履歴書の志望動機や志望理由書、エントリーシートに、自身の経験やスキルを記入するときなどによく使う「いかす」。漢字では「生かす」や「活かす」と書きますが、それぞれの使い分けはできているでしょうか。論文や小論文にもよく出てくる言葉なので、公的なシーンではちゃんと意味を理解した上で使い分けたいですよね。
そこで、今回は「生かす」と「活かす」の意味の違いを、例文や言い換え表現などを用いて説明します。意外にも思わぬ落とし穴がある言葉なので、ぜひチェックしてくださいね。
「生かす」と「活かす」の意味
「生かす」と「活かす」の違いを一言でいうと、生命に関わっているかどうか。「生かす」というと、命を生かすというように「死なせないようにする」という意味になります。
一方、「活かす」は活躍する、発揮するという意味があるように、個性や能力に対して使う言葉です。能力以外にも、反省や学んだこと、教訓、持ち味などにも使われます。
そのため、「経験をいかす」や「今後にいかす」では「活かす」を使うのが適切です。ただし、実は「生かす」にも能力などを活用するという意味があります。実際、「経験をいかす」と言う場合はどちらの漢字を使っても間違いにはなりません。このように似た意味をもつ言葉ですが、2つに違いはあるのでしょうか。
以下でより詳細に意味の違いを説明します。
「生かす」の意味
「生かす」には
- 一度息絶えたものを生き返らせる。蘇生させる
- 死なないようにする。命を長らえさせる
出典:コトバンク
という意味があります。このように「生」をつかった「生かす」という言葉は、主に生命に関する意味合いを持ちます。
また、ほかにも
出典:コトバンク
というように、生命以外にもいえるようなシーンにも使われるのが特徴。そのため「スキルを生かす」「経験を生かす」のように表現することも可能です。
ただし、基本的には生命に関する意味を持つため、これらを知った上で使い分けられるといいでしょう。
「活かす」の意味
「活かす」には、主に
- 有効に使う。活用する。
- 一度消した文や字句などを復活させる。
出典:コトバンク
という意味があります。そのため、履歴書などで「経験をいかす」「スキルをいかす」「~を教育にいかすには」と書く際には「活かす」を使うのが適切といえます。
また、「生かす」と同じく生命に関わることに使う場合もあります。実際に辞書で調べてみると「生かす・活かす」のように並列して説明されることが多いため、厳密には「生かす」「活かす」どちらを使っても誤用にはなりません。
ただし、「活かす」には生命に関することよりも何かを活用する際に使う場面が多いため、活用するという意味を持つ言葉と覚えておくといいでしょう。
「活かす」は常用漢字ではない
先述したように、「生かす」と「活かす」は同じような意味で使われることが多く、厳密な違いはありません。例えば、「能力をいかす」という意味で使う際は、どちらで書いても誤りにはなりません。
ただし、注意が必要なのが「活かす」は常用漢字ではないということです。「活」の音訓は「カツ」のみで「イかす」と読むことはありません。そのため、公用文(※1)や公文書などでは「活用する」という意味で用いるときでも、「生かす」を使います。
また、記者ハンドブック(※2)でも「活かす」は「生かす」に直すと指定されています。実際に、文部科学省の生涯学習審議会(1999年4月)の中間報告の文書では、「学習の成果を幅広く生かす」「個人のキャリア開発に生かす」と記載があるように、「活かす」が使われていません。
履歴書などでは使い分けるのが好ましいですが、公的な文章では「活かす」と表現しないように留意しましょう。
※1 国の各府省庁で業務上作成される文章のこと
※2 共同通信社が発売している表記ハンドブックのこと
「常用漢字」とは
常用漢字とは
- 法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの
出典:文化庁
とされています。簡単に言うと、日常的に使う漢字のことです。
ただし、常用漢字はあくまでも「目安」であり、常用漢字ではないものがすべて間違っているというわけではありません。現に、1923年に常用漢字表が作成されてから何度か修正されており、直近では2010年に新たに196字追加されています。ですから、時代の流れに沿って常用漢字も変化しているというわけです。
「生かす」と「活かす」の例文
「生かす」と「活かす」には大きな違いはないとすると、実際に書く際に迷ってしまう方もいるのではないでしょうか。そこで、それぞれの使い方をより理解するために、例文もチェックしましょう。
例文では、2つの言葉それぞれが基本的に持つ意味に沿ったものを紹介します。単語の意味だけでなく、例文に触れることでさまざまな使い方が分かりますよ。
厳密には意味の違いはないためあくまでも参考ですが、意味を理解した上で使い分けることでビジネスシーンでは一目置かれること間違いなし。今日から使い分けられるようにマスターしてくださいね。
「生かす」の例文
例文1「釣り人は釣った魚を海に戻して生かしておくことで、自然環境を保護しています。」
ここでの「いかす」は死なないようにするという意味で使われているため、生命に関わるため「生かす」を使うとよいでしょう。
例文2 「困難な状況でも、ポジティブな考え方を持つことで精神的な強さを生かすことができます。」
精神的な強さという能力を活用するという意味で使われているため、活かすと書いても適切です。
例文3 「助けた野生動物を回復するまで生かしておき、再び自然に放つことが重要です。」
命を蘇生するという意味を指しているため、本来生命に関わる意味合いを持つ生かすを使うのが適切です。
例文4 「地域の歴史や文化を生かして、観光観客を集めています。」
特性を有効に使うという意味で使っているため、活かすでも適切です。
「活かす」の例文
例文1 「この新しいテクノロジーをビジネスに活かす方法を見つけなければなりません。」
物事を有効に使うという意味で使用しているため、活用という意味を持つ活かすの表現がより適切です。
例文2 「シンプルなデザインを活かして、製品の使いやすさを追求しました。」
ここでは活用するという意味を表しているため、活かすを使うとよいでしょう。
例文3 「彼女は自分の才能を活かすために、音楽の道に進むことを決めました。」
スキルを発揮し活躍するという意味合いになるため、使い分けるとすれば活かすと表現するのがよいでしょう。
例文4 「資源や素材を有効に活かすために、リサイクルを積極的に推進しています。」
この例文では活用するという言葉に置き換えられるように、活かすを使うのがより適切です。
「生かす」と「活かす」の言い換え
次に、それぞれの言い換え表現を確認しましょう。「生かす」と「活かす」の類義語として「命を長らえさせること」「ものを有効に使うこと」の2つの意味合いをもつ言葉が挙げられます。以下はそれぞれの類義語です。
- 命を長らえさせること:生存させる、生息させる、存命させる、存生させる、在世させる
- ものを有効に使用すること:うまく使う、活用する、利用する、駆使する、運用する、上手に使う、有効利用する、有効活用する、役立てる、用立てる、応用する、援用する
出典:weblio
実際にこれらの言い換え表現を使った例文をみてみましょう。言い換え表現を知ることで、より言葉の意味を理解しやすくなりますよ。
「生かす」の言い換え
例文1
この地域では絶滅危惧種を保護し、自然環境で「生かす取り組み」が進められています。
→この地域では絶滅危惧種を保護し、自然環境で「生息させる取り組み」が進められています。
例文2
緊急手術が成功し、患者を「生かす」ことができました。
→緊急手術が成功し、患者を「存命させる」ことができました。
例文3
厳しい経済的状況でも、住民たちを「生かす」ための支援策を講じました。
→厳しい経済的状況でも、住民たちを「生存させる」ための支援策を講じました。
「活かす」の言い換え
例文1
チームメンバーは各々の専門知識を「活かす」ことでプロジェクトに貢献しました。
→チームメンバーは各々の専門知識を「活用する」ことでプロジェクトに貢献しました。
例文2
リソースを十分に「活かす」ことで、予算内で効果的な広告を作れました。
→リソースを「有効利用する」ことで、予算内で効果的な広告を作れました。
例文3
旅行に行く際は旅行誌を「活かす」ことで、効率の良い計画を立てられます。
→旅行に行く際は旅行誌を「役立てること」で、効率の良い計画を立てられます。
「生かす」と「活かす」の英語表現
最後に、それぞれの言葉の英語表現をみてみましょう。英語表現を知ることでより意味を理解できるだけでなく、ビジネスシーンで活用することができます。
「生かす」と「活かす」は同じような意味をもつため、英語表現もおおよそ同じ表現となります。ただし、生かすには生命に関わる意味があるため、一部表現は異なります。
活用するという意味の英語表現は「make the most of 〜」で、「〜」に活用する対象を入れることで「〜を生かす(活かす)」という意味になります。他に類義語としては、「leverage one's ~」や「utilize one's~」などが挙げられます。
一方、生命に関わる意味としては「revive」や「keep~alive」があります。それぞれニュアンスが異なり「revive」は「生命を生き返らせる」という意味になり、「keep~alive」は〜に生かしておく対象を入れることで「生命を維持する」という意味になります。
まとめ
「生かす」と「活かす」の違いはマスターできたでしょうか?それぞれの漢字が持つ意味は違いますが、「いかす」という使い方では大きな違いはありません。辞書でも並列して説明されているため、あまり迷わずに使ってみてくださいね。
公文書では「生かす」と表現する必要がありますが、他のシーンではそれぞれの言い換え表現などを思い出して使い分けてみましょう。
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