2005年のスペースシャトル・ディスカバリーの打ち上げで日本人として6番目の宇宙飛行士となった野口聡一さん。2022年に定年を前にJAXAを退職。現在、新たなキャリアをスタートさせています。
刊行された書籍『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』では、野口さん自身の経験を元に、定年を前にして中高年はいかに生きるべきかが語られています。
今回は熱意を持って働く人がわずか5%という日本の職場で、「何が人のやる気を奪い、組織の力を弱めているのか」について、詳しくお話を伺いました。
妬みは広がりやすく、あっという間に組織を腐らせる
――本書の中にあったギャラップ社の調査で、日本人は、熱意を持って働く人は5%程度で、できる限り手を抜こうという人は23%もいる、ということに驚きました。
野口 いろいろな企業から招待されて話をしに行くんですけれど、この5%、23%については、特に大企業の人は「うちもそんなもんです」ってみんな言っていますから、決して驚く数字じゃないんです。
この話に関しては二つあって、一つ目は、本でも書きましたが「腐ったリンゴ」の話ですね。わざと悪い態度を取る人が一人いると、それがあっという間に伝播してしまう。
これは、みんな同じ労働条件のはずなのに、あの人だけさぼってるのはずるい、あの人だけひいきされてずるいっていう妬みの感情なんです。妬みというのは広がりやすく、非常に厄介で、あっという間に組織を腐らせてしまう。
「腐ったリンゴ」に対して中間管理職ができること
これは多様性の話の裏返しでもあるんです。本来は、人はみんなそれぞれ違うので、ある面では優遇されても、別の面では冷遇されるっていうのが当たり前。
ある一面だけ切り取って「あの人はサボってずるい」と妬むこと自体が本当はおかしいんですけど、人間だから仕方ない。
ではどうするかと言ったら、できるだけ平等に扱っていき、しっかり目標を示してあげる。常にその目標に向かって全体をリフォーカスしていく必要がある。
あとは話をちゃんと聞いてあげる。これは多分、今の日本の中間管理職ができる精一杯のところです。
日本の中間管理職って管理責任はあるけど、権限が全然ない。日本が潰れずやっていけているのは、かわいそうな中間管理職の献身があるからです。
世界的に見てもこんなに献身的でこんなに報われてない、搾取されている階層はないですよ。
「わかり合う」が前提なのも問題
――(インタビューに同席している)中間管理職のみなさんが激しくうなづいています。
野口 日本人の働き方についての問題のもう一つは、日本の組織の明確な特徴として、現状維持バイアスの強さと、ことなかれ主義ですね。
「和を重んじる」というのは聞こえはいいですが、実際には集団内での争いが表面化することを極端に嫌う傾向があります。
そのため、見えない不満にはあえて触れず、ただ“波風を立てないこと”だけが優先される。そうした空気の中では、「場の支配力」が非常に強くなっていきます。
――オフィスの場の強さのことは本書にも書かれていました。
野口 いわゆるハイコンテクスト文化というもので、言葉以外の情報を読み取ることが重要な文化です。
みんなが同じで均一だから細部がやたら気になり、行間を読みすぎてしまって動けなくなるという問題があります。そのあたりが先程の妬みの問題ともつながります。
それとは対照的に、「私たちは誰ともわかり合えない」という前提に立つのが、アメリカ的な多様性。わかり合えないからこそ最低限は文書で決めて、それ以外はある程度自由。だから自由にしていいよ、と言えちゃう。
日本では原則みんな一緒だから、なかなか言えません。結果、「あの人はずるい」という言い方になってしまうんです。
▶次の話 宇宙飛行士・野口聡一さんに聞く「子どもの夢の支え方」。親が絶対にやっちゃダメな〈最悪の指導〉とは?
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取材/大家 太(主婦の友社) 文/村上智基
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