病院にかかったとき、なんらかの公的な医療保険(健康保険)に加入していれば、3割の自己負担で病院にかかれます。しかし、健康保険に加入していなければ、かかった医療費全額を自分で払うことになります。退職する前に、退職後の健康保険(公的医療保険制度)について検討しておきましょう。
退職後の健康保険の選択肢は、「健康保険の『被扶養者』になる」「今まで加入してきた健康保険の『任意継続被保険者』になる」「お住まいの市区町村の国民健康保険に加入する」の3つの選択肢があります。※下記表1参照
まず検討したいのは、保険料負担がない「被扶養者」「被扶養者」の要件を満たせなければ、「任意継続被保険者」になった場合、「国民健康保険の被保険者」になった場合の保険料を調べて、保険料負担の少ないほうを選ぶとよいでしょう。
配偶者や父母などのご家族が会社員等であれば、ご家族が被保険者として加入している健康保険の「被扶養者」になれないか検討をしてみましょう。被扶養者には保険料負担はありません。
しかし、求職活動中に雇用保険の基本手当(失業等給付)を受給していると、収入の要件(※下記表3参照)を満たせない場合が多いでしょう。基本手当の受給額が日額3,612円以上あると、被扶養者にはなれません。
健康保険の事業を運営する保険者は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)と健康保険組合があり、健康保険組合は組合ごとに規約が決められています。ご家族の勤め先等で事前に保険者を確かめ、手続き方法や必要書類なども調べておきましょう。
退職までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間があれば、退職後2年間は、加入していた健康保険に任意継続被保険者として加入することができます。保険給付は原則として在職中の被保険者と同様ですが、傷病手当金(※2)や出産手当金(※3)を受けることはできません。
会社に勤務していれば保険料は事業主との折半ですが、「任意継続被保険者」の保険料は全額自己負担です。ただし、単純に在職中の健康保険料の額が2倍になるというわけではありません。保険料は退職時の標準報酬月額(※4)に料率を掛けて計算されますが、標準報酬月額には上限(協会けんぽの場合は28万円)があります。保険料は原則として2年間変わらず、前納すると保険料の割引もあります。
※2傷病手当金:被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される手当金
※3出産手当金:出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に、会社を休んだ一定の期間を対象として支給される手当金
※4標準報酬月額:被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分したもの。健康保険や厚生年金保険の保険料の額の計算などに用いられる。
国民健康保険の手続きは、お住まいの市区町村の役所で行います。故郷に戻られるのなら、故郷の市区町村役場に問い合わせましょう。
国民健康保険の保険料の計算方法は市区町村によって異なりますが、計算の基準となるのは、前年の収入です。つまり、年度途中で退職してその年の収入は少なくても、前年の収入が多ければ、保険料は高くなります。市区町村の窓口やホームページ等で国保に加入した場合の保険料を確かめておきましょう。ホームページで保険料が試算できる市区町村もあります。
退職前後は仕事の引き継ぎ等もあり忙しいですが、病気やけがへの備えに空白は作れません。健康保険関連の手続きには期限もあります。早めに退職後の健康保険について情報を集めてどの健康保険に加入するのかを決め、必要な書類も準備しておきましょう。
大林香世 ファイナンシャル・プランナー
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本FP協会CFP(R)認定者
ライフプランから見て無理のない住宅購入計画やローンプラン、保険や相続、資産運用などの相談支援業務を行っている。各種セミナー講師、新聞・Webサイト等へのコラム執筆でも活動中。
【参照記事】https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-0996/
コメント
全て既読にする
コメントがあるとここに表示されます