あるとき、山折さんは学生に
「筆記用具を全部しまうように」と言いました。
最初、きょとんとしていた学生は、何度か同じことを言われしぶしぶ筆記用具をしまいます。
さらに山折さんは
「姿勢を正すように」と言います。
しかし、学生は姿勢の正し方が分かりません。
山折さんが
「背筋を伸ばして、顎を引いて、肩の力を抜いて」
と具体的に指導すると、姿勢を正せるようになります。
姿勢を正せるようになると、それまでざわついていた教室が少し静かになります。
続いて山折さんは「深呼吸」をさせます。
これもまた、どうやったらいいのかわからないので
鼻呼吸、喉呼吸、胸呼吸と、「腹式呼吸=丹田呼吸」の違いを説明し、
お腹で呼吸する方法を指導します。
また、呼吸にはリズムがあることも説明します。
1,2で息を深く吸って、
3,4,5,6でゆっくり息を吐き、
7,8で止める、というリズムです。
姿勢も正しくなり、呼吸も整ってきたら今度は目をつぶるように言います。
学生は、普段目をつぶる機会がないため、なかなかつぶりません。
繰り返し指導する事で、学生は目をつぶるようになります。
ここまで30分ほどかかるそうですが、
このころには教室はシーンと静まり返るようになるそうです。
こうなった段階で、山折さんはこういう話をされたそうです。
「今、諸君は初めて『ひとり』になった。心の中では雑念・妄想がいろいろと、
不平不満を含めて湧き上がっているだろう。それはそれでいい。
その雑念・妄想・不平不満と向き合いなさい。ものを考えるとはそういうことです。
姿勢を正し、呼吸を整え、目をつぶり、そして『ひとり』になったとき、
初めてものを考える体制ができます。それが出発点です。」と。
山折さんがヨーロッパの修道院を巡った時に修道士の方に聞いてみたところ、
祈りの姿勢に決まったものはなかったそうです。
「ひとり」の時間に型があるのも日本ならでは、とのこと。
あわただしい時期こそ、姿勢を正し、呼吸を整え、目をつぶり、
「ひとり」の時間をしっかりと確保して心穏やかに過ごしていきたいですね。
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