中古住宅の流通比率が高い欧米では古くから、当たり前のように行われている「リノベーション」。対して日本では、戦後から高度経済成長期に住宅不足を解消すべく、新築住宅の大量生産・大量消費が進められてきました。そのため、「マイホーム=新築」というイメージが浸透。新築を好む風潮や、地震大国ゆえ建物の寿命が短い事情も一つの要因でしょう。
しかし、少子高齢化や人口の減少により、中古物件の空き家が目立つように。総務省統計局が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」によると、2013年時点で空き家率は、13.5%に達しています。
このまま新築住宅を供給し続けると過剰供給となるため、2006年に「住生活基本法」が施行されました。これを機に、新築住宅を建てては壊している現状から脱却し、良質な住宅を作って長く大切に使う「ストック重視」に方向転換したのです。
中古住宅の流通を促進する理由は他にも、環境保全やコストパフォーマンスなどが挙げられます。建て替えで住まいを解体する際には、たくさんの廃材が発生し、建てる際にも大量の建材を費やすことになります。リノベーションであれば、大規模な間取り変更を含むスケルトン工事であっても、新築と比べれば建材の無駄が少なく済み、環境保全に繋がります。また、新築よりも抑えたコストで注文住宅同様に自分好みの住まいを手に入れることができることも魅力です。
ところで、皆さんはリフォームとリノベーションの違いは何だと思いますか?
両者と厳密に線引きできる定義はないのですが、「リフォーム」は老朽化した内装や設備を新築時の状態に戻す「改修」のニュアンスで用いられます。床や壁、天井の張り替えや水回りの交換など、部分的に手を加える場合は概ね「リフォーム」に当たります。
それに対して「リノベーション」は、住まいを根本から見直し、新築時以上の性能やデザイン、住みやすい間取りの空間に一新します。天井を解体して天井高を上げたり、水回りを含む大規模な間取り変更をしたり、全面的に手を加えるので時間もコストも掛かりますが、「子どもが生まれて部屋数が必要になった」「子どもが独立したので夫婦でゆったりと暮らしたい」「親と同居できるようにしたい」といったライフステージの変化にも対応できます。
ちなみに「コンバージョン」は建物の用途を変更することを指します。事務所や店舗、倉庫などを住宅にしたり、商業建築で言えば歴史的建造物を商業施設として蘇らせたりすることを指します。
「コンバージョン」と言えば、アメリカ・ニューヨークのSOHO地区。若き芸術家が使われなくなった倉庫や工場をアトリエなどに活用したことから、カルチャーの発信地となりました。日本でも、ビルを一棟購入して下の階を事務所、上層階を住居にしたり、倉庫を安く購入して快適に暮らせるようにしたり、柔軟な発想の方が増えています。
「住宅購入=新築」が当たり前だった時代から、「中古物件を購入してリノベーションをする」「用途にとらわれず、気に入った建物を購入してコンバージョンする」といった選択ができる時代が訪れました。皆さんも、予算やライフスタイルに応じて、より快適な生活ができる住まいを考えてみませんか?
斎藤若菜 住宅ライター
ラジオパーソナリティを経てフリーライターに。住宅・インテリア・不動産分野を中心として、介護・グルメ・トラベルなどのジャンルでも執筆。リフォームや注文住宅関連の住宅情報誌をはじめ、雑誌、書籍、新聞、インターネットなどのさまざまな媒体で取材・執筆を手掛けている。ARUHIマガジンでは、「住宅購入者ストーリー」などを担当中。
【引用元記事】https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-1085/
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