旬の魚を味わうオサカナワークショップ「ミナトゴハン」を主宰する、ダンノマリコさん。魚のおいしさに目覚めたのは、フードスタイリストとして独立してからのことでした。新鮮な魚の味わいを生かして料理することはもちろん、魚をさばくこと自体が楽しくて仕方ないというダンノさん。ダンノさんを惹きつけてやまない魚の魅力や、家庭で気軽に楽しむコツを伺いました。
大人になって夢中に! 魚をさばくおもしろさ
東京育ちのダンノさん。子どものころから新鮮な魚に親しんできたわけでも、魚が好きで食べ歩いていたわけでもなかったと言います。
魚の世界への扉を開いたきっかけは、知人の投稿で見つけた魚専門の料理教室でした。
「料理を仕事にしているし、三枚おろしをきちんとできるようになりたい、という思いは以前からあったんです。築地の仲卸の方が運営する教室なら、魚のことを詳しく学べるんじゃないかと思って、足を運んでみたんです。実際に教室に行ってみると、これがめちゃくちゃおもしろくて。魚をさばく作業そのものに夢中になりました」
教室では、ただ手順をなぞるのではなく、魚の骨がどんな角度でついているのか、それに対して包丁をどのように動かせばよいのかを、理論立てて教えてくれたそう。
魚のプロである仲卸が運営しているだけに、扱う魚種も豊富! アジやタイ、ヒラメといった魚はもちろん、タラやタコなど、家庭ではなかなか扱う機会のない魚介にも触れました。
「魚は基本的な体の構造こそ似ていますが、種類によって骨の形や身質が違います。やっとアジがまともにさばけるようになったと思っても、次の魚ではまたうまくできない。でも、だからこそおもしろいとも言えるかもしれません」
教室に参加した当初は、思うようにさばけないことが悔しくて、魚を“箱買い”して、繰り返し練習したことも。
「できなかったことが、少しずつできるようになる。大人になってからできることが増えるって、楽しいですよね。完全に大人の趣味です(笑)」
予測がむずかしくなった、魚の“旬”
ダンノさんが魚に夢中になり、市場に通うようになってから十数年。その間にも、魚を取り巻く環境は大きく変わってきたと感じているそうです。
「以前なら9月ごろが旬とされていた魚が、海水温が下がらず、売り場に並ばないことが増えました。『今年はいつ入るんだろう』とプロの方たちさえも様子を見ているような状態です。特にここ5年くらいで、変化が加速しているように感じます」
これまで“旬”とされてきた時期に魚味がピークを迎えず、反対に、思いがけない時期に良い魚が水揚げされることも。魚種によって増減の差も大きく、天然魚の入り方は年々予測しにくくなっているそうです。
▲島根県浜田市の、まき網船の網元さんと、浜田市で水揚げされるブランドアジ「どんちっちアジ」
「漁師さんや仲卸さんなど、魚に関わる人たちと話していても、海が変わってきているという危機感を持っている人は多いですね。私たちに何ができるだろうと考えると、途方に暮れるような気持ちにもなります。でも、まずは知ることが大事なのかな。魚をおいしく食べることも、海や魚に興味を持つきっかけになると思います」
また、天然魚は自然のもの。季節だけでなく、その日の天候によっても水揚げされる魚の種類や量が変わります。
「とくに影響が大きいのは風や波です。海が荒れれば漁に出られないので、売り場にも魚が並びにくく、値段も上がります。反対に、風のない穏やかな日が続くと、売り場が盛りだくさんになることも」
食べたい魚を決めて売り場へ行っても、必ず手に入るとは限らないのが天然魚。けれどダンノさんは、その日の海が届けてくれた魚との出合いも、魚を楽しむ醍醐味だと言います。
▲島根県浜田港の魚市場の様子
おいしい魚はどう選ぶ? 売り場で見るべきポイント
では、スーパーや鮮魚店では、ダンノさんはどのように魚を選んでいるのでしょうか。
「ショーケースにきれいに魚が並んでいるお店は、信頼できると思います。売り場がきれいなお店は、魚も丁寧に扱っているはず。乱雑に重ねられたりすると、せっかく鮮度のいい食材でも味が落ちてしまいます。これは魚だけでなく、野菜などにも共通しますね」
一尾ごとの鮮度を見極めるのは、慣れない人にはなかなか難しいもの。だからこそ、まずは「魚を丁寧に扱っているお店かどうか」をチェックするのが、失敗しにくい魚選びの第一歩です。
「また、売り場にたくさん並んでいる魚は、その日のイチ推しであることが多いです。よいものがまとまって入荷していて、お店としても売りたいから、手前にたくさん出している可能性が高い。食べたい魚を決めてから買いに行くより、その日にある魚から料理を考えるほうが、リーズナブルで、おいしい魚が手に入りやすいと思います」
ダンノさんは、どこの鮮魚店でも「今日のおすすめは何ですか?」とお店の人に声をかけると言います。
「聞くのが一番! 私もまだまだ素人で、どこまでいってもプロの目利きにはかないませんから。丸ごとの魚も、どう調理するのがいいかを聞いて、三枚におろしてもらったり、内臓の下処理をしてもらったりすれば、ぐんと調理のハードルが下がりますよ」
夏の魚の手軽でおいしい楽しみ方
暑さが厳しい夏は、店頭に並ぶ天然魚の種類は少なめ。秋ごろになると、脂ののった魚や大型の魚が増え、魚売り場もにぎやかになってきます。
「夏は、お刺身が手軽でいいですね。そのまま食べるだけでなく、漬けにしたり、なめろうにしたり。たれや薬味を変えるだけで、いろいろ楽しめます」
夏に重宝するのが、梅を使ったさっぱり味のたれです。
酒とみりんを煮詰め、梅肉と少量のしょうゆを加えて作っておけば、刺身にも焼き魚にも使えます。
「刺身をこまかく叩いて、大葉やみょうがのみじん切りといっしょに梅だれであえれば、さっぱりしたなめろうになります。焼き魚やお刺身につけても、もちろんおいしいですよ」
また、同量の酒、みりん、しょうゆ、砂糖をまぜ、さっと火を入れた「漬けだれ」や、みそと酒粕を1:2の割合で合わせた「みそ粕」を用意しておくのもおすすめです。
▲みそ粕
「刺身が食べきれないときは、漬けだれに漬けておくと、翌日もおいしく食べられます。温かいごはんに漬けをのせ、刻んだ青ねぎやごまを散らせば、さわやかな丼に。みそ粕は、切り身の魚に塗ってラップに包んでおけば、魚の臭みも抑えられて、旨みも凝縮! あとはサッと焼くだけで、立派なごちそうになりますよ。酒粕は、ペースト状になっている“ねり粕”がおすすめ。酒粕がないときは、みそをみりんとお酒で溶いた『みそだれ』も便利です」
無理なく楽しむ、魚のある暮らし
魚を楽しむために、必ずしも一尾まるごと買って、自分でさばく必要はありません。
「私はさばくのが趣味ですが、日々の料理となれば話は別(笑)。毎日の料理なら、手軽さを大事に、無理なく楽しむことが一番です」
切り身や刺身を買って、たれや薬味を少し変えるだけでも十分。
魚売り場をちょくちょくのぞいて、その日たくさん並んでいる魚に挑戦したり、お店の人と話しながら今日の献立を決めたりするのも、魚の楽しみ方のひとつです。
「海が荒れ、いつもの産地から魚が入らない日は、別の地域から仕入れた魚が並ぶこともあります。私はスマホに『WINDY(ウィンディ)』という風の動きを見られるアプリを入れていて、『今日は日本海側は風が強いから、明日の市場には別の地域のお魚が入るかな』なんていうふうに、ニヤニヤしながら見ています(笑)」
魚売り場の向こうにある季節や、海の様子にも目を向けてみると、いつもの魚選びがもっと楽しくなるかもしれません。
ダンノマリコ(だんの・まりこ)●フードスタイリスト、栄養士。フードコーディネーターのアシスタントを経て、フードスタイリストとして独立。シンプルで作りやすいレシピと、素材をよりおいしそうに見せるスタイリングが人気。旬の魚介を楽しむためのオサカナワークショップ「ミナトゴハン」を主宰する。料理会の開催や動画配信のほか、日本各地の漁港や市場を訪れ、漁師など魚のプロたちに取材し、魚のおいしさを伝える情報を発信中。『スーパーのお魚で港町の漁師飯』『おいしい袋モフ メチャ楽レシピ』など、著書多数。
取材・文/浦上藍子
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