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コラム

自分は何を言われても、義母を優しい人だと感じるべきなのだろうか。|うさぎの耳〈第八話〉谷村志穂

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自分は何を言われても、義母を優しい人だと感じるべきなのだろうか。|うさぎの耳〈第八話〉谷村志穂

「どう考えても、違うね」

動画を見られるように、スマホに買い替えた。こんな便利なものだったと今さら知った。

二人は、動画を送った後に、漁港の防波堤に座って並んで弁当を食べながら、電話をかけてきた。

「どう考えても、違うよな」

と、白坂。

記憶喪失になった、ということも考えられたが、二人が一番違うと感じた理由は、やはりその男の手だったそうだ。

「高山、どんなに痩せても、あの手にはならないよ。よく馬の体にブラシ、かけてたからさ。だからって、どんなだったかなんて本当のところ、あんまり覚えていないけど、あんな華奢じゃなかったと思ってさ。でも一応、美夏にも確認するけど」

電話口で、白坂が少し拍子抜けした口調でそう言った。受話器の向こうで、カモメの声がした。カモメの声を聞きながら、急に北の海を想像した。

「私も違うと、思う。と、言うより、違います」

そこに映った男は、髪の毛も癖毛のようだ。でも何より、画面が少しだけ映った男の顔の中で、鼻はだんごのように丸かった。SNSで隆也の写真を見た人が、この男にそっくりだと言ってきた理由が今となってはもうわからないくらいだった。

「でもさ、美夏、今一度よく見てね。離れている間に変わった面だってあるはずだから」

電話口の声が美咲に変わった。

「そうだね。それに、私も、もう本当言うと、あんまり思い出せないんだよ。変でしょ」

美咲は少し押し黙り、続けた。

「だとは思うよ。思い出したくないと、人は忘れようとするんだよ。でも、探すなら、どんな高山が出てくるのか、わからないって覚悟しなきゃ。でしょ?」

「うん、わかる」

「しっかりしろ、美夏」

次の話 母でも妻でもなく、ずっと待っている一人の人間|うさぎの耳〈第八話〉谷村志穂
前の話 義母は眉を深く寄せて言い放つ。「出ていきなさいよ、この家から」|うさぎの耳〈第七話〉谷村志穂

谷村志穂作家。北海道札幌市生まれ。北海道大学農学部卒業。出版社勤務を経て1990年に発表した『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。03年長編小説『海猫』で島清恋愛文学賞受賞。『余命』『いそぶえ』『大沼ワルツ』『半逆光』などの作品がある。映像化された作品も多い。

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