わたしはある名店のコーヒーに魅了されて以来、自分でもその味を再現したいと試みてきました。
なのにコーヒーミルについてはその重要性に気づかず、ずうっと数千円台のものを使っていたのです。
「とりあえず挽ければいいだろう」程度に思っていたんですね。
でも、どんなに高級な豆を使い、抽出方法を工夫しても、目標とする名店の味には遠く及ばず。
「おいしくないのは自分が未熟だからだろう」と思考停止したまま、学生時代から最近まで、気がつくと29年も経過していました。
ここまで時間を無駄にして、さすがに別のところに問題があると思い至り、ようやくミルについても検証することにしたのです。
最初に試したのが、粉砕方法別の比較でした。
いったい、どんなコーヒーミルがよいのだろう。
ひととおり自腹で取りそろえ、挽きくらべてみました。
その結果が、この記事でお伝えしたい内容です。
何台もミルを買って試すのは、財布的には少々痛いものでした。
しかし、結果は予想をはるかに超えていました。
テストによって、「確実に美味しく挽けるコーヒーミルの法則」も見えてきたのです。
はじめにテストしてから5年以上が経過しましたが、その間に得た知見も含めてお伝えしたいと思います。
今回のテストで得たおいしいコーヒーミルのポイントだけ、先に書いてしまいますね。
コーヒーの味は「挽き粉の挽きムラ」、つまり、大きなカケラからパウダー状の微粉まで、サイズのばらつきに大きく影響されます。
挽き粉の粒度(メッシュ)が揃っていないと…
●粗い欠片(かけら)
湯が内部に浸透するまで時間がかかる
=コクや香りが抽出しきれない
●微粉
瞬時に湯が浸透する
=浸出に長時間かかるはずの雑味成分まで過剰に出てしまう
挽きムラが大きいミルを使うかぎり、どんな高級な豆を使っても
・香りや旨味がじゅうぶん抽出できない
・渋くてえぐみのある《雑味》はたくさん溶け出す
薄くてまずいコーヒーとなり、コーヒー豆を台無しにしてしまうのです。
湯温によって抽出される成分が異なること、コーヒー粉の粒度によって一粒ずつの表面積がかわり、
湯温や浸出速度に大きく影響されること。
このことがすべての議論の出発点であることを、まずはご理解ください。
つまり、
【粒度のばらつきが少なく 均等にコーヒー豆が挽けること】。
これこそが、コーヒーミルの最重要ポイントです。
粉のサイズが均等であれば、理論上は
コーヒーがもつ味わいと薫りのポテンシャルを余すところなく引き出しつつ、雑味は出さない
というコーヒー抽出が可能となります。
もちろん、豆の品種、生育状況、鮮度、焙煎や抽出技術など、おいしいコーヒーの条件は無数にあります。
しかしそれらの条件は、専門家でも容易に達成できません。
ところがコーヒーミルだけは、われわれ一般人でも適切な品を選べます。
プロ同様の均質なコーヒー粉を簡単に得られるのです。
つまりミル選びは、もっとも手堅い「かぐわしい極上のコーヒーへの手段」といえるわけですね。
さて、ここからしばらくは、商品テストを通じた種類別ミルの解説です。
--
コーヒーミルは、豆の粉砕方法により3種に分類できます。
【コニカルグラインダー】
【ブレードカッター】
【フラットカッター】
ううむ、横文字だと頭に入ってこないですよね。
日本語でもいろいろな呼び名がありますが、ここでは思い切って単純にこう呼んでしまいます。
①臼型(中央)
②プロペラ型(左)
③円板型(右)
これらは挽き刃の形で分けられたものです。
とはいえこれでもわかりにくいですよね。
順を追ってご説明します。
臼型、あるいは「円錐」を意味するコニカルグラインダーは、文字通り円錐状の臼歯で挽きつぶす方式です。
「コーン型」などとも呼ばれますが、これはトウモロコシのCORNではなく、工事現場の三角コーンと同じCONEの方です。CONEが「円錐」の名詞形、CONICALは同じく「円錐」の形容詞形。
なので、コーンもコニカルも同じ意味ですね。
単純にいいますと、このタイプは上からコーヒー豆を投入し、下で回転している臼歯によって挽きつぶされます。
そして挽かれたコーヒー粉は、さらに下の粉受けに落ちていきます。
このタイプは手でハンドルを回して動かす手動タイプと、モーターで駆動する電動タイプとがあります。
直前に、臼型には手動と電動タイプがあると申し上げました。
臼型ではこの手動電動、2種類を比較テストしましたが、手動タイプはこんなものを使用しました。
手動ミルと言えばハンドルを手で回し、溝が彫られた臼でゴリゴリとすりつぶす方式ですよね。
実は手動ミルはほぼこの円錐型の臼歯です。
実質的に手動ミル=臼型コーヒーミルだとお考えください。
工芸品のような高級品は天井知らずですが、手動で安いもので千円台から、電動だと数千円から手に入ります。
[画像はかなり安い部類の カリタ 手動コーヒーミル KH-3]
https://www.amazon.co.jp/dp/B0006BLI2W/
次に電動の臼型。
手動のミルとは、「モーターを使っているかどうか」の違いしかありません。
ただし先ほどの手動型とは異なり、セラミック製の挽き臼が使われることが多いようです。
セラミックは高速駆動した際、金属ほど摩擦熱の影響を受けにくいためです。
写真の製品価格は、実売8,000円前後。
[カリタ セラミックコーヒーミル C-90]
https://www.amazon.co.jp/dp/B0002IS0HK/
次はプロペラ型です。
飛行機のプロペラのようなブレードが容器の底面についています。
この刃が高速回転し、コーヒー豆を粉砕します。
フードプロセッサーやミキサーと似た作りですが、実際も水気がないだけでやっていることはそれらと同じです。
プロペラ型の特徴は、
・容器の底に薄いプロペラブレードがついている
・上から入れて上から取り出す
ということになります。
プロペラ型の実例として、比較テストに使ったのはこちらの製品です。
この商品の場合、手で掴んで保持するタイプです。
粉の挽き具合は赤いボタンを押し、回転する時間で調整します。
[画像はカリタ イージーカットミル EG-45]
https://www.amazon.co.jp/dp/B00H7QLGWG/
最後は円板型です。平たい円板に刃が刻まれているため、「フラットカッター」などとも呼ばれます。
「フラット」という言葉のとおり、平たい円形の歯が向き合って回転。
コーヒー豆は上から流れ落ちてきて、溝が刻まれた2枚の回転板の隙間を流れ落ちてくる間に両側から切削します。
この方式が言葉で説明するには一番わかりにくいため、概念図もあわせてご覧ください。
実際には回転板の片方は固定されているほか、溝の方も製造元各社によって異なる形状をしています。
写真右側が、今回のテストに使用した円板型ミル(フラットカッターミル)です。
一般的にこの方式がいちばんコストがかかる構造をしているため、安いものでも1万円台からと、気軽にお試しで買うには躊躇する価格です。
サイズもほかより大柄で、画像の商品だと高さ34cmです。
※追記:画像の銀色のミルは2017年以降「ナイスカットG」にマイナーチェンジしています。
詳細は記事後半で。
[カリタ ナイスカットG]
以上、実機も含めてご紹介してきました。
中央の臼型[コニカルグラインダー]だけは電動以外に手動タイプがあります。
他にプロペラブレードのついた[ブレードカッター]、
そして最後の円板型[フラットカッター]。
3種の方式に電動手動を加味しますと、都合4種類存在することに。
つまり、
●電動か手動か?
●円錐形か、プロペラか、円板形か?
方式の違いはこれだけです。
シンプルですよね。
たいへんお待たせしました。
それでは方式別に、実際に豆を挽いてテストしてみましょう。
テストにあたり方式の差だけを際立たせるため、同一メーカー製品で統一しています。
必ずしもそのメーカーびいきでないことは、読むとおわかりいただけるはず。
同じ焙煎度の豆を10gずつ用意し、挽き上がりの時間も比較しています。
豆の挽き具合は、一般的な抽出方法で使われるペーパーフィルター向きの「中細挽き」で統一しています。
画像は手動の臼型で挽いたコーヒー粉です。
ご覧の通り大きなかけらが残っており、4タイプ中、もっともばらつきが生じました。
なかなか狙い通りの粒度にならず、何度もやり直し、微調整を繰り返しています。
挽き上がりまでの時間は、およそ1分ほど。
ずっと回していると、腕が疲れます…
先ほど「4タイプのなかでもっともばらつきが生じた」とお伝えしました。
それはなぜか…?
テストで使用したミル、KH-3を分解して臼歯を取り出してみました。
数回しか使っていない状態ですが、鋳型が摩耗してへたりきっているのか、溝のモールドがだるだるです。
工業製品というより、中世の遺物のようです(笑)
挽き粉のばらつきが大きいのも、この臼歯をみると納得しますよね。
手動の臼型には比較的安価な製品が多いのですが、ボディが木箱だったりして雰囲気があるものは、コストの多くがその木箱に向けられたりします。
そのぶん、コーヒーのおいしさを決める核心である臼歯が、こんな溝が消えたような鋳物でかんたんに作られてしまうわけです。
この機種をおすすめしている記事もよく見かけますが、執筆者はほんとうに自分で試しているのか、怪しいものです。
それでは次に、同じ臼型でも電動タイプの挽き具合をみてみましょう。
このタイプは「ホッパー(豆受け)」から挽き臼に豆が引き込まれ、すりつぶされたら底の粉受けに排出されます。
電動臼式で挽いたところ、コーヒー豆の薄い表皮が浮いているのがやや目立ちました。
豆を覆うこの薄皮は「チャフ」「シルバースキン」などと呼ばれ、雑味の元凶とされることも。
薄皮が目立つということは、薄皮だけあまり挽かれていないということになります。
大きな破片となって残るため、薄皮による雑味は抽出され過ぎないようです。
とはいえ、微粉は大量に発生しました。
その大半は静電気によって排出口に付着するものの、やはり粉受カップにも出てきます。
そして排出口のほうは、こまめな微粉の手入れが必要になります。
中挽きの所要時間は40秒ほどでした。
次は、プロペラ型の引き具合です。
実験で使ったタイプは手で掴んで使うタイプ。
スイッチを押している間だけ通電し、プロペラ型の刃が高速回転します。
挽き具合の調整は、このボタンのON|OFFだけで行います。
中細挽きの所要時間は、およそ1分から1分30秒。
画像はプロペラ型で挽いた豆です。
この方式は、プロペラ刃が当たるところだけが挽かれます。
なので小まめにスイッチを切っては容器を振り、手首のスナップを効かせて中身を混ぜていきます。
粒同士が激しくぶつかり合う結果、全体に角が削られ丸くなったように見えます。
一見、それなりに均一に挽かれているようですが、実際は……?
ブレードカッター式はご覧のとおり、パウダー状の微粉が大量発生します。
この方式は挽かれたコーヒー豆は排出されることなく、延々と粉砕されるのが特徴。
かけらにばかり注意を向けていると、すでに挽かれた粉の方はどんどん微粉になっていくのです。
気がつけば粒度が揃わないばかりか、苦くて渋い雑味が出やすい微粉ばかりが増えることに。
そしてこのタイプは、
・スイッチを押している時間
・シェイクして内部を均等に混ぜ直す頻度
・手首のスナップ具合
などの条件で変わるため、「前回と同じ粒度に」といった再現性を得ることは、まず不可能です。
次は円板型、フラットカッター型です。
カフェや喫茶店といったプロの現場では、このタイプ、または冒頭でご紹介した臼式の高精度タイプがよく使われます。
この製品の特徴のひとつは、手間いらずなこと。
希望する挽き目に合わせてダイアルを設定し、スイッチを入れたら挽き上がりまで放置でOK。
ただ排出口のまわりに、静電気によってチャフや挽き粉が付着しやすくなります。
実際は電動の挽き臼式ほどではないのですが、排出口と粉受けとの距離があるため、テーブルに粉が散らばることも。
そして、こちらが円板型の挽き豆画像です。
カット式とも呼ばれるだけあり、角の立った挽き上がり。
粒の均等度は他とくらべ、きわだっています。他よりも格段に微粉が少ないことも特徴。
そして10gの中挽き所要時間は、10秒でした。
刃の回転は低速でも、豆を一気に大量に引き込み切削します。
そのため、他のタイプよりも挽きあがりが早いのです。
挽き時間が短いため、挽き立ての香りもほかより保たれます。
それぞれ条件を統一して飲み比べた結果、法則はみごと当てはまりました。
つまり
「微粉が発生しにくく均等に挽ける円板型が、雑味を抑え味や香りを最大に引き出せる」。
そして各種試して味以外の点で痛感したのが、どの記事でもが触れられないこのポイント:
【お手入れの前後で粒度(粉の大きさ)が変わらない】
ということです。
原理的に、プロペラ型は同じ粒度の再現は不可能なので論外です。
臼型も、分解掃除のたびに挽き臼の隙間調整で粒度が変わる…つまり、掃除をするたびにストレスが溜まります。
ともに思い通りの粒度にはならず、納得のいかないコーヒーのできあがり。
一方で粒度が変わらない円板型は、「コーヒー豆も調整時間も無駄にしない」点だけでも大きな価値が。
これは今回のテスト機だけの特徴というわけではなく、構造上の共通点といえます。
再度整理すると
1. 微粉が少ない
2. 粒度が均等
3. 短時間で挽ける
4. 常に目標の粒度が再現可能
これらがコーヒーミル選びのポイントであり、すべて満たした円板型がベスト、となります。
恥ずかしながらこのことに気づくまで30年近く、コーヒーミルに費用を掛ける意義が見出せませんでした。
でも実験の結果、これまで他の方式のミルで時間を無駄にしてしまったことを、激しく悔やんでいます。
方式別でおすすめ順に並べると、以下のようになります:
4位. プロペラ式
↓
↓
3位. 手動の臼式
(※挽き臼がセラミック製なら、電動臼式と大差ありません)
↓
2位. 電動臼式
↓
↓
↓
1位. 円板式
※矢印の多さは主観的な味わいの違いを示しています(笑)
…それぞれの差は、誰が飲み比べても変わらないでしょう。
コーヒー豆の粒度がばらつきによって、それほど明確な差が出るのです。
そして、もし最下位となったプロペラ型を選ぶなら、(語弊はありますが)安物であっても手回し式のほうがまだましです。
ここまでで、コーヒーミルの選び方のポイントがご理解いただけたと思います。
方式別でミルを選べば、失敗することはありません。
逆にいうと、プロペラ型だけは1つも条件を満たさず、おすすめできません。
テストしたのはプロペラ型でも手持ちタイプでしたが、机上に置いたまま使う据え置きタイプはさらに厳しいです。
手持ちならボディを振って混ぜれば、多少なら挽きムラを減らせるからです。
でも据え置き型は文字通り固定されているので、延々と同じ部分を挽き続けます。
その結果、
・刃が当たる部分は挽かれ過ぎ
・刃が届かない部分は挽かれない
という両極端。特に豆の量が多いと顕著で、大量の微粉ばかりか豆が原型で残ることも。
典型的な形を画像にしましたが、見分け方としては以下を参考にしてください。
✕ホッパーの底にプロペラ刃がある
✕コーヒー豆を上から入れ、挽き終わったら上から取り出す
こういうタイプは選ばないでください。
なのになぜか、ほかの「おすすめコーヒーミル」の記事には平気で紹介されています。
この機構はチープなので安価に製造できるうえ、お洒落な外観にデザインしやすいもの。
画像映えするので記事に加えたい気持ちもわかりますが…
せめて本稿をお読みの方だけでも、避けていただければと思います。
話を戻しましょう。
やはり電動の、円板型(フラットカッター)がいちばんです。
カット式は高価ですし、購入にはそれなりの思い切りが必要でしょう。
とはいえ、投資に見合う満足は必ず得られます。
円板型を選んだ方は異口同音に
「いままでのコーヒーにはもう戻れない」
と仰るほど、格段の差があります。
当初は私もテスト用に購入しましたが、結局ここ数年でもっとも満足できた買い物になっています。
…というわけで、ここからはフラットカッター式の具体的なおすすめ品をご紹介します…!
【註記】
厳密には電動の臼型にもよい製品はあります。ところがその多くは家庭用とは言えない容量や価格帯となるため、いまのところ言及していません
粉砕方法のベストは円板型となりましたが、なかでもいち推しは、実験でも用いたカリタの【ナイスカットG】「旧称:ナイスカットミル」です。
同種の他機とくらべ価格がお手ごろで、もっともバランスがよかったためです。
●ナイスカットG
現行機種では、先代から以下が変更されています。
・モーターの回転を少し遅くし、摩擦による発熱を抑制
・ボディ色の変更
・一部機種でプラ製だった粉受けをステンレス製に統一。静電気発生を若干低減
・粉受けの背が高くなり、粉の飛散を抑制
・ホッパー蓋のつまみが大型化
・挽き目ダイアルが、中挽きを意味する「カリタ」という表示のみに
(従来通り粗挽きや細挽きも可能)
・掃除用ブラシ付属
どれもわずかな変更であり、ボディや駆動部は1980年代から変わりません。
通算40年もの歴史があるため、「替刃を交換して25年以上使用」という愛好家も。
まさに「一生もの」ですね。
ただし。
ここ数年は実売価格が上昇し、かつて1万円台半ばだったのが、現在は3万円台後半までになりました。
ここまで値段が上がると、他機種よりお買い得とはいえなくなってきました。
「ナイスカットG」の実売価格上昇のため、それ以外におすすめできる円板型ミルを4つ、理由とともにご紹介します。
そして記事の最後では、手動ミルについてもご案内しています。
●4位:富士珈機「みるっこ R-220」
「みるっこ R-220」は、コーヒー器具メーカー、フジローヤル(富士珈機)のロングセラー。
カリタとはかなり異なる刃づけをしていますが、同じ円板型に分類しています。
みるっこは昔からナイスカットと双璧をなす、定番中の定番品。
性能は勝るとも劣りません。
また、カリタ製のミルはドリップ法が中細挽きのカリタ式に最適化され、粗挽きや細挽き、とくに粗挽きがやや苦手ですが…
富士珈機のつくる「みるっこ」は、特定のドリップ法にはくみしません。
エスプレッソ用の極細挽きに特化した「カット臼」という種類も販売されていて、用途別に選択も可能。
みるっこをナイスカットGと比較した際、大きな難点は価格差です。
以前は同程度の実売価格でした。
ところがこちらは頻繁に価格改定を繰り返した結果、現在の5万円に近い実売価格です。
以前同様の価格差ならば「みるっこ」をすすめるのに、残念です。
●3位:カリタ 業務用「ハイカットミル」
ハイカットミルはナイスカットGの上位機種で、業務用のカテゴリーです。
業務用として、さらに均質&大量に、短時間で挽けるのがポイント。
実のところ、業務用には富士珈機のR-440ほか、すぐれた機種がほかにも多数あります。
なぜここでハイカットミルをおすすめするかというと、実売価格の相対的な安さからです。
今のところ値引き幅が大きく、プロ用なのに他のハイアマチュア機種との価格差がほとんどないのです。
割安な業務用としては、こちらが断トツです。
ただし、自宅で使うには若干のハードルも。
こちらのミルは、全高 52cm、重さ 11kg。
シルエットは同じでも、他よりひと回り以上大柄なのです。
大柄なことにも理由があります。
1つはもちろん、大量処理が必要な業務用だから。
もう1つは大型モーターの回転トルクを活かし、低速でも力強く挽くためです。
高速回転で発生する摩擦熱は、コーヒー粉の酸化を促す影響があるとされます。
正直なところ、焙煎の加熱がよくて摩擦熱がだめな理由を理解できていませんが(笑)
上位ミルほどモーターが大型化・低速化するのは、必然なようです。
ともあれ設置場所に余裕があれば、これは価値の高い品です。
●2位:カリタ「NEXT G(ネクストG)」
ネクストGの名は、次世代=NEXT Generationが由来。
次世代らしく?シュッとしていますよね。笑
余談ですが、ネクストGが発売された際、ナイスカットが一時廃番になっていました。
どうやら完全に世代交代する計画だった様子。
でも廃番後もナイスカットの人気が根強く、急遽「ナイスカット"G"」として復活させた…
ナイスカットGとネクストGが紛らわしい理由には、そんな背景があるようです。
さて、ネクストGには以下の特徴があります。
・鋼鉄の刃がセラミックに
・静電気除去機能により粉末の飛散を抑制
・スイッチが本体背面から正面に移動し、操作しやすく
・モーター速度を半分に落とし、発熱と騒音を低減
モーターの低速化で挽き時間が伸びた以外は、正常進化といえます。
ロングセラーの系譜「ナイスカットG」か?
新機軸搭載の次世代「ネクストG」か?
以前は倍近い価格差だったのが、’20年には前者の実売価格が高騰、後者が下がったことで、ほぼ同価格帯に。
実に悩ましい選択となりました。
浅煎りが好みで、静電気による粉末飛散が気になるならネクストG。
そうでないなら従来のナイスカットG。
そんな選びかたでよいかもしれません。
●ラッキーコーヒーマシン「ボンマック bonmac BM-250N」
ナイスカットG以外のおすすめ1位は、「ボンマック BM-250N」です。
これまで挙げてきた機種はすべて国産でしたが、実売3万円以上。
そしてこちらだけは台湾製で、1万円台後半の実勢価格です。
たしかに中華製で他に安いものはあれど、カタチだ模倣したトンデモ品が多くヤケドのもと。
一方このボンマックBM-250Nは、UCC上島珈琲グループのラッキーコーヒーマシン社製です。
同社の製品はサードウェーブコーヒーの代表格、「ブルーボトル」などにも採用されています。
本品は2010年発売で、すでに信頼の実績が積み上がっているほか、他の先行商品をよく研究しています。
あらゆるものが値上がりする昨今、均等な粒度、静音性など、性能面でほかの高額品と拮抗しているBM-250N。
お値頃感がたいへんに高いコーヒーミルです。
ただし一回あたりの製造量が少ないのか、しょっちゅう欠品します。
そして市場在庫が少なくなるたび、転売ヤーが価格を吊り上げてきます。
「BM‐250Nの適正価格は2万円未満」と覚えておいてください。
ナイスカットGの価格相場は、ここ数年で上昇を繰り返してきました。
数年前には2万円もしなかったものが、昨今の外出自粛で人気が上昇、現在は倍額になっています。
一方でネクストカットGは3万円台なかばで安定しているため、両者の価格差はほぼないか、あるいは前者が在庫切れで転売対象にされ、価格が逆転することも。
…ここで少し、下世話なお話をしますね。
ここまでご紹介した円板型(フラットカッター型)は、数十年間も生産されてきたものが中心です。
進歩の早い電化製品で、これほどモデルチェンジがないことに唖然としますが(笑)
頑丈だし、補修部品も豊富でこの先さらに何十年と使えることもあって、値崩れもわずかです。
「数年後に手放したところ、入手当時と大差ない値段で売れた」
といった意見が多く見られるのですが、需要が増え続ける現状を考えれば、至極当然。
いわゆる「リセールバリューが高い」わけですね。
円板型が高いからと言って、味わい面で劣る安価なミルに寄り道するのはもったいない!と申し上げる背景には、そうした事情も含まれます。
長い目で見て遙かにお得であること、ご理解いただけるのではないでしょうか。
ここまでで、5つのベストバイ機種をご紹介してきました。
・ナイスカットG(カリタ)
・みるっこ(富士珈機)
・ハイカットミル(カリタ)
・ネクストG(カリタ)
・ボンマック BM-250N(ラッキーコーヒーマシン)
「おいしいコーヒー粉の科学的な条件」をもとに選ぶと、結局、プロやコーヒー通にも選ばれる製品ばかりが残りました。
どれも数万円クラスでは間違いのない機種です。
他の粉砕方式は安価ですが、残念ながらコーヒーの味わいを大きく損なうため「選外」です。
29年も無駄にした私のように、遠回りする必要はありません。
一方で極端な話、ミルの方式さえフラットカッター式なら、あとはどれを選んでもさほどの違いはありません。
そうなると、決め手はやはりコストパフォーマンスとなります。
実はこれらの機種でも、微粉の100%除去は無理です。
粒度の均一性を求めはじめると、数十万円する機種まで存在しますが、「豆を粉砕する」という原理に立脚している以上、どんなに高額でも微粉ゼロはありえません。
よほどのコーヒー求道者でない限り、価格と性能のバランスから考えると、ご紹介した5点の電動ミルが最適解となります。
数万円の投資でリセールバリューが高く、しかも何十年も満足が続くのです。
どれを選んでも価値ある買い物です。
それでも「電動は予算が…」「やはり手挽きがいい!」とお考えでしょうか。
その際の選び方もお伝えしましょう。
ご注意いただきたいのは、
【木製など一見クラシックな工芸品調】の手動ミルには手を出さないで、ということ。
【臼歯がセラミック製のモダンなミル】を選んでください。
理由はずばり、「精度」。
工芸品風でも、何万円もする本格派なら安心できます。
でも数千円レベルで精密な加工は期待できません。
メーカーが限られた原価しか割けない場合、
A 人の手で加工が必要な木箱にまでコストを掛けるか
B ミルの核心たる挽き臼に集中的にコストを掛けるか
…「味」を優先するなら、答は明らかです。
工芸品調は飾るのに向いても、回転軸がぐらつき粒度が揃わず。
一方、大量生産でも精度が維持しやすいセラミック製の挽き臼なら、欠点の多くは解消されます。
また、セラミックは水洗いできるメリットも。
ただし
・挽き上がり時間
・腕の疲れ
・粒度調整の手間
・味わい
の4点で、電動円板型の完勝であることもお忘れなく。
将来この形式を入手する日が来たら…
「無理しても最初からこちらにすればよかった!」
と後悔なさることでしょう。
以上をご理解いただいたうえで、手動ミルのおすすめを2つ、ご紹介します。
手動ミルの選び方につづき、具体的なおすすめ商品を2つご紹介します。
(電動を含めた総合ベストは、少し上に記しています)
画像はジャパン・ポーレックス社の製品。
手挽きミルでは定番といえる存在で、鹿児島県霧島市で製造されています。
▶ポーレックス「コーヒーミル2 ミニ」
画像は2杯分[20g]のミニタイプで、コーヒー約3杯分[30g]が挽ける通常タイプもあります。
ミニの方は持ち手部分を黒いシリコンベルトに通して携帯でき、まあまあコンパクトに収納可能。
キャンプなどでコーヒー通を気どれそうですよね。
なおこちらの商品には、大量に模倣品が出回っているのでご注意を。
とくに海外製は見た目だけを安易に剽窃したものが多く、軸がぐらつく、回転が渋いといった典型的な「安かろう悪かろう」が多く見られます。
なお、ポーレックス社が自社開発したセラミック臼の完成度は、他の日本製と比較しても一日の長あり。
ここ数年で
・ハンドル接合穴の固定度上昇
・挽き臼の溝刃を増やすことで挽き粉の粒度安定
といった改良を繰り返しています。
ご紹介しているものも、2019年末に発売された最新の改良タイプです。
地道な取り組みですが、真摯なものづくりへの姿勢は高く評価できます。
最後に、2016年の発売以来、手動ミルの一番人気もご紹介します。
日本の耐熱ガラス器具メーカー、HARIO社製のこちらです:
▶ハリオ 手挽きセラミックコーヒーミル スケルトン MSCS-2B
低価格ミルの最低条件である「セラミック製の臼」を備えていますが、ポーレックス社製の「手にしたときのよろこび」的なものは、正直希薄といえます。
ただし。実売はポーレックスが3個買えそうなほどにお安いのです。
ちなみに容量は、コーヒー10杯分に相当する100g。
電動ミルでも50gクラスが多いなか、特徴的なサイズです。
実際そんなに挽くのは腕が疲れますし、たくさん挽いて長期保存するくらいなら、そもそも挽き粉を買えばよい話です。
なので一見、無駄に大きすぎるといえます。
でも大柄ゆえに接地面積が広く、どっしり安定して挽けるという利点があります。
なお、ほぼ同じ価格・同じ機構で容量が2杯分、というスリムタイプもあります。
安定度は一歩譲るものの、サイズ的にはスリムもよいですね。
▶ハリオ セラミック スリム MSS-1TB
どちらも安価なので、「はじめての手動コーヒーミル」としておすすめできます。
長文をお読みいただき、ありがとうございました。
最後に再度、要点をまとめます。
★失敗しないコーヒーミルの最低条件
・微粉が少なく、均等な粒度で挽けること
・掃除後もただちに目標の粒度が再現できること
これらを満たす電動のカッティングミル、円板型があらゆる点でベスト。
たとえ初期投資がかさんでも、10年単位で満足が続くことを考えると、結局は割安な投資です。
--
今回の記事は、わたしのようにコーヒーミル選びで失敗する人を少しでも減らしたいとの思いから書きました。
ここでとりあげたミルの大半は、30年~50年も大きなモデルチェンジがない商品です。
市場規模が小さいゆえか、枯れた技術で完成しているのか。
この先、目を見張る技術革新でも起きれば別ですが…
今回のおすすめは今後も当分、揺るぎないベストでありつづけるでしょう。
コメント
全て既読にする
コメントがあるとここに表示されます