コラム

【涙あふれる猫実話】ようやく通じ合えた路地裏子猫「さくら」との早すぎる別れ

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【涙あふれる猫実話】ようやく通じ合えた路地裏子猫「さくら」との早すぎる別れ

コロナ禍で人々の在宅時間が増えたことにより、ペットブームが到来中です。とくに室内で飼うことができる猫の人気は高いそう。毎日に癒しとぬくもりを与えてくれる猫たちは、飼い主にとって家族同然ですよね。

ツンデレっぷりに振り回されながらも、その絶妙な距離感がまた心地良かったりして…。生きることに神経質にならざるを得ない昨今、猫から心のやすらぎや生きていく力をもらったという人はたくさんいます。

そんな猫たちとの暮らし、出会いや別れ、猫同士の愛情など、17本の実話を収録した『猫がいてくれるから』という本の中から、心温まるエピソードを1本ご紹介します。

今回は、幼いときから人間不信むき出しだった地域猫と、ゆっくり心を通わせた夫婦のお話。思いがけず早逝してしまったその子猫は、最後の力を振り絞ってふたりの前に姿を現してくれたのです。

さくらとの早過ぎた別れ

地域猫の溜まり場の路地に突如現れた子猫「さくら」

今から20年近く前の話になります。当時、私が住んでいた家のすぐ近くの路地には地域猫がたくさんいました。 近所の人たちが地域猫に対してやさしかったこともあり、その路地は猫たちのたまり場になっていたようです。 路地のあたりをウロウロしていれば、近所のおばあちゃんがエサを持ってきてくれるので、食べることには困りません。

夜はどこで過ごしていたのかわかりませんが、朝と夕方のエサの時間になると、猫たちが集まってきていました。ぽかぽかと太陽が当たって暖かい日中には、路地で日向ぼっこを楽しむ猫を何匹も見かけることもあったのです。

我が家では、私も妻もともに猫が大好きでした。路地で猫と出会ったときには、「元気にしてる?」と声をかけたり、いやがらない子はなでたり。そんなふうに猫たちとふれ合うことで、私たちも癒してもらっていました。

ある日のことです。私がたまたま路地を通りかかると、1匹の子猫の姿がありました。「あれ? 初めて見る猫だな」 まだ幼く、年齢的には2〜3カ月というところでしょうか。

路地をウロウロしていた猫のほとんどは、すでに避妊去勢手術をしていましたし、おなかが大きな猫を見かけたことはなかったので、子猫はどこかよそからやってきたのでしょう。母猫とはぐれてしまったのか、それとも誰かに捨てられたのか。

「おまえはどこからきたの?」 やさしく声をかけながら、驚かせないように近づこうとすると、「シャーッ」とものすごい形相をして、こっちにくるな!と子猫は訴えてきたのです。 

私だけが嫌われているのかな、と思っていましたが、いつも猫たちにエサを持ってくるおばあちゃんに対しても子猫は「シャーッ」と威嚇するのです。おばあちゃんの姿が遠ざかると、置かれたエサをパクパク食べていました。

子猫が路地をウロウロするようになってしばらくたったころ。 「あの子はまだ小さいから、保護して里親を探してあげたほうがいいのかもしれない」 近所の人たちとそんな話が出たのですが、当の子猫は相変わらず誰に対しても歯を剥き出して威嚇を続けていました。

「ぜったいにつかまるものか!」という気迫が子猫から伝 わってきます。「ここにたどり着くまでの間に、もしかしたら人間に何か嫌なことをされたのかも......」「無理に捕まえてもかわいそうかもしれない」近所の人とも相談して、しばらくそのまま様子を見ることにしたのです。 

しばらくして、名無しだった子猫は「さくら」と呼ばれるようになりました。さくら、という名前だと、メスかなと思われるかもしれませんが、実はオスでした。エサを持ってくるおばあちゃんが、昔飼っていた猫に毛色も含めてよく似ていたことから、その子と同じ名前をつけて呼ぶようになったのです。

ボス猫の「ふーこ」を介して私たちへの警戒心が解けていった

やがてさくらは1匹のメス猫と仲良しになりました。メス猫の名前は「ふーこ」。 ふーこは3匹きょうだいだったことから、昔テレビでやっていた「三匹のこぶた」の人形劇のキャラクター、「ブー」「フー」「ウー」にちなんで近所の人が命名しました。

ふーこはさくらより年上の成猫で、避妊手術もすでにしていました。 メスだけどとても気が強くて、ふーこはたまり場の中ではボス猫のような存在でした が、不思議とさくらにはとても穏やかに接していたのです。

さくらがふーこに顔や体をなめてもらって気持ちよさそうにしていたり、互いに寄り添って日向ぼっこをしている姿をよく見かけるようになり、そのたびにほほえましく感じました。2匹は仲良しの姉弟のような関係だったと思います。 

ふーこは人なつこい性格だったので、私や妻が路地に行くとすぐに体をすり寄せて、あいさつにやってきます。体をなでても、まったく抵抗することがありません。あごの下をなでてあげると気持ちよさそうな表情をしながら、のどをゴロゴロ鳴らしてくれます。私たちはさくらが現れるよりも前から、ふーこと仲良しでした。

ふーこが私たちと仲良くしている様子から影響を受けたのでしょう。あれだけ「シャーッ」と言っていたさくらが、日を追うごとにだんだんと私たちに近づいてきてくれるようになりました。外でしゃがんでふーこをなでていると、私の横にさくらが来て足元でくつろぐようにまでなっていたのです。

さくらはまだ1歳にも満たない子猫です。遊びは大好きなはず。猫じゃらしやネズミのおもちゃなどをさくらに見せると、最初はおそるおそる近づいてきますが、怖いものではないとわかると、楽しそうに遊んでくれるのです。「これはボクの大事な宝物だ」とでも思うのか、少し遊ぶとおもちゃをくわえてどこかに持っていってしまうので、さくらのためにといろいろおもちゃを買っていました。

ふーこを守ろうと男気を見せたさくら

さくらはこのまま地域猫として、ふーこたちと穏やかに暮らしていくのかな、と思っていた矢先のこと。ある日、明らかによそから来たオス猫にふーこが襲われそうになったのです。

「ウー!」と猫同士が威嚇し合う低い鳴き声が聞こえてきたので、外へ出てみると、ふーこを襲おうとしていたオス猫に対して、さくらが果敢に立ち向かっていました。「たくましくなったな」とそんなさくらを頼もしく思っていたのですが、翌日、さくらとふーこの姿がいつもの路地から消えました。

「2匹に何が起こったんだろう?」昨日のことがあったので、私は胸騒ぎがしました。妻と手分けして探すと、近所のお宅の物置の隅でふーこを発見。よく見ると首元の一部は毛が抜けており、ジュクジュクと血が滲んだ傷口は腫れていました。

おそらくあのオス猫に噛まれて、傷口が膿んでしまったのでしょう。動物病院へ連れていき、手当てをしてもらいました。でも、さくらはどこにいるのかわからないままでした。

さくらが見つかったのは、1週間がたったころでした。よろよろと歩きながら現れたさくらの姿に喜んだものの、抱き上げると羽のように軽くて力がありません。

すぐに動物病院で診てもらうと、レントゲン検査から、「肺に膿がたまっていて、もう長くはないでしょう」という診断で、耳を疑いました。さくらの体には、どこを探してもケガはありませんでした。おそらくふーこの傷口をなめてあげて、それが膿の原因だったのかもしれません。

翌日、さくらは息を引きとりました。野良猫ならば、人間から見えない場所で亡くなっていたのかと思うのですが、さくらは最後の力をふりしぼって私たちの前に姿を現してくれました。私たちを信じてくれていたのだと思うと......。出会ってから1年余りでしたが、さくらと心が繋がれたことがうれしかったのです。

さくらが亡くなってしばらくたったころ。 我が家の庭の植木鉢の裏から、さくらが隠していたおもちゃがたくさん出てきたのです。「こんなところに宝物を隠していたんだね」やっと人間に心を許し、おもちゃで遊ぶ楽しさを覚えてくれたのに。そんなさくらのことを思いながら、しばらくの間、涙が止まりませんでした。 

さくらに守られたふーこは、のちに我が家で引き取り、17歳になる少し前まで元気に過ごし、天寿を全うしてくれました。

Profile
名前/さくら
年齢/享年1歳
性別/オス
種類/ミックス(銀色と白)
性格/臆病だけどいざというときは男気がある
特技/宝物を見つからない場所に隠す 
好きなもの/日向ぼっこ ・おもちゃ

「涙あふれる猫実話」は他にもこんな素敵なお話があります!
▶認知症の母と愛猫ぎんちゃんがつむいだ絆

猫を愛するすべての人の心に響く17話のエピソード集

   

主婦の友社の会員サービス「@主婦の友(アトモ)」に寄せられた、思い切り泣ける、ほっこりなごめる、17の実話を収録。出会ってからお別れのときまで、猫とのかけがえのない日々のエピソードばかりです。

■猫がいてくれるから

フリーライター/小学生男児の母

出産前は女性ファッション誌の編集&ライターをやっていました。

現在は、暮らし全般、ファッション、美容などのコラム執筆が中心。
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