
茅(ちがや)は、ススキやアシと同じく、日本の風景に古くから親しまれてきたイネ科の多年草です。
畑や河原、空き地などにたくましく生え、その姿からも生命力の強さがうかがえます。
庭の手入れをしていると、思いがけず茅に出会うこともあるでしょう。
抜こうとしても簡単には抜けず、そのしぶとさに驚かされた方も多いのではないでしょうか。
では、なぜ茅が特別な植物とされ、神事に用いられる「茅の輪」に編まれるようになったのでしょうか。
それは、茅がかつて茅葺屋根の材料や生活道具として用いられ、人々の暮らしに深く関わってきた植物であることに加え、枯れても翌年には新しい芽を伸ばす姿が「再生」や「命の循環」を象徴すると考えられてきたためです。
このような自然への畏敬と感謝の思いが信仰へと発展し、日本神話に登場する「蘇民将来(そみんしょうらい)」の伝説へとつながっていきます。
物語では、心優しい蘇民が旅の神をもてなしたお礼として授かった茅の輪が、「厄除けの護符」として後の世に伝えられたとされており、この伝説が茅の輪くぐりの起源ともいわれています。
「茅の輪(ちのわ)くぐり」という言葉を耳にしたことはありますか?
これは、毎年6月末に全国の神社で行われる「夏越の祓(なごしのはらえ)」という神事の中心となる行事です。
私たちは日々の暮らしの中で、知らず知らずのうちに心や体に“罪”や“穢れ(けがれ)”を溜めてしまうと考えられています。
茅の輪くぐりは、その穢れを清め、厄災を祓い、残りの半年を健やかに過ごすことを願うための大切な儀式です。
とくに、太陽の力が最も強まる「夏至」を過ぎたこの時期に行われることには、深い意味があります。
自然の大きな節目にあたるタイミングで、その力を借りて心身を整える――。
それは、植物や庭木、自然とともに生きたいと願う私たちにとって、心に深く響く日本の伝統行事といえるでしょう。
茅の輪くぐりの作法はとてもシンプルですが、その所作ひとつひとつに深い意味が込められています。
基本的な作法は以下の通りです。
茅の輪の前で一礼する
「8の字」を描くように、茅の輪を3回くぐる
輪をくぐる際には、次のような祝詞(のりと)を唱えます。
水無月の夏越の祓(はらえ)する人は
千歳(ちとせ)の命延(の)ぶというなり
これは、「夏越の祓を行うことで、千年の命が延びるといわれている」という意味です。
「8の字」は無限や命の循環を表す形とされており、その道筋をたどることで心身を清め、長く健やかに生きることを願う儀式なのです。
茅(チガヤ)は、河原や土手、野原など、日当たりと風通しの良い草地に自生しています。
以下の特徴を手がかりに探してみましょう。
チガヤの見つけ方のポイント:
・日当たりと風通しの良い場所(例:河川敷、野原、土手など)
・細長く先のとがった葉で、葉の縁には小さなギザギザがある
・白っぽい穂を出す(初夏〜夏にかけて)
・地下茎で根元からまとまって生えていることが多い
ススキやカヤツリグサなど、チガヤに似た植物も多く見られますが、穂の形をよく観察することで見分けやすくなります。
なお、2025年6月19日時点の多摩川の土手では、穂をつけたチガヤはほとんど見られませんでした。
見つけるコツは、田んぼのイネのように、1本ずつまっすぐ立っている草を目印に探すことです。
この日は、セイバンモロコシという外来種が特に多く見られました。
チガヤに非常によく似ていますが、まったく別の植物なので、間違えないようご注意ください。
観察時の注意点:
ちなみに筆者は、半袖で草むらに入り、葉の縁で細かな切り傷をたくさん負いました。
チガヤの葉は縁が鋭く、他にも鋭利な草が生えている場合があります。安全のためにも、長袖・長ズボンの着用がおすすめです。
採取した茅の穂を庭や植栽の中に放置しておくと、風に乗って種が運ばれ、やがて庭全体に自生してしまう恐れがあります。
茅は生命力が非常に強く、繁殖力も高いため、意図しない場所に広がると管理が難しくなることがあります。
茅を採取する際は、自然環境やご家庭の庭・植栽への影響を考慮し、適切な取り扱いや保管方法を心がけてください。
茅(ちがや)は、古くから日本で「厄除け」や「無病息災」を願うお守りとして親しまれてきました。
そこで今回は、私も手作りのお守りづくりに挑戦してみました。
モチーフに選んだのは、無限や循環を象徴する数字「8」。この発想からヒントを得て、茅を8本使って編んでみることにしました。
…とはいえ、三つ編みすらおぼつかない筆者。編み方はなんとなくですが、気持ちだけはたっぷり込めて、一生懸命編み上げました!
■作り方のヒント
1.茅をなるべく長くて柔らかいものを8本採取し、結ぶ用にもう1本用意する。
2.手でしごいて整え、手のぬくもりで少しずつ柔らかくする。
3.4本ずつに分けて、ざっくり編んでいく。
4.編み始めと編み終わりの端を「ぎゅっ」と結んで輪にする。
5.出っ張った茅はハサミでカットし、全体の形をぎゅっぎゅっと整える。
6.完成!
乾くと少し縮むので、気持ちゆるめに編むのがコツです。
このお守りには、自然の力と、手作りの温もりが込められています。お子さんやご家族に贈れば、きっと心強いお守りになりますね。
筆者も息子たちのことを想い編みました。
茅の輪は、自然とともに暮らしてきた人々の知恵と願いから生まれた、日本の美しい風習です。
一年の折り返しにあたるこの時期に、自然の力を借りて心身を整えるこの行事は、現代を生きる私たちにも深い癒しと気づきを与えてくれます。
筆者自身も茅のお守りを手作りしながら、これまでの反省や、これからの過ごし方について静かに向き合うことができました。
今年の夏は、茅のお守りを手作りして、自然とつながるひとときを過ごしてみませんか?
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