コーヒーの抽出方法って、いろいろですよね。
昔ながらのサイフォンやパーコレーター。
紅茶のようにシリンダーを押し込むフレンチプレスや、エアロプレス。
エスプレッソにだって、複数の方式があります。
日本でもっともポピュラーなのは、ドリップ式。
最近では「コーヒー粉の上からお湯を注ぐ」意味で、「ポア・オーバー」(pour over)という呼び名も普及してきました。
このポア・オーバーに使うフィルターには、布製(ネル)や金属製などがあります。
でも主流は紙製、ペーパーフィルターですよね。
ところが。
ペーパーフィルターでコーヒーを淹れると、「コーヒーオイル」の多くが濾過されているのはご存じでしょうか。
コーヒー豆には、生豆の状態で10%~16%ほどの脂質が含まれるそうです。
思いのほかオイリーだとお感じになりませんか?
でも、ペーパーフィルターで油っぽさを感じるなんてことは、まずないですよね。
紙パルプを構成する繊維質のセルロースは、油分を絡めとりやすい構造をしています。
天ぷらを揚げたときに敷く紙や、あぶらとり紙などは、まさに油分を吸着するためのもの。
そして、コーヒー豆のコーヒーオイルが吸着されると…
とろりとした舌ざわりや、オイルに溶け出した親油性、つまり油脂に溶けやすい性質をもつ香り成分の多くは除去されてしまうのです。
実のところ、油分を除去するのは悪いことばかりではありません。
コーヒーの雑味には、親油性の成分だってあります。
ペーパーフィルターは、そうした親油性の雑味を濾してくれる効果があるわけです。
とはいえ、乳化した脂質がもたらすまろやかさや芳醇な香りまでが失われるのは、やはり残念ですよね。
では、同じフィルターでも、金属製や布製(ネル)はどうでしょう?
金属のフィルターは逆に、粉を濾すことしかできません。
しかも、網目より細かい粉末は完全スルー。
これはフレンチプレスやエアロプレスでも同じです。
コーヒーの成分は、よいも悪いもすべてが素通し。
一方、ネルフィルターは…
紙のフィルターほど濾しとられず、適度に油分を通します。
コーヒーオイルを多めに残すことで、まろやかさ、そして油分に溶けた香味が楽しめるわけです。
ただし!実はネルといっても千差万別。
・材質(木綿100%か化繊混紡か)
・番手
・織りかた
・起毛しているのは表面だけか両面か)
・全体の形状
これらの要素が絡み、メーカーや商品ごとに味わいが異なります。
以前、ネルを10種ほど揃えて飲み比べたことがあります。
すると驚いたことに、純綿のネルは、ペーパーフィルターと大差ないことがわかりました。
木綿も紙も、本質的にはセルロースの繊維。なので、吸着具合が似ているのかもしれません。
そして意外だったのが「ポリエステル混」。とにかく味わいがまろやかになるのですが、なかでも「丸太衣料」さんのネルフィルターは衝撃的なおいしさです。
一度使うと、そこいらのお店のコーヒーが飲めなくなることうけあいです。
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それでも、ネル製のフィルターって取り扱いがめんどうですよね。
使用後は毎回の洗浄はもちろん、なるべく煮沸。
そして、保存するには水に浸けておく必要が。
なぜ水にひたすかというと、ネルはとにかく周囲の匂いを吸着しやすいため。
乾いたままだと、キッチンのひきだしや、冷蔵庫などの独特な匂いが移ってしまいます。
また、タオルで水気を取るのも注意が必要。
たとえば、タオルに柔軟剤を使っていると…
「ダウニー」の香りつきコーヒーになることも。
これは実話です(>_<)
もちろん、ネル自体を洗剤で洗うのだって、本来はNG。
無香料や自然素材の石けんであっても、その素材独特の匂いが移ります。
匂いの除去のために流水にさらすなど、気が遠くなる作業が必要です。
このように、ネルの取り扱いは手がかかります。
…前置きばかりが長くなりました。
ようやく本題です。
とにかく手間の掛かるネルフィルターに代わり、ペーパーフィルターでネルドリップに近い味を出すワザ。
…といっても、とても簡単!
ペーパーフィルターの底近くに、針で穴をあけるだけです。
針穴によって、ネルの微細な隙間を再現する寸法です。
以下、順にご説明します。
※ここでは、コーノやハリオV60といった、円錐状のペーパーフィルターを例にしています。
※扇形のカリタやメリタ式も、同じ方法が使えます。
※ただし構造的に穴の数が増えるため、手間だし雑味も目立つので、あまりおすすめできません。
ペーパーフィルターは畳まれた状態のまま、底寄りに針先で穴をあけていきます。
並び方は図①のように、底を起点として、半径1〜2cmほどで4分の1の円を描くように。
・何個穴をあけるかは、針の太さ次第
・どこまで底に近づけるかは、状況次第
となります。
当然ですが、折り目の部分まで穴をあけなくてもかまいません。
「針先を思い切り突き通して、はっきりとした穴をあける」のではありません。
コツは尖端が「プツッ」と突き通った感触を指に感じる程度。
そのあたりで止めるのがよいようです。
(指の怪我にはご注意くださいね)
はっきりと見える穴ではなく、ほぼ見えない程度で大丈夫。
穴の直径が大きすぎると、コーヒー粉が漏れ出るおそれがあります。
そしてそればかりではなく、穴からお湯が流れやすく、抽出時間が短くなるのです。
つまり、うまみや香りがじゅうぶん取り出せないことに。
このような理由から、画鋲やアイスピックなどの太い針先はおすすめできません。
まち針のような細めの針は、穴の直径が小さいぶん、多めにあけます。
そしてミシン針のように少し太めの場合、フィルターを畳んだ状態で、2~4カ所ほど開けるのがよさそうです。
図②は、穴をあけたフィルターをひろげ、上からのぞき込んだ状態。
フィルター底部を囲んで、穴がぐるりと並ぶイメージです。
──
ペーパードリップで淹れたコーヒーを、ネルドリップ並みのまろやかさにする小ワザ。いかがだったでしょうか。
この方法で淹れると、一般的なネルドリップに近い、まろやかな味わいが再現できます。
ただし…穴をあける以上、どうしても微粉のほか、雑味も出やすくなります。
フィルターを使わないフレンチプレスやエアロプレスみたいな、若干荒々しい味わいが加わってきます。
また、あけた穴によって抽出が少し早まるので、コーヒー豆の蒸らし時間は少し長めにするとよいようです。
たまに遊び感覚でやってみると、ふだんとはひと味違うコーヒーが楽しめますよ。
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