アウトドアライフが楽しめる デッキや中庭のプランニングのコツを たっぷりご紹介します。(アドバイス/中村高淑(unit-H 中村高淑建築設計事務所))
日本の民家に昔からあった縁側やぬれ縁は、夏の強い日ざしを避けたり、外部との温度差を緩和するなど、中と外をつなぐ半屋外空間として使われてきました。最近の住宅ではほとんど見られなくなった縁側ですが、気持ちのどこかで自然を感じながら過ごす心地よさを求めているのでしょう。縁側と同じような機能を備えるスペースとして、デッキや中庭をプランにとり入れるお宅がふえています。
このような中間領域を住まいのどこに位置づけるかは、建物の立地条件のほか、家族のライフスタイルやそこで何をしたいかによって変わってきます。一般に多く見かけるのが、リビングにつながるデッキ。家族がいちばん長く過ごす部屋の延長にデッキがあれば、子どもの遊び場としてはもちろん、家事の合間にガーデニングを楽しんだり、ティータイムを過ごしたりと大いに活用できます。
また、友人を招いてのホームパーティが多いお宅なら、ダイニングやキッチンとつなげるプランもよいでしょう。デッキとの動線が短かくなるので、料理を運んだり、あと片づけもスピーディにできます。南に向いたデッキで夏の日ざしが気になる場合は、パーゴラに植物をからませたり、オーニングやガーデンパラソルなどを用意しておくと、日よけに効果的です。これらは直射日光をカットするだけでなく、雰囲気づくりにも役立ちます。
そして、意外に感じるかもしれませんが、寝室に設けるデッキもまたいいものです。お風呂上がりの体をクールダウンしたり、寝る前の夕涼みにと、リラックススペースとして最適。心地よいスペースといえば、露天風呂気分が味わえるバスコートやバスデッキもおすすめです。入浴しながら外の緑や空が見えるので、ちょっとした贅沢気分にひたれます。
このように、家にいながらアウトドアライフを満喫できるデッキや中庭ですが、それだけではなく、家事効率を高めるためにも活用したいスペースです。たとえば、キッチンにわずか半畳の小さな空間でもよいのでデッキを設ければ、ゴミ容器や泥野菜の置き場として重宝します。物干しデッキも主婦にはありがたいスペース。この場合は、洗濯機の設置場所〜デッキ〜クローゼット、それぞれの距離を短くすると家事時間の短縮につながります。
暮らしにうるおいをもたらし、さまざまなシーンに合わせた使い方ができる一方、デッキや中庭をプランに生かすことで空間に広がりが生まれるというメリットもあります。狭い部屋でも外部空間を通して視線が抜けるため、開放的な雰囲気に。こうした利点を活用すれば、狭小地や住宅密集地でも快適な住まいが実現できるでしょう。
気持ちのいいスペースとして魅力いっぱいのデッキや中庭ですが、それぞれの家族にはそれぞれのプランがあります。ここでは、よくあるリクエストと疑問を例にあげてご紹介していきましょう。
両隣に家が迫っている住宅密集地でもデッキや中庭をつくる方法
隣家の敷地境界線とこちらの建物との間に十分なスペースをとる余裕がない厳しい立地の住宅密集地では、むしろ積極的にデッキや中庭をとり入れるとよいでしょう。たとえば、3方を住宅に囲まれた狭小の旗ざお状敷地や両サイドに隣家が迫っている細長い敷地の場合は、建物中央にデッキや中庭を設けて、そこに面する壁に大きな窓をとれば、どの部屋にも光や風が回り、プライバシーも守れる快適な住まいが実現できます。デッキや中庭越しに向こうの部屋が見通せるので、広がりが感じられ、開放感も得られるでしょう。
プランのバリエーションにはコの字型、ロの字型、L字型とありますが、周囲の視線をカットしやすいのはコの字型やロの字型で、なかでもコの字型は細長い敷地にも有効です。また、敷地が狭く、広いデッキや中庭がとれなくても、1坪程度あるだけで光をとり込むことは可能。鉢植えを置けば、小さな世界が安らぎの庭に変わります。
ガラス窓で囲った中庭が開放感をもたらして
3方を囲まれた狭小の旗ざお状敷地。1階の床面積はわずか33㎡ですが、中庭を設けたことで視線が外に抜け、狭さを感じさせません。(安達邸 設計/The Green Room)
内と外との一体感を出して広々とした空間を楽しむ家づくりの方法
デッキや中庭を部屋の延長上に設けると、内と外の境界ラインがゆるくなり、まさに中間領域といえる心地よい開放感が味わえます。
室内と外部のつなげ方にはさまざまなテクニックがありますが、より一体感を高めるためには、「内と外の床面をそろえる」「開口部をフルオープンにする」などが一般的。ただし、2階以上のデッキと室内の床面をフラットにするには、梁の位置を下げるなど構造的な工夫が必要な場合もあり、コストアップしたり、階下の天井高が下がることにもなります。
こうした理由で、梁の位置を変えず、構造に無理をかけない手段として、あえて段差を残すという方法も。デッキ部分が室内より高くなるので、そこを逆手にとって段差分を室内側に少し伸ばすのです。そうすることで内外の仕切りがあいまいになり、一体感をもたせるのに効果的です。室内側の出っ張りはベンチとしても使えるので、いっそう楽しいスペースになるでしょう。
このほかに、開口部を天井ギリギリまで高くするなども、開放感を得る方法として効果的です。光がたくさん入り、部屋の奥まで明るくなります。
窓は開口部が観音開きになるフランス窓、両サイドの袖壁にすっきりおさまる全開口窓、窓枠の溝に沿って動くフォールディング窓などバリエーションも豊富です。デッキのデザインや広さに合わせて窓を選べば、素敵なアウトドアリビングが実現でき、外へ出ることがますます楽しくなるでしょう。
大きく開いた窓辺は外との一体感を味わえる格好の場所
天井高いっぱいに開口させたフォールディングドアを採用。デッキとの段差に合わせて、オットマンをソファがわりに。(O邸 設計/納谷建築設計事務所)
デッキと室内に段差をつけてベンチに利用
構造上生じたデッキと室内の段差を生かし、デッキの床を室内側に30㎝延長。不思議なスペースが生まれました。(Y邸 設計/unit-H 中村高淑建築設計事務所)
緑だけが見えるデッキは最高の癒し空間
建物と切り離してデッキを施工し、室内の床レベルを合わせています。デッキでのティータイムやバードウォッチングが日課に。(M邸 設計/佐々木正明建築都市研究所)
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近隣の視線を気にすることなくプライバシーの保たれたデッキの作り方
見渡す限り緑に囲まれた環境なら、目隠しのフェンスがなくても人の目を気にする必要はありませんが、建物に囲まれた都市部ではなかなかそうもいきません。隣家の壁が接近していたり、道行く人の視線が気になることもあるでしょう。こうした立地では、周囲の視線をカットし、デッキスペースの居住性を高めるためにフェンスやパネルで適度に囲うことをおすすめします。
とはいえ、高ければ高いほどよいというものではなく、あまり見たくない景色があるなら室内からほとんど見えない大人の背丈を越える高さに、隣家から室内が隠れる程度にしたいなら顔が出るくらいに、室内からも周囲の景色が楽しめて、なおかつプライバシーをキープしたいなら胸の高さ程度にするなど、周囲の環境に合わせて選ぶようにしましょう。ルーバーにしたり、パネルの間にすき間をつくるなど、通気を妨げないように配慮することも忘れずに。
高めの壁で周囲の視線を完全にシャットアウト
木々が茂る庭に面してデッキをプランしたので、あえてフェンスを設けず、開放感を満喫。プライバシーを損なうことなくアウトドアライフが楽しめます。(F邸)
プライバシーをキープしながら景色も楽しめる高さ
周囲からは室内でくつろいでいる様子はほとんど見えませんが、開放感は楽しめるベストな高さのフェンスです。(O邸 設計/unit-H 中村高淑建築設計事務所)
庭の樹木が目隠しがわりになって
ホームパーティでゲストを呼ぶ機会が多いため、リビングにつながるデッキの壁は高めに設定しましたが、数カ所の通気窓で閉塞感を解消。(Y邸 設計/プランボックス)
小さな子どもが走り回れるような間取り・プランニング
子どもは家の中でも元気に走り回ってほしいというのが親心。これが実現できるのはやはり一戸建てですが、どんな家でもそれが可能とはいえません。小さな部屋が集まった間取りや、すぐ壁に突き当たるようでは、逆にストレスをため込むことにもなります。
子どもが走り回れる家をつくるポイントは、スムーズな行動ができる動線に配慮すること。つまり、ぐるりと円を描いて動ける回遊動線をプランにとり入れることです。広々感が味わえると同時に、子どもは自由に駆け回れます。そして、その動線の中にデッキや中庭をプラスすれば、楽しさはさらにアップ。よりのびのびと家を楽しめるでしょう。
また、外遊びが好きな子どもなら、デッキとバスルームをつないだルートもおすすめ。夏のプール遊びやどろんこ遊びで体じゅうが汚れても、デッキや庭からバスルームに直行できれば、そのままシャワーを浴びたり、お風呂に入ることもできてとても便利です。
フロア全体を回遊できる子ども天国の家
LDKと子ども部屋をワンルームにまとめ、デッキも組み込んで、のびのび走り回れる動線になっています。(T邸 設計/unit-H 中村高淑建築設計事務所)
リビング~デッキ ~浴室を回遊できる
デッキを囲むようにLDと水回りをL字型に配置し、デッキに出入りできる窓を3カ所に。庭で遊んだあとは浴室に直行できます。(T邸 設計/明野設計室)
デッキや中庭をつくるおすすめの方角
デッキや中庭のプランニングで気になるのが方角です。たいていの人は「一日じゅう、日がさす南向きのデッキがよい」と当然思っているようですが、南向きは日当たりがよすぎて夏は暑く、日よけを考える必要があります。南向き以外では、たとえば東に開いたデッキは、さわやかな朝日がさし込み、午後になれば建物自体の影によって、夏は心地よい日陰が得られます。
西向きのデッキは夕方から日がさすので、きれいな夕日が楽しめます。ただし、デッキに面した室内に真夏の西日がダイレクトに入るので、遮光ガラス入りのサッシやブラインドなどで遮る対策が必要です。直射日光が入りにくい北方向は、逆にいえば見える景色はすべて南に向いていることになり、美しい風景が楽しめるというメリットも。東西南北それぞれによい面があるので、南にこだわらず、検討してみてはどうでしょう。
東西に細長い敷地を生かして、リビングの東側に約12㎡のデッキを設けました。道路側はタペストリーガラスで目隠しし、サイドはルーバータイプの木製フェンスに。(S邸)
LDKの間口いっぱいにデッキをつなげ、開放感あふれる住まいを実現。デッキは南西に向いているので、夏の夕方もさわやかに過ごせます。(K邸 設計/きのへそ工房)
デッキは床面積に含まれないの?
外部に開放されたデッキは床面積に含まれないと思われがちですが、どのような使い方をするのか、あるいは、広さ、屋根の有無、開放性などによっては、床面積や建築面積に算入されることもあり、ケースバイケースです。自治体によっても基準内容が異なるので、一概にはいえないというのが現状。プランニングに入る前に、新居にどのようなデッキをイメージしているのかを設計者に伝え、法規制などについても確認しておきましょう。
2階のリビングにつなげたデッキ。屋根はありますが法規をクリアしているので、建築面積や延べ床面積には含まれません。(S邸 設計/佐賀・高橋設計室)
ウッドデッキにはどんな素材を選べばいい?
ウッドデッキの床やデッキを支える基礎部分にも耐用年数があり、その時期がきたときは、部分的あるいは全面的につくり直す必要があります。一般に使われているデッキ材のおおよその耐用年数は、イペ、レッドシダー、セランガンバツは15〜20年、ヒノキ、ヒバ、スギは7〜15年、SPF(2×4工法の構造材)は3〜5年といわれています。耐用年数の長い木材ほどコストもアップするので、予算に合わせて選ぶようにしましょう。
【写真左】隣家の視線を避けるために高い柵をめぐらせたデッキ。柵と床は防虫性・殺菌性にすぐれたレッドシダーを使用。腐食しにくい素材として、外構によく使われます。(O邸)
【写真右】デッキの床は素足に心地よいセランガンバツ。マリーナのデッキや沿岸の建築物にも使われるほど耐久性のある素材です。(F邸 設計/unit-H 中村高淑建築設計事務所)
デッキ、ベランダ、テラス、 バルコニーって どういう違いがあるの?
以前は、建物のどこに位置しているかで使い分けていたこともありましたが、今の建築業界では明確な違いはありません。すべて同じものを意味していると考えてよいでしょう。似た例として「トイレ」があります。便所、お手洗い、WC、レストルームなどさまざまな表記がありますが、基本的に同じスペースです。デッキやバルコニー、テラスも、建物の雰囲気や気分で使ってよいのではないでしょうか。
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