手作り感あふれる男前コーヒードリッパー
一見、用途不明の金属製の物体。
これはコーヒーを淹れるときに使用する、コーヒードリッパーです。
見るからにずっしりと重そうな、ステンレス鋼製。
町工場の職人さんが旋盤を回して作ったふうな、無骨な佇まいがありますね。
デザイン上のアクセントにもなっている3つの鉄球は、
テーブルに置くときはコーヒーがテーブルに垂れないスタンドになるほか、注湯の際にコーヒーサーバーのふちに固定する役割もあります。
製造元の「セイントアンソニー・インダストリーズ」は、2014年にアメリカ・ソルトレイクシティで創業されたという若いベンチャー集団。
いわゆるサードウェーブコーヒーの流れや日本の喫茶店文化も意識しつつ、これまでにないデザインの商品を少しずつ送り出しているようです。
SAINT ANTHONY INDUSTRIES
https://stanthonyind.com/products/phoenix70
ポイント1
このコーヒードリッパー「フェニックス70」の特徴は、フィルターをセットした時の立ち上がり角が70度であること。
他の円錐形フィルター方式であるコーノやハリオV60などは、傾斜角が60度。
そうした一般的なものよりも、さらに急傾斜ということです。
…なぜこの角度になったのでしょうか?
説明によると、一般的なドリッパーとくらべ、同じ量のコーヒー粉末でコーヒー層が33%分厚くなる計算だそうです。
コーヒー層が厚くなることによって、
・コーヒー粉と湯の接触が長くなり、可溶性の成分を抽出しやすくなる
・コーヒー粉自体に濾過作用が期待できる
という2つの理由があるようです。
たしかにコーヒーは少量で淹れるより、多めの方が失敗が少ないもの。
だれしもそうした経験則をおもちではないでしょうか。
これを使ってふつうのコーヒー同様に淹れてみると、コーヒー粉という濾過層が厚くなることで抽出時間が伸び、通常よりもあきらかに濃い味わいに仕上がります。
ポイント2
でも、購入に至ったのはそれが理由ではありませんでした。
別記事で書いていますが、私はかつて表参道にあった伝説の喫茶店「大坊珈琲店」の味わい再現に挑戦中。
素人でも再現できる方法を探す過程でこのドリッパーにたどり着いたのでした。
具体的にいいますと、
【フィルターはネルを使い、ドリッパー自体を回しながら抽出する方法を実践したかった】のです。
そのための条件は2つ。
1. 回したときに中心軸がぶれないこと
2. 側面が素通しになっていること
(つまりネルドリップ同様に、フィルター全体から二酸化炭素を放出しやすい構造であること)
これらを満たすのが、いまのところこの製品しかなさそうだったのです。
ポイント3
●専用のフィルターについて
次に、このドリッパーのフィルターについて。
上で触れた通り、この「フェニックス70」は傾斜角が70度です。
当然、コーノ式やハリオV60などの円錐フィルターでは角度が合いません。
そのため、専用の円錐ペーパーフィルターが必要に。
写真のフィルターがそれです。
あきらかに、通常のフィルターよりも尖っていますよね。
ポイント4
●専用フィルターの価格など
これが「P70」という、専用ペーパーフィルターの100枚入りパッケージ。
おしゃれですが、とてもかさばります。
折りたたんだ状態から円錐に組み立てるのがちょっと特殊でむずかしい構造のため、最初から円錐にした状態で箱の中に重ねられています。
輸入販売元のサイトでは、100枚入りが730円(税別)。
送料を入れると千数百円。
ランニングコストを考えると… (>_<)
ポイント5
●実は専用フィルターは不要?
上で述べたように、私はこのフェニックス70をかなり変わった方式で使っています。
専用のペーパーフィルターも使わず、ネルフィルターをセットしているのです。
ネルはコーヒーオイルを適度に通すので、まろやかなコーヒーが淹れられるとされます。
その反面、手入れがとてもたいへん。
しかし、そのたいへんさの半分くらいは、ネルフィルターにハンドルや金属枠がついているからだと思うのです。
写真のようにペーパーフィルター的に使うなら、洗いやすいし、煮沸や保管も手間が減ります。
(実はネルには、ペーパーなど比較にならないほど種類があります。どんなネルを使っているかは別記事であらためて。)
ポイント6
●ドリッパーとしての評価は?
「ネルフィルターを回転させながら低温でコーヒーを淹れる」という用途なら、今のところこれがベスト。
でもそんな抽出法をしているのは、世界中でほかに誰もいないかも。
一方、ふつうの淹れ方でこのPhoenix70を使う必要は薄いと感じます。
重たい本体は熱の伝わりやすいステンレス鋼。
ドリップ直後にサーバーから持ちあげると、熱くて火傷します。
そして専用のペーパーフィルターは、高価なうえにかさばります。
このドリッパーの価値は、なんといっても
【ほかにないユニークな造形】、
これにつきるでしょう。
見た目が無骨でハンサムなので、見た目に惹かれたかただけにおすすめします。
もちろん私はこれでコーヒーを淹れるたび、大いに気分が上がっています(笑)
ポイント7
関連記事もよろしければ。
伝説のコーヒー【大坊珈琲】を再現する
2017年4月3日
かつて東京・青山に、「大坊珈琲店」という名店があったことをご存じでしょうか。
海外よりも独自の、そして先進的な発展を遂げた日本のコーヒー界で、「日本でいちばんおいしいコーヒー」といえばその名が上がった、伝説的な存在です。
通常のコーヒーより3〜5倍濃く、蒸らしはほとんどゼロ。
湯温はきっかり80℃と、やや低め。ネルフィルターで点滴のように抽出するスタイルは、常識破りかもしれません。
でもそのコーヒーをひとくち飲めば、誰もが虜になったものです。
この記事は、大坊さんのネルドリップコーヒーを、一定レベルで再現できる淹れ方をご紹介するものです。
あまりに大胆すぎる目標なので、着手からまとめるまで、3年間かかりました。
しかも1記事では終わらず、1万字近い記事が何本も。
これはその中核をなすものです。
恐ろしく長文ですが、おつきあいください。
(※トップの写真は 関戸勇氏撮影 書籍『大坊珈琲店』より引用)
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私がはじめて大坊珈琲店を訪れたのは、80年代のなかば。
コーヒーの味に目覚めたばかりの、生意気な学生のころでした。
往時のお店は、表参道交差点そばの雑居ビルの2階にありました。
狭く急な階段をのぼると木枠のドア、その脇には季節の草花がいけられた小さな花台。
13坪しかない店内で、手前が反り返った無垢板のカウンターが目を引きます。
インテリアの隅々にご主人 大坊勝次さんの目くばりが行き届き、まるで佗茶の茶室か禅僧の庵か、といった趣でした。
味の表現はむずかしいのですが、とにかく濃厚。
なのにあくまでまろやかで馥郁たる香気を含み、これまでの常識が覆されるコーヒーでした。
以来30年ほど、近くを通ると吸い寄せられるようにおじゃましたものです。
ところが、老朽化したビルの取り壊しで2013年に閉店。
今に至るも、再開のお知らせはないようです。
しかし、いちど大坊さんのコーヒーを味わってしまうと、もうあの味なしでいることなどできません。
なんとか自分の手で再現できないだろうか。
…暗中模索をはじめました。
はじめは見よう見まねで。
そして閉店を機に、腰を据えて3年。
半生をかけてコーヒーと向き合ってきた名人に伍するなど、根本から無理な話です。
しかし完全再現は不可能でも、「これ大坊さんのコーヒーみたいだね」といえるレベルなら、誰でも到達可能なところまで固まったと思います。
その結果、世界でもほぼ例を見ない、奇妙な方法に落ち着きました。
ご本人の公認ではありませんし、精緻な手業は微塵もない、なんとも即物的な淹れ方です。
でも、特別な鍛錬なしで「大坊さんのネルドリップコーヒー」を再現できる淹れ方として、いまのところこれ以上のものはないと思います。
長文になってしまいましたが、どうかおつきあいください。
昔日を知るかたには、あの味の片鱗を。
知らないかたには「世の中にはこんなコーヒーがあるんだ」「大坊さんってこんなコーヒーなんだ」と知っていただく機会となれば幸いです。
2017年4月3日
世界初!珠玉のコーヒーが淹れられる簡単器具の作り方
2017年4月3日
世間のコーヒーはいま、「サードウェーブ」「スペシャルティコーヒー」といったアメリカ発の流れ一色の状況。
あたかもワインのように、コーヒー豆の品質にもこだわる思想は歓迎すべきもの。
その一方で、昔ながらの「喫茶店」は忘れられようとしています。
とはいえ、コーヒーの抽出法は日本の喫茶店文化のもとで洗練され、独自の進化を遂げてきました。
その結果、一杯ずつポア・オーバーで抽出するサードウェーブスタイルにも逆に影響を与えています。
なかでも、抽出法の解説書が翻訳されるなど、内外に知られた伝説的な喫茶店がありました。
2013年に閉店した南青山の【大坊珈琲店】です。
私はそんな大坊コーヒーの、30年来のファンでした。
おこがましいことですが、自分であのコーヒーを淹れられないかと試行錯誤を続けています。
その過程で、「大坊さんの抽出技術の完全再現は常人には無理でも、補助ツールを使えば近づけそう」と考えるに至りました。
ここでご紹介するのは、独自に考案したそのツールのつくり方です。
それが写真のもので、仮に「ドリッパー回転台」などと呼んでいます。
大坊さんのスタイルを知るかたには、違和感しかないはずです。
でもこれを使えば、注湯技術がつたなくても、かなりおいしく抽出できるようになるはずです。
ご本人の了承なしの非公式なものですが、ぜひ大坊コーヒーの片鱗をお楽しみいただけたらと思います。
※ドリッパー回転台を使った淹れ方については別記事でご紹介しています。
2017年4月3日
絶対失敗しないコーヒーミルの見分け方 + プロもすすめる7定番
2015年3月12日
['20/5/6更新]
外出自粛で楽しみが減るなか、せめて自宅でおいしいコーヒーくらい味わいたいものですよね。
なのにコーヒーミルの選び方の記事のほとんどが、「それ買っちゃダメでしょ」という商品ありきで作られている事実をご存じでしょうか?
コーヒーミルには、コーヒー豆が台無しになるかおいしく挽けるか、決定的な判別法があります。
本稿では、科学的においしいコーヒー抽出法を起点に、商品テストもあわせて確認。
失敗しないコーヒーミルの選び方がわかるほか、具体的なおすすめを商品7点を、ロングセラーや新定番から精選してご紹介します。
2015年3月12日
コーヒーのドリップ時におすすめ。湯温管理の秘密兵器
2015年3月13日
コーヒー好きのかた、普段飲むコーヒーに満足していますか?
この投稿でご紹介したいのは、コーヒーに関する温度のことと、温度管理に役立つ道具のお話です。
ちまたでは、コーヒーに最適な温度は諸説あります。
「沸騰したお湯をコーヒーポットに移して少し冷まし、約90℃で淹れる」
「コーヒーは85℃~90℃が美味しさのコツ」
かつてコーヒーの鬼と呼ばれた達人は、抽出中の粉の温度がポイントだとして、63℃か64℃かで論争を巻き起こしたこともあったようです。
実際は、浅煎りと深煎りなど、焙煎の深さによって最適な温度帯は異なります。
浅煎りは高い温度、深煎りは低めの湯温が適しています。
2015年3月13日
バリスタご用達! コーヒーポットのおすすめ加工法
2015年3月13日
ご自分で淹れるコーヒーに満足していますか?
コーヒーをおいしく淹れるには、実にさまざまな要因が絡んできますよね。
そのひとつ、注湯をきちんとコントロールするには、ポット選びが重要です。
では、コーヒーポットを選ぶうえで、もっとも重視するポイントは何でしょう?
………………??
答は、【そのポットは水流を極限まで細くして、そっと注げるか?】です。
コーヒーの粉は、大量のお湯で動き回ると、雑味やえぐみが出やすくなってしまいます。かぐわしい香りやうまみだけを抽出するなら、なるべくそっと、動かさないよう注湯することが大切。
コーヒーポットが細口がよいとされ、注ぎ口が細く伸びているのは、静かに注ぐための工夫なんですね。
この記事では、一般的なコーヒーポットでもっとおいしく淹れるための、カスタマイズ加工法をご紹介します。
また、そうした加工がめんどうな方のためにも、究極といってよいおすすめの細口コーヒーポットもご紹介しています。
ちなみに冒頭の謎の画像は、そのカスタマイズ加工法のヒントになるものが映っています。なんだか怪しいですが、読んで損はさせません!
2015年3月13日
ポイント8
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