出産に関する先人の言い伝えで、「産後は水仕事や洗髪をしてはいけない」、「産後は目を使ってはいけない」といったものがあります。これらは、昔の水仕事は井戸水を汲んだり、川で洗濯板を使って洗濯したりと、冷たい水にさらされることが重労働であったことから。そして、不安定な蝋燭の灯りを頼りに裁縫をしたことで、眼精疲労をおこし、産後の偏頭痛を招いたという理由などから言われるようになったものです。「髪も洗ってはダメ!」などと厳密なものではありませんが、たとえば現代であれば、スマートフォンでSNSやインターネットをずっと見ているといった行動もなるべく避けた方が良さそうですね。
いずれにしても、産後は授乳やおむつ替えといった、赤ちゃんの世話以外は控え、最低3週間くらいはできるだけ布団の上で横になって安静に過ごすことが大切だと言われています。これは、お産直後の子宮は徐々に小さくなっていき、産後3週間ほどかけて元の状態に戻っていくことから。産後は「悪露(おろ)」と呼ばれる出血も続きますが、この量が減ってくるのもおよそ3週間が目安といったことからも理にかなった期間と言えます。出産で開いた骨盤が徐々に閉じていくためにも、体の回復を目的とした期間が必要なのです。体がまだ完全な状態へ戻っていないのに、元気だからといって料理や洗濯など家事をこなしていると、体調を崩してしまうばかりか、産後うつや出産後母体症候群などに陥る危険性も増してしまうということです。
産後ケアの重要さを提唱しているNPO法人マドレボニータでは、すべての女性が産後ケアを当たり前に受けられることを目指し、産後のこころとからだをケアするプログラムを各地域で開催しています。産後の身体に負担をかけないバランスボールエクササイズや、人生・仕事・パートナーシップなどを語りあう心のケア、美しい体型の作り方や呼吸法と骨格調整などセルフケアのレッスンなど、赤ちゃんと一緒に楽しく参加できるものもあり、外に出て誰かとお話しするだけでも気分転換になりそうです。
産後を穏やかに過ごすために、出産前から色々と準備をしておくことは大切です。特に、親世代と一緒に住んでいる人も少なくなり、サポートできる家族は夫だけ。その夫も出張続きで、頼りにはできないといったママに知っておいて欲しいのが、「産褥(さんじょく)入院」のサービスです。これは、出産後の入院期間を経て、さらに産後のケアをしてくれる施設で、入院しながら体を回復させていくケアのことです。施設によりサービス内容は異なりますが、赤ちゃんのお世話や授乳、沐浴などの方法を教えてくれる育児サポートや、ママの乳房のケアからカウンセリングなど、出産後のママの身体と心をケアしてくれる内容になっているようです。
母乳指導を受けたり、赤ちゃんのケアを学びながらゆったりと産褥期間を過ごしたいママなど、周囲のサポート不足以外の理由でも視野に入れておきたいサービスです。気になる料金は、1日1万5000円から3万円が目安のようですが、少しの負担金で利用できる自治体の産後ケアプログラムもあります。世田谷区では産後ケア事業として1泊2日のショートステイやデイケアで母体ケア、乳児ケア、育児相談、授乳指導、沐浴指導などのサービスや、臨床心理士によるカウンセリングなどが受けられます。
いずれにしてもお金のかかる話ですが、養生の大切さや今後の育児スタートを順調に切るためにも、産褥入院のできる病院や助産院など専門の施設や産褥シッターなど、充分な産後ケアを受けることも出産前に検討してみるのもいいですね。
お隣の韓国では、女優・モデルの小雪さんが第2子を産んだ直後に産後ケアで利用したことで話題になった「産後調理院」という施設があり、産後しばらくの間、母子ともに滞在して産褥期間を過ごすことが一般的になっています。「調理」という言葉には「療養」という意味合いも含まれており、少子化にも関わらず増加傾向にあるといいます。これも産後の養生の大切さを理解しているからなのでしょう。
出産後のトラブルは多いものの、日本では妊娠中の公的ケアは比較的行き届いていますが、「産褥入院」を含め、産後のケアについてはまだまだ確立されていないのが現状です。利用できる施設やサービスが充足していない地域もありますが、たとえば高齢出産で、産後の回復が遅く、育児の体力がなくなってしまうのでは?と心配なママ。また、双子を出産し、一度にふたりの赤ちゃんの世話をスタートさせる自身がない…などサポートが必要だと思うママは、こうしたプロによるケアの選択肢も視野に入れ、出産後や育児の不安をより軽減することを考えてみてはどうでしょう?
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