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Vol.【25】 【香村薫さん】
ライフオーガナイザー1級、ミニマリスト。ミニマライフ.com代表。愛知県岡崎市在住。夫と長男、次男、長女の5人家族で3LDKのマンションに暮らす。2017年3月に初の書籍「トヨタ式おうち片づけ」を出版。2018年3月「トヨタ式超ラク家事」を出版。
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論理的に考えて、暮らしを我が家流にカスタマイズしていくプロフェッショナル
時短を追求しすぎて「やりすぎミニマリスト」になったこともあります
24歳で結婚した当時、トヨタ系列の企業に就職して、商品開発分野で仕事をしていました。ハードワークで深夜に帰宅する日々でしたので家のことが全然できなくて、時短家事というものを追求しはじめたのです。
そして、“時短”を行なうことに没頭しすぎて、実は夫婦でミニマリスト道を突っ走ったことも。「テレビの裏にホコリが溜まってしまうのは、テレビがあるからじゃないか」とテレビを処分し、「この椅子がなければもっと床の掃除機かけがラクになるから」と椅子も処分。そんな感じで夫婦2人であれやこれや捨てだして、家の中が空っぽになりました。その状態で7年も過ごしたのです。
その当時は、私が満たされる暮らしは“時短”を追求することだと思い込んでいたので、楽しい側面もあったのですが、そのうち体調を崩してしまいました。そして、“何もない家にいても楽しくない”“どうもこの家の居心地はよくないぞ”と気づいてきて、夫婦で話し合って少しモノを増やすことに。普通の片づけのアプローチとは逆ですが、モノを増やす方向で家を整えていったのです。自分たちがほんとうに欲しいモノを家の中に置きだしたら、それまでほとんどなかった来客も増えました。
家の中にモノが何もなかった頃の香村さんのリビングの様子。家具らしい家具が何もありません。
「片づけって教えることができるんだ」という気づきで私の方向が変わりました
多分、以前のモノのなさ過ぎる家は、来客にとってもくつろげる場所ではなかったのだと思います。自分でも“すっきりしてきれいな家でしょう”と誇るような気持ちと、隠したいような恥ずかしい気持ちの、両方がやはりありました。
家の中にモノが増えてくると、「片づけやすそうな家だね」「こんな時短ワザを使っているんだね」と褒められるようになって、「私にも片づけの方法を教えてほしい」と言われるようになったのです。「片づけって、教えられることだったんだ」とその時に気づいたことが、ライフオーガナイザー®の資格取得につながりました。
ライフオーガナイザーとして大切にしていること
片づけのプロという位置づけをするなら、「ちゃんとその人の気持ちに寄り添うこと、自分の考えを押し付けず、その人も納得して満足しながら家が片づいていく」というのがよい進め方だと思っています。もちろん難しいことなのですが、難しいからこそそれができたときにはやりがいを感じます。
ライフオーガナイザー協会の理念として「『捨てる』から始めない」というものがあります。「捨てよう」とするお客さんを「無理しないで」と止めたりもします。モノの量を減らすことは良いことだという風に思われている昨今ですが、モノの量はその人が生活していく上で楽しいと思うラインでいいのです。
「一般的にものが少なくてスッキリしていることが素敵」というのは、他人が考える軸。お客さまに伝えたいのは「自分軸をしっかり持とうね」ということですね。
「自分軸って?」と戸惑う方も多いのですが、じっくり話を聞いていくと、実はこういうことが好きだとか、嫌いだとか、いろいろ出てくるんです。なのでヒアリングするときには「こうだよね?」という訊き方はせず、その人の感情をなるべく引き出せるように気をつけて、聞くではなく、訊くことを心がけています。
暮らしの中でトラブルを起こさない仕組みを考える
もともと論理的なことが好きなんです。ずっと理系で、その流れでのトヨタ系列企業への就職を決めました。会社では、人によって受け取り方が違うあいまいな言葉ではなく、数字を使って話をすることが徹底されていました。それもあって家の中にもトヨタ式をうまく取り入れて、モノの適正数を決めて数字で片付けるという考え方を無意識にやっていたと思います。
ちなみにトヨタ式では、何かトラブルが起こったときに、「それは誰それさんがやらなかったから」だとか人のせいにしたりしません。人が悪いのではなく、「未然に防ぐためにチェックする仕組みがなかったから」という考え方をします。
例えば「夫がゴミ捨てをしなかった」ときに、夫を責めるのではなく、「夫がしなかったのはなぜか?」と考える。「今日がゴミ出しの日である月曜日だと誰も教えてくれなかったから」なら、「曜日が分かるものを目立つところに貼っておけばゴミを捨てることができた」と実現可能な仕組みに落とし込む。
こんな風に論理的に物事を考え、誰もが納得する解決策を探すことが好きなんですよ。暮らしニスタへの投稿も、家で困っていることはないかなと日々探すことから始めていて、「夫も子どもも私も納得するような解決策としてこんな方法はどうかな?」と考えることが楽しいです。
機能する仕組み作りのために、実験を繰り返します
家の中は、今もいろいろと実験が行なわれている最中です。暮らしニスタへの投稿も、アイデアがひらめくというよりは、実験を繰り返して生き残ったものを紹介する形ですね。ただ、暮らしニスタの投稿のために何かを考えているのではなくて、もう、はっきり言ってこの実験と改善は私の趣味なのだと思います。(笑)
最近の実験としては「被災体験」があります。仕事で、お客さんのところに片づけに行ったときに…講座なんかでもテーマにすることがあるのですが、冷蔵庫を整理しようとすると必ず出てくるのが「冷蔵庫がからっぽになるなんて、万一被災したときに心配」という声です。では実際に、冷蔵庫の中にどれだけの食材があればベターなのかを自分が調べようと思いました。
そんなわけで冷蔵庫の電源を実際に切って試してみたのです。すると、電源の入っていない冷蔵庫は2〜3日でただの箱になってしまうことがわかりました。いっぱい入っていて安心だと思っていた食材が、どんどん腐ってしまうため、冷蔵庫そのものが「開けられない箱」に。夏場の被災だったら、ゴミの回収もない状態ですから恐ろしいですね。
まぁ、こんな「実験」を許してくれる家族もありがたいと感謝しています。
家族で協力する暮らしがあるから「家族と過ごす時間の余裕」が生まれる
朝、3人の子どもを保育園、幼稚園、小学校に送り出したらすぐに仕事です。ライフオーガナイザー®の資格を取った3年半ほど前から、仕事の柱は大きく3つ。一番好きな仕事でもあるお客さんの家での片づけ、自宅や企業などでの講座、そして執筆活動です。執筆は暮らしニスタを始め、各方面のサイトなどにも片づけの記事が掲載されていて、毎日とても充実しています。
書いた文章が記事になったり、本になったり、形として見えるものになってきたので、家族も私の仕事を認識してサポート体制を取ってくれるようになりました。今は「家事を家族でうまくまわす暮らし」ができていますね。家族全員でアイデアを共有することで、「手伝って!」と声に出して言わなくても協力しあえる暮らしになっています。そうやって生み出した時間を、家族と過ごす時間にできるのが嬉しいですね。
暮らしニスタとして活躍するようになって生活が変わった
ライフオーガナイザー®の資格を取ってすぐくらいに、ライフオーガナイザー協会が、暮らしニスタの公式アカウントになりました。そのときに理事からメンバーに向けて投稿をうながすアナウンスがあったので、書いてみようと思ったのが暮らしニスタになったきっかけです。
暮らしニスタになって、まず、一番びっくりしたのが「暮らしニスタの記事を見て香村さんを知りました」と講座に来てくれたり、お問い合わせをくれたりという人が出てきたこと。また、暮らしニスタに投稿した記事を読んだライフオーガナイザー協会の方から、協会のWEBマガジンに載せる記事を書いてくれと依頼があったりと、活動が横に派生するようになってきたのも暮らしニスタに書いた記事がきっかけ。そんな風に反応があったもので、日記ではなく記事を書くようにと心がけるようになりましたね。
それに、賞をいただくということを初めて体験させてもらったのも暮らしニスタです。受賞歴を持つなんて思っていなかったのでとても嬉しくて。
そのあとすぐに主婦の友社から「シンプルな暮らしのきほん」というムック本のお話もいただき、初めて取材を受けて撮影を体験したのも、夢みたいな話だなあと思いました。暮らしニスタmagazineのvol.2の表紙と巻頭大特集に選んでいただいたりもしましたし…。びっくりです。
実は、暮らしニスタのアプリ案内に使われているスマホの写真は、私が撮った写真なんです。誰も気づかないことだと思うのですが、こっそりと嬉しい(笑)。それをきっかけに、写真までもピックアップしてもらえるかもしれないと思い始めて、プロのカメラマンに写真の撮り方を教えてもらうようになりました。暮らしニスタの中でも、青山金魚さんはじめ、写真の上手な方はやはり目を引くので、参考にしています。
読者やお客さんに心地よく暮らしてほしい
私のやり方でもあるのですが、「こんな風に暮らしたいな」と思うことがあれば、まずは誰かのアイデアを100%真似することから始めるといいと思います。そこでうまくいかなかったときに、ダメだったーと手放すのではなくて、自分の暮らしに合うようにカスタマイズしていくことが、家を育てたり改革していったりするアクションの1つになると考えています。
伝えたいことを実践してくださった方から、たくさんメールをいただくんです。「この人は実践してくれたんだ、そしてうまく家事がまわるように変わったんだ」ということが分かると、やはり嬉しくてやりがいを感じますね。
取材・文/加世田侑季
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