2005年のスペースシャトル・ディスカバリーの打ち上げで日本人として6番目の宇宙飛行士となった野口聡一さん。3回の宇宙飛行、4回の船外活動、2つのギネス記録など、宇宙飛行士として精力的に活動してきました。2022年に定年を前にJAXAを退職。現在、新たなキャリアをスタートさせています。
刊行された書籍『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』では、野口さん自身の経験を元に、定年を前にして中高年はいかに生きるべきかが語られています。
今回はその書籍の中から、「安定で、本当の安心を得られるか」について、野口さんに詳しくお話を伺いました。
会社は明日なくなるかも。とはいえ、どの段階でも一歩踏み出すのは結構大変
――前回、自己評価が低い人が多いというお話があったのですが、やはり50歳での定年前退職に踏み出す勇気を持つのは難しいです。
野口 実は皆さんが思っているのと違って、私も自分に自信があるわけではないんです。
皆さんと同じで若いときは可能性はあるけれど実績はゼロで、歳をとってくると実績はあるけれど将来の可能性は徐々に減ってきます。その線がクロスするあたりで苦悩が生まれるわけです。
若い方、30代ぐらいの方は可能性はあるけれど実績がない。そのことへの焦燥感。
反対に年配の人の方は、これまでやってきたことは書けるし実績はある。でも、それが今の価値につながっているのかという不安がある。「もうこの事業は終わってしまったしな」とか、「今は役に立たないしな」といったような。
かつては大事なスキルだった“一太郎検定”みたいなものを持っていても、もう「一太郎」はないし、ワープロすらもうなくなってしまっている。そうすると自己評価が下がってきてしまう。
どの段階でも一歩踏み出すのは結構大変だと思います。
動かないことって、本当に安定?
――本書の中で、転職してJAXAを離れた方たちを野口さんが訪ねるという箇所があります。皆さん、後悔はしていないとお話しされているというのがすごく印象的でした。
野口 我々は常に現状維持バイアスの中で生きているので、結局は安定してればいいんです。安定は大事なんです。でも、動かないことが本当に安定ですか?ということなんです。
なぜかというと、社会が変わってる。毎日通ってる会社が明日あるかどうか、それは市場経済によって決まるのであって、動かないと決めたことが安定を選択しているとは言えないんです。
次に、変わることは不安定です。普通に考えたら動いていることは不安定なので、そこに不安があり、変わることへの怖さもあります。
本には書いていませんが、「怖さの実写化」っていう言葉があって、これは自分が怖いと思っていることを明文化する。
例えば暗闇は誰だって怖いですよね。何があるかわからない。だけどそこに懐中電灯を当てれば大したことない。
だから一歩踏み出す不安や怖さを「実写化」して何が怖いかを一つ一つ言語化していくと、その怖さの深さと、対応方法が見つかります。それが、前回からの課題である「棚卸し」の本当の意味だと思うんですよね。
――確かに不安な時は、今の状況や、やるべきことを書き出すとなぜか落ち着いたりします。
野口 そうそう「狼なんて怖くない」ってなりますよ。狼は怖いけど、本当に狼が出てきたら、すぐ写真を撮ってインスタにあげたらもう一躍有名人になれるし、怖いどころかよほどラッキーじゃないかって思いますよね。
変化に対する怖さの実態はなんなのか。それは「実写化」してみたら実は大したことないんじゃないのか。
そしてその「怖さの実写化」の裏返しは、自分のポジティブな能力の棚卸しになるかと思います。
▶次の話 会社を辞める前にゼッタイやるべきことって?57歳でJAXAを辞めた野口聡一さんの「退職戦略」
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取材/大家 太(主婦の友社) 文/村上智基
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