「鱧」といえば、料亭でふるまわれる高級魚のイメージが強い人もいるかもしれません。
実は、鱧には旬が二度あるのだとか。本記事では、鱧の旬の時期や産地、美味しい料理法を紹介します。
鱧の旬
鱧の旬は一年に二度あり、一度目の旬と二度目の旬では味わいが異なります。鱧の旬の季節は下記のとおりです。
一度目の旬:夏
鱧の旬が二度あるのは、産卵期が関係しています。一度目の旬は、産卵前の初夏から夏にかけてです。
鱧の産卵期は8月。産卵に備えて春の間に栄養をたっぷり蓄えた身は、ほどよく脂が乗っているものの、さっぱりとした味わいです。
初夏の代表的な鱧料理が「鱧のおとし」。鱧を熱湯に通して氷水でしめ、酢味噌や梅肉をつけて食べるのが定番です。
二度目の旬:晩秋
鱧の二度目の旬は、晩秋である11月頃です。名残りの季節に獲れることから「落ち鱧」、体表が金色を帯びてくることから「金鱧」と呼ばれることもあります。
この時期の鱧は、冬眠に備えて身に栄養を蓄えています。そのため、夏のものより脂が乗って美味しいと評する人もいるほど。一度は味わってみる価値がありそうです。
鱧の有名な産地
鱧は温かい海水を好むため、鱧の有名な産地は西日本が多くなっています。具体的な産地を紹介します。
瀬戸内海沿岸
鱧の最も有名な産地は、瀬戸内海沿岸です。兵庫県・愛媛県・徳島県・山口県・和歌山県などで水揚げされ、京都や東京の築地にも流通しています。
特に、淡路島の鱧は有名です。1匹ずつ丁寧に釣りあげられるため傷が少なく、「べっぴん鱧」と呼ばれています。
この1匹ずつ釣り上げる方法を「はも延縄」といい、沼島の漁師が鱧を生きたまま獲る方法として始めたと言われています。
また、淡路島と同じ兵庫県では、神戸市が鱧の産地として知られています。近年、神戸の新名物として広がっているようです。
関西
関西地方では、大阪湾や伊勢湾で鱧が水揚げされています。漁獲量は瀬戸内海沿岸地域ほど多くはないものの、大阪府や三重県でも良質な鱧が獲れます。
「鱧」といえば、京料理を連想する方も多いのではないでしょうか。鱧は関西の夏の風物詩として、京都の「祇園祭」や大阪の「天神祭」などで重宝されてきました。
鱧は生命力が強く、生きたまま運びやすい魚です。冷凍技術が発達していなかった時代でも、鱧なら傷むことなく京都へ届けられたのだとか。
鱧料理が京都で有名なのも、この点が理由だといわれています。
現在でも京都では、前述の瀬戸内海沿岸や九州などから、時期に応じて一番美味しい鱧を仕入れています。
九州
大分県中津市は、豊前海で獲れる鱧が有名です。波が穏やかで太陽光が海底まで届き、水温が高めになるため、鱧が好む水域だと言われています。
豊前海産の鱧は「つの字鱧」「真鱧」などと呼ばれ、骨が柔らかく細かい骨切りが可能で、食べやすいのが特徴です。
九州では、その他に長崎県も鱧の産地です。しかし、長崎県で水揚げされた鱧の多くは、京都に送られます。
鱧の細かい骨を食べやすく切る「骨切り」ができる職人は少なく、鱧は獲れるが地元ではそれほど食べないという地域もあるようです。
北海道
鱧は温かい海水を好むため、北海道は鱧の産地ではありません。しかし、北海道ではアナゴのことを「ハモ」と呼ぶ地域があります。
苫小牧や道南地方で、ハモ(アナゴ)の釣りスポットが多く存在しています。
鱧の特徴と栄養
鱧は西日本では良く知られた魚ですが、東日本ではそれほど食べられていません。鱧が身近でない方は、この機会に鱧の特徴や栄養について知っておきましょう。
鱧の特徴
鱧はウナギ目ハモ科に属するウロコのない魚です。世界には8種類の鱧がいますが、日本に生息しているのは3種類。
見た目はウナギのように細長く、サイズはウナギよりもかなり大きく、2m以上になるものもいます。
また、温かい海水を好み、水深120mよりも浅い砂泥底に多く生息しています。
鱧の口には鋭い歯が並んでおり、大きな口で餌となる魚を丸飲みします。イカやタコ、カニなども好んで食べるというから驚きです。
性質は狂暴で、「鱧」という名前は人を噛むほど狂暴なため「食む(はむ)」から付けられた、という説があります。
鱧の価格は?
基本的に鱧の需要が減る冬場は価格が安く、夏の前後が一番の高値となります。
西日本では鱧は7月頃からスーパーに出荷されますが、東日本ではめったに見かけません。
鱧の栄養
鱧に多く含まれる栄養は、下記のとおりです。
3大栄養素のひとつであるタンパク質は、筋肉や内臓、皮膚や髪の毛の元となる成分です。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨の成長を促します。
ナイアシンはビタミンB群の仲間で、エネルギー産生やアルコールの代謝、DNAの修復などさまざまな働きがあります。
ビタミンB12は、赤血球の生成を助ける成分です。体の機能を正常に維持するのに役立ちます。
リンは、歯や骨を形成するのに必要なミネラルです。
また、鱧の皮にはコンドロイチンが含まれています。コンドロイチンは高い保水力を持つ成分で、肌のうるおいを保つ・関節をスムーズに動かすのに役立ちます。
鱧の目利き・下処理方法
鱧を美味しく食べるには、鱧の選び方と下処理が重要です。鱧の目利きの方法と下処理方法について解説します。
美味しい鱧の目利き方法
鱧を丸ごと1本購入する場合は、活〆されたものがおすすめです。
鱧の血液にはウナギと同様に「イクシオトキシン」という毒成分が含まれているため、血抜きがしっかりとされたものを選んでください。
大きすぎるものは骨も成長し硬くなっているので、一般家庭で処理するのは不向きです。
スーパーなどで売られている開いた状態の鱧は、身に透明感があるものを選びましょう。
鱧の骨切り
鱧は小骨が無数にある魚で、全て抜くのは難しいため、細かく包丁を入れる「骨切り」という処理を行います。
骨切りは、皮を切ることなく1寸(約3cm)に24〜26筋入れるという難しい作業です。習得するのに10年かかるとも言われています。
骨切りはプロの技術が必要となるため、スーパーの多くは機械で骨切りして鱧を販売しています。
鱧の料理法紹介
鱧は下処理に手間がかかりますが、うまみがあって美味しい魚です。産地や通販などで食べられる、さまざまな鱧料理を紹介します。
しゃぶしゃぶ
骨切りされた鱧の身を、野菜などと一緒に出汁で食べる「しゃぶしゃぶ」は絶品です。
鱧料理の中でも、脂を落とすことなく味わえる人気の一品。
鱧にスダチを絞っても美味しくいただけます。シメは雑炊がおすすめ。鱧の出汁を最後まで堪能できます。
刺身・寿司
生の鱧は、現地でなければ食べられない料理のひとつです。
手間暇かけて骨が切られた「薄造り」は、食通の間で人気の料理。数枚まとめて食べると、口いっぱいに鱧のうまみを感じられます。
前述の通り鱧の血には毒性があるため、一般家庭では生食はできません。
鱧の刺身や寿司は珍しいので、機会があればぜひ食べてみてください。
湯引き
湯引きは、鱧の身を茹でて氷水で〆たもの。骨切りされた鱧の身がキュッと引き締まり、花が咲いたような美しい見た目です。
余分な脂が落ちて、プリプリとした食感が病みつきになります。
京都では出し汁で茹でた鱧を、〆ずに温かい状態で提供する店もあります。身のうまみが凝縮されるそうです。
天ぷら
薄く衣をつけてカラっと揚げた鱧の身はうまみが凝縮され、塩だけでも十分美味しくいただけます。自宅で鱧の天ぷらを食べるときは、スダチや山椒塩を添えるのもおすすめです。
京都の錦市場では、鱧の天ぷらを串に刺し、1本500円で販売している店があります。観光の折に訪れてみてはいかがでしょうか。
鱧の旬を知って美味しく食べよう
鱧は一年に二度旬を迎える魚で、京都の鱧料理が有名です。
小骨がたくさんあるため「骨切り」と呼ばれる下処理が必要ですが、色々な料理で楽しめます。
暮らし二スタではさまざまな食材の旬や産地を紹介していますので、ぜひご覧ください。
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