【Oさん宅(兵庫県)】の家の間取りポイント
大学院の同窓生だったお二人。共通の友人も多く、泊まりがけの宴会もよく開かれるので、「人の集いやすい家」も家づくりのテーマのひとつでした。2匹の猫たちが快適に暮らせることも大切なポイントだったそう。
【難条件】大量の蔵書!
「以前のマンションでは、LDK以外の部屋がすべて“書庫”。部屋のまん中にも突っ張り本棚を立て、狭いすき間で本を探していました。本が見つけにくく、同じ本を3冊買ったこともありましたね」と笑うOさん夫妻。お二人とも大学で教鞭をとるかたわら、自宅でも執筆などを行う研究者なので、蔵書はふえるばかり。「本でパンクしては引っ越す」をくり返していたそうです。
4軒目にしてついに「すべての蔵書をおさめるためには注文住宅でないと無理」との結論に達し、家づくりへの一歩を踏み出します。住宅雑誌などで研究し、注目したのが耐震性の高いSE構法でした。「SE構法なら間仕切り壁が少なくてすむから、本をバーッと見渡せる空間ができると思ったんです。リビングと書斎を分けるのではなく、本に囲まれた図書館みたいな家にしたかったので」
依頼先の「フクダ・ロングライフデザイン」からは、まさにLDKから書斎までひと続きのダイナミックなプランが提案されました。書斎をとり囲む本棚に加え、1階の廊下や2階ホールの壁面、腰壁にも棚を設置。段ボール300箱分もの蔵書をおさめています。
書斎にはぎっしり本を詰め込む一方、LDは本棚を設けずシンプルに。メリハリをつけたプランで、同じ空間ながらくつろぎの場と仕事の場をほどよく分けました
【場所別】間取り・レイアウト実例
1F リビング
くつろぎの場と仕事の場が、つながりながらゆるやかに分かれる設計。吹き抜けで2階ともつながり、お互いの気配を感じられます。 床下に温風や冷風を送り込み、吹き出し口から部屋じゅうに広げる「床下冷暖房システム」を導入。穏やかな暖かさ&涼しさで、「電気代はマンション時代より安くなりました」。
大きな吹き抜けに設けた階段は、空間のアクセントにもなり、腰かけても気持ちいい場所。床と同じ杉材の踏み板も感触がよく、アイアンの手すりは空間にとけ込むデザインです
1F キッチン
壁面収納には大きな扉をつけ、閉めると壁のようにすっきり。内部は可動棚で効率よく収納できます。カウンター下の棚には軽い書物や雑誌、日用品などを。
1F リビング&書斎
吹き抜けのリビングから1段下がると、低い天井の落ち着ける書斎。しっくい壁に埋め込んだような本棚をぐるりと造りつけています。右手の廊下は来客も通るので、木製の造作本棚に大型本をおさめて見た目も美しく。
1F ダイニング
お気に入りの絵や小物を飾れるオープン棚を設けた、なごめる雰囲気のダイニング。正面の窓からは公園の緑を借景としてとり込んでいます。外からの視線が気にならないように窓の位置に配慮し、下部はくもりガラスに。
1F LD
床は無垢の杉板を、自然塗料で仕上げて落ち着いた色に。やさしい肌ざわりに愛猫たちも満足そう。TVボードも造作し、同じ色で仕上げました。しっくい塗りの壁や天井は、窓からの光をまろやかに広げます。
「LDはすっきりしていて、視線を移すと本棚が見える、というのがいいですね。ゆっくり食事をし、終わるとスッと書斎に移動して仕事が始められる。この距離感も私たちにはぴったりです」もうひとつ、お二人にとって想定外だった提案が、リビングの大きな吹き抜け。本で囲まれた1階に光をとり入れる工夫です。「本を収納することが最優先で、明るさや快適性は二の次に考えていたのですが、暮らしてみると吹き抜けがあってよかった。夏休みなどはずっと家にいるのですから、昼間の快適さも大切でした」
無垢材やしっくいの自然素材と、お二人の専門分野である「中国」テイストも、本が詰まった空間の印象をやわらげているよう。集中して仕事をし、リラックスして暮らしを楽しめる家ができました。
2F ホール
【写真左】2階ホールの壁面や、吹き抜けに面した腰壁にも本棚を造りつけました。奥の階段を上がると、
ゲストルームにもなるロフトが。
【写真右】吹き抜けに面した寝室の壁にステンドグラスをはめ込み、床に近い位置に通風用の小窓も設けました。
2F トイレ
北側斜線の勾配天井を活かしたトイレ。ドアも形状に合わせて造作しました。タンクレストイレやコンパクトな手洗いカウンターで空間を有効利用して。
2F 洗面室
人造大理石のカウンターに、大きめの陶器のシンクを埋め込んだシンプルな洗面台。収納スペースには洗濯物たたみにも便利な作業用カウンターを設けました。
無垢材やしっくいの風合いと 中国テイストが 本棚の印象をやわらげる
1F 玄関
【写真左】リビングへのドアやトイレのドアは、中国をイメージしてオリジナルデザインで造作。
【写真右】斜めに設計した上がりかまちやオープン棚が、玄関に広がり感を生んでいます。
外観
【写真左】白い塗装仕上げの外壁に、トルコをイメージしたブルーの門扉とシンボルツリーのシマトネリコが映えます。道路に面した正面は窓を小さくし、プライバシーや防犯にも配慮。
【写真右】門扉横にはめ込んだのは、中国まで赴いてオーダーした透かし彫りののぞき窓。アプローチには味のある石を敷きました。シルバーの玄関ドアは「リクシル」の製品。
「大量の蔵書」でも快適に暮らす3つのコツ
構造を活かした 造りつけ本棚
壁面の本棚の多くは構造体の柱に可動棚をとりつけています。構造柱を利用することで、本の重量に耐える強度が得られ、一から本棚を造作するよりコストを抑えることもできます。棚板の高さも調整できるので、空間に無駄が出ません。柱は壁と同じしっくいを塗り、棚板は白い塗装仕上げにしたので、空間にしっくりとけ込んでいます。
吹き抜けから光をとり入れる
本棚をたくさん設置しようとすると、窓が少なくなります。暗さを解消するために、SE構法の頑丈な構造を生かしてリビングに大きな吹き抜けを設けました。2階の窓やトップライトからとり入れた光を、本棚に囲まれた1階にまで広げることができます。空気も循環するので、家じゅうが快適な温度に。
フロアに段差をつけ、ゆるやかに仕切って
LDKと書斎はワンルームですが、書斎のフロアを1段下げ、ゆるやかに空間を分けています。段差を通ることによって気持ちが切りかえられ、書斎に“こもり感”も生まれて落ち着いて仕事に集中できます。仕事用の書籍や資料などがLDに進出するのをくい止める、というメリットも生まれました。
DATA. Oさん宅(兵庫県)の間取り図
設計のPOINT
設計士プロフィール
フクダ・ロングライフデザイン
千知岩 賢二さん
Oさん宅は東西に長い敷地で、東隣は公園、西が道路です。そのため本棚は北面と南面に集中させ、東西に風が通り抜けるように設計しました。南には隣家が迫っているので、2階の南面に大きな窓を設け、太陽光や熱をとり入れて吹き抜けから1階まで広げています。本棚は耐荷重を考えて棚板の長さを決め、前に本を仮置きできるように奥行きを長めにしたり、大型本用には木で格子状の棚をつくるなど、こまかく設計しました。構造計算のときには本の荷重も考慮しています。
ご家庭プロフィール
現場監督として5年間働いたのち設計の知識と技術を習得。ビルや集合住宅の設計を経て住宅設計を手がける。2011年より同社の設計チーフ。自然を生かす「パッシブデザイン」が得意。
家族構成 |
夫婦+猫2匹 |
敷地面積 |
124.74㎡(37.73坪) |
建築面積 |
66.35㎡(20.07坪) |
延べ床面積 |
114.32㎡(34.58坪)1F 62.94㎡ + 2F 51.38㎡ |
構造・工法 |
木造2階建て(SE構法) |
工期 |
2012年3月〜7月 |
本体工事費 |
約2400万円 |
3.3㎡単価 |
約69万円 |
設計・施工 |
フクダ・ロングライフデザイン(千知岩賢二) TEL: 06-6452-3001 |
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