりの人と気軽にあいさつできるだけでなく、友達やご近所さんは、玄関ではなく、庭から訪ねてきます(笑)」
開放感いっぱいのLD。廊下とひとつながりに見えるよう、ガラスの引き戸に。エアコンの目隠し下の壁面収納(左奥)は、AVラックとともに造作工事で。
大きなキッチンカウンターは、ご主人のピザ作りに対応。背面カウンターにはパントリーがわりの壁面収納も。「ダイニングテーブルは、欲しいサイズが見つからないと言っていたら、大工さんがつくってくれました」
正面は玄関。引き戸1枚でキッチンとつながるので、買い物時に便利。「オープンキッチンなので、吸引力がいちばん強い換気扇を選びました」
浴室には脱衣スペースを確保。「上が女の子なので、洗面室と脱衣室は別々にしました
タンクレストイレを選択し、省スペースの手洗い器を設置。おばあさまのための手すりつきカウンターが、壁面のアクセントに。
造りつけのデスクでパソコン作業をしたり、読書をしたり。入浴後から就寝までのリラックスタイムを過ごす、2階のセカンドリビング。
子ども部屋は吹き抜けをはさんで2室用意。収納は、子どもたちが自由に考えられるように扉をつけていません。
「寝るだけの部屋と割りきりました」というシンプルな寝室。隣家からの視線を配慮し、窓は高い位置に。
吹き抜けには、耐震性を上げるためにベイマツの梁を。「将来、床を張ることも可能です」。奥の子ども部屋は壁の一部がガラスで、中の様子がわかります。
孫世帯が使う2階のトイレはコンパクトに。「ナチュラルカラーの家なので、このトイレだけはアジアンテイストの壁紙にしました」
「朝の歯磨きは1階、夜は2階(写真)と、洗面台が2つあって便利」。カウンター&ボウルが一体化した洗面台は、継ぎ目がないので手入れもラクです。
収納したいもののサイズに合わせて棚を造りつけた、2階の納戸。客用布団や、ひな人形などの季節用品はここに。「この納戸がない生活は考えられません(笑)」
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増えた安心感と、減った気疲れ。ほどよい距離感が心地よい
もうひとつの希望は、祖母と孫世帯が「お互いにストレスなく、心地よく住める家」。「以前の家は、祖母の部屋が玄関近くにあり、夜遅く帰宅したときなどは物音に気をつかう必要があったので、まず祖母の部屋の位置を決めることから始めました」
そこで、1階いちばん奥の日当たりのいい場所を、おばあさまの部屋に。離れすぎるのもよくないという考えから、1階と2階で居住エリアを分けることはしませんでした。おばあさまが「歩きやすくなった」というフラットフロアは、引き戸部分にも段差がなく、転倒の心配が軽減されました。また、おばあさまがトイレに行くときには、あえてリビングの横を通る間取りにし、廊下とリビングの間の壁の一部をガラスにして、足元が見える工夫もしています。
気配がわかるようにする一方で、お互いに気疲れしないよう、生活音への配慮をしました。祖母室の階上は遮音シートで足音を軽減し、おばあさまの希望であった壁面収納をリビング側に設けることで、遮音効果を狙いました。
「何を別々にするかを考えましたが、結局、分けたのはキッチンだけ」。食べる時間や好みが違うため、以前はひとつのキッチンを順番に使っていたそう。今ではそれぞれ好きな時間に料理ができ、おかずのおすそ分けも頻繁に。おばあさまにとっては、マイペースで過ごせる気軽さと、孫家族とひとつ屋根の下に暮らす安心感があるようです。Hさんにとっても、おばあさまとの同居は、家事をする間にお子さんの世話をしてもらえるなど日常の手助け以外に、「子どもが親以外の価値観にふれることができ、多様性のある成長につながるよさもあります」。
暮らしの変化にも対応できる自由度の高い家に
光や風がとり込めるように設けた吹き抜けを通し、上下階で声が伝わるのも魅力。また、壁の1面がガラス張りになっている子ども部屋も、セカンドリビングから室内の様子が見えるなど、家族みんなの気配が伝わります。「思春期になったら普通の壁にすればいいし、吹き抜けも梁をつけたので床を張ることもできる。子どもの成長や家族の生活変化に合わせ、住みながら考えていけるように自由度の高い家にしました」
ますます人が集まるようになったというHさん宅。家族の誕生日やお盆、年末年始など、みんなで一緒に過ごす機会もふえたそう。「友達も以前より気兼ねなく招けるようになったので、ほぼ毎週というくらい、とにかく人がよく来ます。ぼくたちが留守だと、庭から訪ねてきた友人が、デッキに座って祖母と話し込んでいたりします(笑)」
この椅子が、自室でのおばあさまの定位置。ベッドは奥まった場所にあるので、来客があっても気になりません。結婚前からご主人の家にあったという水屋箪笥は、今も食器棚や食品庫として大活躍
部屋の入り口すぐにあるキッチンは、作業動線が短くなるⅡ型のレイアウトに。自転車で近所のスーパーまで買い物に行くのが、おばあさまの日課です。
造りつけの背面カウンター。炊飯器はスライド式で出し入れできるように。
遮音のため、リビングとの間はすべて壁面収納に。「大事な仏壇と、前の家で持っていた荷物がおさまってよかった(笑)」
上部と下部をガラス張りにした、廊下とリビングの間の壁。「気配だけでなく、トイレに行く祖母の足元が見えるようにしました」とHさん。
「どこかに格子を入れたくて」という奥さまの希望で、ヒバ材のルーバーを2階バルコニーに設置。シマトネリコの植栽以外、外と中を遮るものはありません。
玄関脇の階段下スペースを利用した土間納戸。ベビーカーや保育園バッグ、おばあさまの杖など、外出に必要なものがさっと手にとれます。
おばあさまの要望で設けた、屋根つきの自転車置き場。「ほかにも、工具やバーベキュー用具を置けて便利です」
玄関までは階段ではなくスロープに。ヒバ材の柵には内側に手すりがついています。
profile
高校の同級生だったというHさん夫妻と、3歳の長女、1歳の長男。そして、89歳とは思えないほどお元気な、奥さまのおばあさまMさん。月に一度は奥さまのご両親も加わり、みんなで遊びに出かけるそうです。
DATA
家族構成:夫婦+子ども2人+祖母
敷地面積:168.13㎡(50.86坪)
建築面積:95.97㎡(29.03坪)
延べ床面積:159.12㎡(48.13坪)
1F83.44㎡+2F75.68㎡
構造・工法:木造2階建て(軸組み工法)
本体工事費:約2913万円
3.3㎡単価:約61万円
工期: 2014年4月~10月
設計:梶浦博昭環境建築設計事務所
☎0586-86-8436
http://kajiura-a.com
施工: ㈱アステール
☎0577-73-2253
www.b-aster.co.jp
設計のポイント
梶浦博昭さん
1970年福井県生まれ。吉柳満アトリエを経て、2001年に現事務所を設立。東海3県を中心に住宅や店舗などの設計・監理を行う。一級建築士のほか総合エンジニアなどの資格ももつ。
「地域のコミュニティを大切に考えています」初めてお会いしたときにHさん夫妻がおっしゃった言葉です。その思いを形にしようと考え、1階のLDは、家族とはもちろん、外部ともつながる広場のような空間をめざしました。また、二世帯で暮らす安心感を確保しつつ、気疲れを軽減する工夫や、お子さんの成長や生活の変化に応じて部屋の使い方を変えられる工夫など、Hさんの思いやライフスタイルを尊重し、要望を最大限に実現することを心がけました」
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