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コラム

【涙あふれる猫実話】認知症の母と愛猫ぎんちゃんが紡いだ絆

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【涙あふれる猫実話】認知症の母と愛猫ぎんちゃんが紡いだ絆

コロナ禍で人々の在宅時間が増えたことにより、ペットブームが到来中です。とくに室内で飼うことができる猫の人気は高いそう。毎日に癒しとぬくもりを与えてくれる猫たちは、飼い主にとって家族同然ですよね。

ツンデレっぷりに振り回されながらも、その絶妙な距離感がまた心地良かったりして…。生きることに神経質にならざるを得ない昨今、猫から心のやすらぎや生きていく力をもらったという人はたくさんいます。

そんな猫たちとの暮らし、出会いや別れ、猫同士の愛情など、17本の実話を収録した『猫がいてくれるから』という本の中から、心温まるエピソードを1本ご紹介します。

今回は、認知症が進んだ母と介護に疲れた娘、その両方を癒し続けてくれた猫のお話です。

母とぎんちゃんの庭散歩

子猫を飼う夢を見た翌日「ぎんちゃん」は我が家にやってきた

ぎんちゃんが18歳で旅立ってから、丸6年がたちます。 18年をともに過ごしてきたわけですから、ぎんちゃんとの思い出はたくさんあります。 その中でもいちばん忘れられないのが、ぎんちゃんと私の母とのことです。

ぎんちゃんは、初めて飼った猫でした。 近所の方から、「子猫が5匹生まれたので引き取り手を探しているの」と聞いて、「うちで1匹引き取らせてください」と迎えたのが、ぎんちゃんでした。 実は、近所の方から声をかけられる前の晩に、私は子猫を飼う夢を見たのです。

そんなこともあって、子猫の話を聞いたときに、「これはぜったい何かのご縁なんだろうな。うちで引き取らなきゃ」と思ったのです。 夢の中に出てきた子猫は全身真っ白な猫でしたが、ぎんちゃんは名前の由来にもなったように、銀色の毛がそれはそれはきれいな子でした。

子猫のころ、ぎんちゃんは私が仕事から帰ってきて、疲れて横になると、すぐに私の胸 の上によじ登ってきました。そして数秒たつかたたないかのうちに、そのまま熟睡しちゃ うのです。ちょうど私のあごの下にぎんちゃんの顔がある状態で、スースーと聞こえてくる寝息の音と、あごの下に感じる鼻息の温かさがとても心地よかったのを、今でもよく覚 えています。

ぎんちゃんには特技もありました。後ろ足で立って、横向きで軽やかにスタタタ......と走るのです。その様子は、コメディアンの萩本欽一さんがコミカルに横移動して走る「欽ちゃん走り」とよく似ていました。「ぎんちゃんだけど、きんちゃん走りしてる」と言っては、母と笑っていました。

とにかく食いしん坊だったぎんちゃん。うっかりすると、人間の食事も狙われてしまうのです。気をつけるようにはしていましたが、一度だけ、私がテーブルに置いていたファーストフードのポテトをくわえて逃げられたことがありました。 食後のお皿もそのままにしていると、ぎんちゃんにペロペロなめられちゃうので、すぐ に片づけなければなりませんでした。

ぎんちゃんが1歳のころ、原因不明の嘔吐が続き、食欲が落ちてげっそりやせてしまったことがありました。動物病院でいろいろ調べてもらっても原因はわからないまま。 1カ月ほど入院して、ぎんちゃんは元気になって戻ってきました。昼間は私が仕事で出 かけていたため、そのころから母の膝の上で甘えることが増え、だんだん仲良くなっていったようです。

 

認知症を発症した母に寄り添うように暮らすぎんちゃん

母に認知症の傾向が見られるようになったのは、ぎんちゃんが16歳を迎えたころのことでした。 最初は、同じ話を何度もしたり、話したことを忘れてしまうのは年齢のせいなのかな、と思っていました。

母は若いころから、起きる時間、買い物に行く時間など、一日のルーティンが決まっていて、毎日同じとおりにしないと気がすまない性格でした。そのルー ティンが徐々にくずれてきたことから、おかしいぞ、と思い始めたのです。

以前はよく友人と会っていたのに、ひとりで電車に乗ることが不安になったようで、友人とも会わなくなり、行動範囲がすっかり狭まってしまいました。 近所のスーパーへ買い物には行くのですが、料理を作ることもだんだんとおっくうになっていったようです。

豚肉としょうがが冷蔵庫に入っているのを見て、「しょうが焼きを作るつもりなんだな」と思っても、食卓にしょうが焼きが出てくることがない、といったことも増えてきました。

日を追うごとに、すぐに物事を忘れるのが目立ってきました。やかんでお湯を沸かして いるのを忘れて、気づいた私がすぐに火を止めたこともありました。

そうするうちに気分がふさぎがちになってしまい、近所への買い物にさえ行きたがらな くなって、家に閉じこもるようになってしまったのです。 でも、母のぎんちゃんに対する愛情だけは、なんら変わりはありませんでした。

そのころ、我が家ではもう1匹猫を飼っていました。猫たちは基本、2階にある私の部屋で過ごしているのですが、朝、私がドアを開けると、ぎんちゃんだけダッシュで1階にいる母のところへと行き、母に寄り添うようにくっついていました。母もまた、自分のことを慕ってくれるぎんちゃんのことを、とにかくかわいがっていました。

それまではぎんちゃんを外に出すことはなかったのですが、17歳になり、家の塀を乗り越えて外に出てしまうことはないだろうと思い、日光浴を兼ねてぎんちゃんを庭に出したことがありました。すると、庭に出ることがいたく気に入ったようです。それからぎんちゃんは庭に出たくなると、茶の間にいる母に「ニャ〜」と甘え声を出し ながら、「お庭に出してよぉ〜」とせがむようになったのです。

認知症が進み、テレビを見たり新聞を読んだりしても、それらを理解するのに疲れるようになってしまっていた母にとって、ぎんちゃんといっしょに庭に出ることが、いい気分転換になっていました。母とぎんちゃんの姿を見て、仕事と母の介護でヘトヘトだった私も癒されていました。

そんな忙しい中だったので、猫たちのお世話にもゆっくり時間を割けない状態でした。 たとえばブラッシングするときも、急いでササッとやってしまいがちに。でも、母のブラッシングはゆったりとやさしいので、ぎんちゃんは私より母にブラッシングしてもらう のを好んでいました。

ぎんちゃんはお風呂場の水道から水を飲ませてもらうのも好きでした。そのためには、いちいちお風呂場に行って水を出し、ぎんちゃんが満足したら水道の栓を閉める手間がかかります。母はそれもしてくれていました。そんなふうに、めんどうなお世話も母はいとわずやってくれていたので、猫たちと本当に仲良しでした。

 

ぎんちゃんを看取った母はその2年半後にぎんちゃんのもとへ・・・

その年、母に乳ガンが見つかり、手術をすることになりました。ガンがすでに転移して いることがわかったのは、それからしばらくしてのことでした。 体力的にも母はだんだん弱ってきていたのですが、ぎんちゃんは自宅療養中の母を励ますかのように、気づくと母のそばにいてくれました。

そんなぎんちゃんも、18歳を迎えたころに持病の糖尿病が悪化。 動物病院に入院したものの、もう長くはないだろうとのことで最期は家で過ごさせてあげようと連れて帰ってきました。 母はぎんちゃんが帰宅してからずっと、そばに付き添っていました。

翌朝、ぎんちゃんは亡くなりました。そのときも母はずっと、ぎんちゃんの体をやさし くさすってあげていたのでした。 母はこれまでに、自分の父(私の祖父)や夫(私の父)を若くして看取ってきた人でしたが、ぎんちゃんが亡くなったときに、「親や夫の亡くなったときには泣かなかったけれど、この子だけは涙が出ちゃう」と言いながら、ポロポロ涙を流していた姿は今でも忘れられません。

その日の午後、お寺でぎんちゃんのお葬式をして、普段外に出たがらない母も、そのときは同行しました。お葬式の間もずっと母の涙は止まりませんでした。母はそのあとも、とてもさびしそうにしていました。

それから2年半後、母はぎんちゃんのところへ旅立ったのです。ぎんちゃんはきっと母の姿を見つけ、毎朝していたようにダッシュで母のところへ駆け寄って、隣にちょこんと座っていることでしょう。散歩も楽しんでいるかもしれません。 1人と1匹が散歩していた我が家の庭は、今はがらんとしています。

Profile
名前/ぎん
年齢/享年18歳
性別/オス
種類/ミックス(銀色と白)
性格/のんびり屋だけれど芯は強い
特技/子猫のころは欽ちゃん走り ・飼い主の枕でいっしょに寝る
好きなもの/揚げ物などの油が残ったお皿を なめること

猫を愛するすべての人の心に響く17話のエピソード集

主婦の友社の会員サービス「@主婦の友(アトモ)」に寄せられた、思い切り泣ける、ほっこりなごめる、17の実話を収録。出会ってからお別れのときまで、猫とのかけがえのない日々のエピソードばかりです。

■猫がいてくれるから

フリーライター/小学生男児の母

出産前は女性ファッション誌の編集&ライターをやっていました。

現在は、暮らし全般、ファッション、美容などのコラム執筆が中心。
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