今年はインフルエンザの流行が例年より早く、8月中旬から全国各地で広がり始めています。
厚生労働省によると、10月5日~11日の全国の患者報告数は約4万8,000人で、前年同時期の患者報告数と比べて約5.3倍。全国各地で注意報が発令され、沖縄県では警報も出るなど、早くも感染が広範囲に拡大しています。
背景には、昨シーズンに流行が少なかったウイルスに対する免疫不足や、ウイルスの変異などが関係していると考えられています。
こうした状況を受け、手洗いやマスクの着用など、日頃から感染症対策を心がけている方も多いのではないでしょうか。
家族みんなで元気に過ごしたいけれど、感染症を完全に防ぐのは難しいもの。意識してはいるものの、毎日の食事や生活習慣で、できることがあればさらに知っておきたいですよね。
そこで今回は、長年にわたり免疫の研究に携わってきた順天堂大学大学院医学研究科 研究基盤センター細胞機能研究室の竹田和由先生に、免疫の仕組みや日々の体調管理がいかに大切か、そしてどう対策すればよいか伺いました。
専門家が教える「免疫の正しい働き」とは?大切なのは免疫のバランス
免疫は、私たちの身体を守るために欠かせない仕組みです。まずは、免疫の働きについて教えていただきました。
よく耳にする「免疫力を高める」とは、どのような状態を指すのでしょうか?
竹田先生:実は「免疫力」という言葉には、医学的に明確な定義がないんです。
免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」があります。自然免疫は身体に侵入した異物にいち早く反応し、獲得免疫は一度出会った病原体などの特徴を覚えて、次の侵入に備える仕組みです。この2つが連携することで、私たちの身体を守っています。
ただし、免疫が必要以上に反応すると、アレルギーや自己免疫疾患などの問題が起こることも。反対に、働きが弱すぎると、感染症にかかりやすくなってしまいます。
つまり、免疫は強ければ強いほどよいというわけではありません。私自身は、必要なときに適切に反応し、過剰な反応は抑える「免疫を調整する力」が大切だと考えています。
普段の生活では、どのようなことを意識すればよいのでしょうか?
竹田先生:大切なのは、運動もストレスも適度にすることです。
軽い運動は免疫によい影響を与えるとされていますが、激しい運動を長時間続けると身体への負担が大きくなり、かえって一時的に免疫の働きが低下します。
ストレスも同様です。仕事や家事などで感じる適度なストレスは、免疫によい影響を与えることもありますが、長く続くと逆効果になる場合もあるんです。
つまり、免疫の面で大切なのは「メリハリ」。無理なく身体を動かし、頑張るときと休むときの切り替えを意識してほしいですね。
実は見落としがち?免疫の土台となる「たんぱく質」の重要性
運動や休息とあわせて、意識したいのが毎日の食事。忙しいとつい簡単に済ませてしまいがちですが、免疫の働きを支えるうえで、特に大切な栄養素があるそうです。
免疫の働きを支えるためには、食事でどのような栄養素を摂るとよいのでしょうか?
竹田先生:食事の話になると、どうしても「バランスよく食べましょう」で終わってしまいがちですよね。もちろん、それが基本なのですが、栄養素の中でも特に意識して摂ってほしいのが「たんぱく質」です。
たんぱく質は、筋肉や体の組織をつくることで知られていますが、免疫細胞やウイルスなどの異物に対応する「抗体」をつくるためにも欠かせない材料でもあります。いわば、免疫の土台となる重要な栄養素です。
たんぱく質が不足すると、免疫の働きにも影響が出る可能性も。だからこそ、毎日の食事でしっかり摂ることが大切なんです。
たんぱく質を十分に摂るためには、普段の食事でどんなことを意識すればよいですか?
竹田先生:知っておいてほしいのは、食べ物の重さと、そこに含まれるたんぱく質の量は違うということです。
例えば、お肉を100g食べても、含まれるたんぱく質は種類や部位によりますが20g程度。必要な量を毎日の食事で摂ろうと思うと、意外と簡単ではないんですよ。
忙しいと、お昼をおにぎりだけで済ませてしまうこともありますよね。そんなときは、サラダチキンや卵など、たんぱく質を含む食品を一品プラスしてみてください。
食事を大きく変える必要はありません。普段の食事に少しずつ取り入れていくとよいと思います。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、30〜49歳のたんぱく質の1日あたりの推奨量は、女性50g、男性65gです。なお、妊娠中や授乳中は必要な量が異なります。
免疫バランスを維持するうえで、腸内環境も重要!
免疫細胞や抗体の材料となるたんぱく質。その一方で、免疫の働きを考えるうえでは、腸内環境も大切なのだそう。そこで、腸と免疫の関係や腸内細菌の役割についても竹田先生に伺いました。
そもそも、腸と免疫にはどのような関係があるのでしょうか?
竹田先生:腸は食べ物を消化・吸収するだけでなく、免疫に関わる細胞が多く集まる重要な場所でもあります。
また、腸内にはたくさんの細菌がいて、こうした腸内細菌が免疫の働きと深く関わっていることも、さまざまな研究からわかっています。
つまり、腸は栄養を吸収するだけでなく、私たちの身体を守るうえでも大切な場所。だからこそ、腸内環境を良好に保つことが重要なんですね。
腸内環境といえば乳酸菌のイメージがありますが、乳酸菌を摂るポイントはありますか?
竹田先生:摂った乳酸菌がそのまま腸内で増えたり、定着したりするとは限りません。大切なのは、腸内細菌などに働きかけ、腸内環境によい変化をもたらすことです。
また、乳酸菌は種類や「菌株」によって特徴が異なり、免疫への働きかけが研究されているものもあります。食品を選ぶ際は、使われている菌株にも注目してみるとよいでしょう。
まずは、免疫細胞の材料となるたんぱく質をしっかり摂ること。そのうえで、乳酸菌を含む食品も取り入れながら、腸内環境にも目を向けてほしいですね。
たんぱく質と乳酸菌を無理なく!毎日の食事に取り入れるなら?
たんぱく質と乳酸菌、それぞれの役割がわかったところで、続いては毎日の食事について。身近な食品で手軽に取り入れる方法を竹田先生に伺いました。
たんぱく質と乳酸菌を手軽に食事に取り入れるには、どんな食品がおすすめですか?
竹田先生:普段の食事でも、乳酸菌などを含む発酵食品とたんぱく質を一緒に摂れる、おいしい組み合わせがあります。
例えば、納豆とぬか漬けを一食の中に取り入れたり、豆腐にキムチをのせたりするのもおすすめ。納豆や豆腐にはたんぱく質が含まれていますし、乳酸発酵したぬか漬けやキムチからは乳酸菌を摂ることができます。
また、ヨーグルトなら乳酸菌とたんぱく質を一度に摂れるので、さらに手軽ですね。最近は高たんぱくタイプのヨーグルトも販売されているので、そうしたものを活用するのもよいと思います。
編集部:実際、感染予防や体調管理のために毎日継続しやすい、たんぱく質を含む食品について尋ねた調査でも、生活者・医師ともにヨーグルトが1位に。生活者の45.6%、医師の55.0%がヨーグルトを選んでいました。
※2026年9月25日 株式会社日本能率協会総合研究所 「生活者と医師に聞く感染症予防に関する栄養意識」調査より
毎日の食事と生活習慣を見直して、秋冬を元気に過ごそう!
竹田先生のお話を聞いてあらためて感じたのは、免疫はただ強めればよいというものではなく、バランスが大切だということ。
食事の面では、免疫細胞や抗体の材料となる「たんぱく質」と、免疫を活性化させる「乳酸菌」などを含む発酵食品の両方を摂ることが、感染症予防の面でも重要なことがわかりました。
お昼がコンビニなどになりそうな場合、おにぎりだけではなく、卵や納豆を一品プラスしたり、朝食にフルーツを加えた高たんぱくのヨーグルトを取り入れたり。普段の食事を少し見直すだけでも、必要な栄養を補うきっかけになります。
もちろん、うがい、手洗い、マスクなどの基本的な感染症対策に加えて、無理のない範囲で身体を動かし、しっかり休むことも忘れずに。食事も運動も頑張りすぎず、まずはできることから。毎日の生活習慣を少しずつ見直しながら、秋冬を元気に過ごしていきたいですね。
竹田和由先生(順天堂大学大学院医学研究科 研究基盤センター細胞機能研究室)
長年、免疫細胞の働きや、がんと免疫の関係について研究に取り組む。近年は、臓器移植後の拒絶反応を防ぐために免疫の働きを抑える、移植免疫の研究も行っている。
取材・文/岸拓見(暮らしニスタ編集部)
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